17-2 『狼王』になるために~ハヤトの場合~
『アスカとハヤトが覚醒する方法はずばり。
――『あの時』を再現することだ』
ライカの声が蘇る。
『ただし、ハードモードでね。
再来週の『ふしふた』の、ラストバトルを利用すればちょうどいい』
仲間たちはいいよと言ってくれた。そしてアスカも。
だが、俺は。
俺の、気持ちは。
いつしかひとり、『あの場所』に来ていた。
屋内プールを見下ろす、見学ラウンジ。
グリーンの非常灯だけが照らす、暗い室内。
ガラス越しに見えるプールは、白い監視灯で照らされている。
しらじらと輝く静かな水面は、故郷の町を流れる河を思い出させた。
悩み、迷ったときにはいつも、あの河べりから水面を見ていた。
そう、あの夜も。
「いたね、ハヤト君」
変わらないその声に驚き、振り返れば、あの女性が立っていた。
あの日のように。あの日と変わらない姿で。
「……オルカさん」
手の届かない存在となったはずの彼女は、またしてもいたずらな笑みを浮かべて、俺の隣に並ぶ。
「覚醒目指してるんだろ?
あたしも、その頃は悩んだよ。
だから、いると思った」
「……はい」
話すのが下手な俺を、しかし彼女は、ただ隣に寄り添い、待ってくれる。
「仲間が、仮説を立ててくれた。
俺が一番追い詰められたあの日を、ハードモードで再現すればと。
仲間たちのショーを利用して。……
クライマックスなんだ。それを俺たちのために使うと。
ほかの奴らは構わないと言ってくれた。
だが、俺は、……。
それでは同じだと思うんだ。
イツカがおれの四ツ星デビューのためにと、前二戦で消耗させられたうえで差し出されたあの時と。
俺を思ってくれるやつらを食い物にして、俺はのし上がらなければならないのか。
アスカを守るためなら何でもする。そんなことを言いながら、それでも今更そんなことにこだわり迷ってしまう。……」
まとまらない。やはり。気持ちだけで、バラバラと。
ぽんと、背中に温かいものが触れた。
「ハヤトは変わらないね。
好きだよ、そういうところ」
「すっ……?!」
いや、このことばに、そんな意味はないのだ。
彼女にとっての俺は、小さな小さな弟のような存在だ。
それでも、ドキリとしてしまうのは、男としての性か。
俺が最も愛する存在は、この魅力的な女性ではないというのに。
だが、彼女はわかってその言葉を使ったのだ。
俺の意識に波紋を立て、彼女の言葉をしみこませるため。
俺はそれを受け入れる。目を閉じて、彼女の声を飲み干す。
「据え膳というのはね、食べてもらってナンボなんだよ。
いつかのイツカもきっとそう。
大好きなハヤトに、立派な狼王になってほしいんだ。
仲間の成長を願う。それって、仲間の仲間たるゆえんじゃないかな。
そして、仲間がそうしてくれるなら――
そのチャンスをめいっぱいおいしく頂いて、次の機会に仲間のよき糧となればいい。
あたしなんかはそう思うけどね?」
低くやわらかな声が途切れれば、彼女はもういなかった。
けして押し付けない、彼女の流儀。
心は決まった。きっぱりと、踵を返した。
『狼王』になるために。
俺の成長を願ってくれた仲間たちと、もう一人の『仲間』への、最高の返礼を成し遂げるために。
ラウンジを出れば、アスカがひとり、待っていた。
昨日(2020.02.24)昼頃、第一部分の手直しをしたのですが、もしかしてそれがアプリの方で通知され、見に来てくださった方がいらっしゃるのかもしれません。ごめんなさい。
次回、オンラインラジオパート続きです。お楽しみに♪




