1Re-6 もうひとつの『戦士昇格』
とりいそぎ、みんなに一斉送信で『ミライは無事』と知らせると、おれたちはカナン先生の車で『星降園』にもどることにした。
信号待ちの間に、懐かしむ口調で先生が言い出した。
「おまえたちがココにきたとき、見つけてくれたんだよな、ミライが。
で、カコさんが保護して、ウチに連絡してくれて。……
そっからの付き合いだよな、おまえたちとアリサカ家は」
「はい」
そう。おれたちがこのセカイに『生まれた』とき、見つけてくれたのはミライなのだ。
生まれたばかりのソナタを抱いて、夕暮れの公園に立ち尽くしているところに、声をかけてくれた。
名前以外の記憶もほとんどなく、わけのわからない状態で、ミライの存在はまさしく救世主だった。
一方のミライも、おれたちという『守らなきゃいけない存在』をみつけてお兄さんロスから立ち直ったという。
カコさん、ミライのお父さんのサンジおじさんもおれたちをなにかと気遣い、いろいろとお世話もしてくれた。
そしてミライのお兄さんのノゾミさんも、里帰りのたびいっぱい遊んでくれた。
「……きっと元気で帰ってくれよ、カコさんたちのためにもさ」
「はい!」
つまりおれたちとアリサカ家は、家族、じゃなかったら、親戚のようなものなのだ。
こころから心配してくれているかれらを、悲しませたくなんかない。
そのためにもはやく。はやくおれも100万TPを達成して――
ぐっと携帯用端末を握りしめたその時、ぶるぶると振動がきた。
画面をみれば『メール着信:3件』の表示。
「おい、それ開けろ。今すぐ!」
何かを直感した様子のイツカに促され、おれは表示をポチった。
まず一件目。
『件名:ティアブラ・通信販売部からのお知らせ
ホシゾラ カナタ様
いつもご利用ありがとうございます。
ティアブラ・通信販売部からのお知らせです。
おめでとうございます。あなたが出品していた商品が完売いたしました!
商品名:500ポイント固定ボム
備考:威力固定ボムを作ってみました。オーバーキルを避けたいならお勧めです!
出品額:200TP
出品個数:20個
手数料10%を引きました『3600TP』をホシゾラ カナタ様個人口座宛にお振込み致しました。』
「う、うそ?! マジ?!」
「すっげえじゃんカナタ! 次は?」
とりあえず、あとの定型文は読み飛ばしてつぎを開いた。
『件名:ティアブラ・オークションからのお知らせ<落札>
ホシゾラ カナタ様
いつもご利用ありがとうございます。
ティアブラ・オークションからのお知らせです。
おめでとうございます。あなたが出品していた商品が落札されました。
商品名:手作りのこじんまりしたテーブルセット
備考:依頼品として作りましたが、キャンセルとなったものです。アトリエに置いておいても傷んでしまうので、ほしい方にお譲りします。
出品額:500TP
落札額:100,000TP
手数料10%を引きました『90,000TP』をホシゾラ カナタ様個人口座宛にお振込み致しました』
おれもイツカも沈黙していた。
あとの定型文は、頭に入ってなんかこなかった。
おれのTP総額はたしか、ティアブラからログアウトした時点で93万2432だった。
所持BPは9520。冒険者ランクはA。つまり……
果たして、震える手でひらいた三件目は、おれの『ヴァルハラの戦士(見習い)』内定を知らせるものだった。
ひとり事態を把握できない先生が、怪訝な声できいてくる。
「おい、どうしたんだ。なにがあったおまえたち?」
「センセ、とりあえず車、路肩に止めて。
……カナタが100万突破。高天原行き、内定した」
「マジか――!!」
カナン先生はその瞬間、完全におれたちにむけて振り返っていた。
おれはイツカの機転に心から感謝した。