16-7 きつねとうさぎの課外授業!(3)
「イツカよけて!!」
ぞっとした。次の瞬間叫んでいた。
それでも遅かった。イツカは地面に叩き落とされていた。
赤のポップアップはBP4000。
使われなかった『斥力のオーブ』が、むなしく落ちて割れるのが視界の隅に見えた。
でも、そんなのどうでもいい!
「回復! 鎮痛!」
ぴくりとも動かないイツカ。唱えながら、駆け寄りながら、ポーションを投げる。抱き起こす。
「イツカ! イツカしっかりっ!」
「ぐ、は……いってえ……なにいまの……」
やられた。確かに先生は下には自由に動けない。素早く手足を振り下ろすこともできない。つまり上に跳ねることも実質出来ない。だから上下は安全地帯、そのはずだった。けれど。
「『縮地』がなければ、はめられていたな」
はるか上、天井付近から声が降ってきた。
先生だ。青の戦装束に白い羽をまとわりつかせ、キュウビの尻尾で姿勢を制御しながら、ゆっくりゆっくり舞い落ちてくる。
『ティアブラ』の『縮地』とはすなわち、すり抜け移動スキルだ。
一瞬だけ異次元にスリップし、所要時間に比して長い距離を、障害物を無視して移動するというもの。
「で、でも!
それでも『フェザー・フォール』からは逃れられない! 現に今だって!!
だからイツカを叩き落とすことは!」
「簡単なことだ。
俺は『上下の概念がない』異次元にわたり、そこで天井方向に移動した。
そこでイツカを引きずり込み、脳天に攻撃を加えると同時にこちらに戻した。
ただそれだけのことだ。
跳んでいるときのイツカは軽いからな。まったく簡単なことだったぞ」
「簡単……じゃ、ない……」
移行する異次元を瞬時に自在にセレクトすること。他者の引き込みと送還。
ただのSランクにはできえないこと。完全にチートだ。
一体全体こんなのに、どうやって勝てっていうんだ?
「考えろ。俺が地上につくまで猶予をやる。
果たせなければ、もう一度だ」
「っ……」
俺たちを見下ろす先生は、冷たい表情をしていた。
本気だ。おれたちがやれなければ、絶対にそうしてくる。
イツカを抱く手に力がこもった。ポーションののこり27本、ありったけ引っ張り出した。
神聖強化。神聖強化。全力でポーションにかけた。イツカに使うために。
先生の、温度のない声が問いかけてくる。
「なにをしている、カナタ?」
「イツカが痛くないようにです!!」
「俺は考えろ、と言ったはずだ。割られたくなければしまっておけ」
「っ……!!」
そんなの、あんまりひどい。こぼれ出しかけたけれどこらえた。
だってそうしても意味がない。そもそもこれはおれたちが望んだことなのだ。
そうだ、最悪おれが抱えてやれば、イツカへのダメージは軽減できる。
そう、おれが――
「なーんだ、簡単だな!」
「イツカ……?」
でも、イツカはおれを見上げて、ニカッと笑った。
「カナタ。技ってのはさ、使うやつがいて、有効範囲で発動して、相手に効かなきゃ『ない』のと同じなんだぜ?
これってえーと……そうだ。
『当たらなければどうということもない』!」
「……は?」
「だーから!
俺がセンセにつかまんないくらい早く動けばいーだろってこと!」
「え?」
「で、もしつかまっても吹っ飛ばないくらい重ければいーだろってこと!」
「はい?」
「でもって、攻撃食らっても平気なくらいえーと……まあそんなかんじで!」
「イツカ。
……ちょっと一発殴っていい?」
このトンデモお馬鹿猫は。もう、一周回って笑えて来た。
「よーし、カナタ笑った!
じゃーそれやってくるから!」
「えっちょ、イツカっ?!」
ブックマーク頂きました! ありがとうございます!
次回、山組かこっち、どっちかでクライマックスの予定です。お楽しみに!!




