Bonus Track_16_2-3 泉の女神・シャスタのおためし~チアキの場合~(1)
2020.02.18
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エアリーお姉ちゃんと初めて会ったのは三年前のこと。
護衛任務でやってきたムートンの町が、そこから見える雄大なマウント・ブランシェの姿が気に入って、腰を落ち着けてしばらくの頃だった。
そのころから兼業クラフターをしていた僕は、マウント・ブランシェのふもとにやってきては、依頼された素材の採取をしたり、自作のクラフトを作ったり、ほかのパーティーの護衛兼ガイドをしたりして、のんびりと暮らしていた。
そんなある日、僕は出会ってしまったのだ。
大きな大きな、はぐれ熊に。
ありえない不運だった。
灌木の茂みを潰しながら転げだしてきたのは、Aランク超の大型スノーベア。
こんな、ふもとに現れるようなモンスターじゃない。
そしてその頃の僕はやっとBランクで、いつもの安全な場所での採取という事で――ほかに仲間もおらず、一人きりだった。
そんな絶体絶命のピンチを救ってくれたのが、エアリーお姉ちゃんだった。
ブルーのスカート、ひらひらの白のエプロンドレスをなびかせて飛び降りてきたお姉ちゃんが、いまにも折れてしまいそうな細腕をふるうと、どうっ! と圧倒的な気流が渦巻き、巨大スノーベアを山へと打ち上げたのだった。
そして、お姉ちゃんは……
そこまで思い出したときシャスタさまの、笑いを含んだ声が聞こえてきた。
『ほう……
なかなか見る目があるな。牧羊犬の、そして白猫の。
しかも長くこの山中にて働き、肉体の陶冶も充分なされている。
ならば、扱うことができよう――これを』
突如僕の左手の甲に、青い輝きが突き刺さる!
痛みに近い清涼感が引けばそこには、青の宝玉がはめ込まれていた。
『シャスタの泉水晶。
時空を超え、我らが力を受け取ることのできる超レアアイテムぞ。
大切にするがいい』
「なっ、マジかよ……ですかっ?!」
あがった叫び声(たぶん、心の声)に隣を見れば、トラオくんも僕と同じように、自分の左手を顔の前に掲げてる。
ただし、トラオくんがみているものは指輪。水色の水晶をあしらったシンプルな指輪が、左手の小指にはまっている。
僕の声も、トラオ君に負けないくらいに震えた。
「こ、こんなすごいもの……頂いちゃっていいんですか?!
だ、だって、これっ……」
まるで、ぐっとひつじミルクをのみほしたときのような力が、ぐんぐん湧きあがってくるのを感じる。
これは……すごすぎる。
これは神さまが姫巫女や、聖騎士に授けるようなものだ!
『ふむ、そうじゃな。
おぬしらに扱いきれぬようならば、返してもらうとするかの。
もちろんレンタル料はたっぷりと頂くがな?』
すると、さらに楽しそうなくすくす笑いとともに、がばり。
僕たちを包んでいた泉の水が、音を立てて引いていった。
もとに戻った視界の中、大きな泉の真ん中で。
見上げるほどの水柱が、渦巻きながら姿を変えていく。
すらりとしたフォルムに、水の色と質感をそなえた、巨大な水龍に。
『試練じゃ。戦ってみるがよい。
後ろの皆も、参戦するならこの部屋に入れ。殺さぬように手加減するゆえな』
同時に水龍は、口元に巨大な水球を作り出す。
このエフェクトは……ブレスがくる!
僕とトラオくんは必死で防御姿勢を取る。
「うそつけええええ?!」
『あ、死んだら即蘇生してやるのでノーカンで☆』
「皆まだ来るな! 神聖防壁!!」
「神聖防壁!!」
アスカくんが冷静に、後ろで色めき立つみんなをとどめる。
そうしてリンカさんとともに、ブレスの範囲だけに全力を集中し、神聖防壁を張ってくれた。
けれと次の瞬間、どおん、すさまじい音がした。
重ねがけの防壁は、一撃で粉々に。
おなかに衝撃、耳にもビリビリ。いったんはじき返された水が、雨のように降り注ぐ。
「よし。入るぞ!」
フユキくんが冷静にみんなに呼び掛けると、他の皆も岩室に突入してきた。
アスカくんが軽い口調で言う。
「ひゃー、こりゃきっついねー。
おれらもお守り頂いたけど、これは全力案件だなー。てわけではじめよーか!
ハーちゃん!」
「おう!」
僕たちは、急いでフォーメーションを整えながら、事前に決めていた『その状況ですぐに発動できる補助』を使っていく。
僕たちの声と、バシャバシャバタバタという足音が入り乱れる。
「神聖防壁!!」リンカさんが後退しつつ唱える。
「クイックアクト!」水龍との距離が詰まらないうち、レンが使い切りの護符を発動。僕たち全員の速度が上がる。
「ムーンライト・ブレス!」トラオくんは前衛右サイドに動きつつ自己強化。
「耐水」フユキくんは冷静にスクロールをひらく。
「サンシャイン・ブレス!」しんがりから、後衛の前に移動していたアキトくんが自己強化。
「強化ー!」ハルオミくんは後衛で使い切り護符を。
「スターライト・ブレスっ!」前衛にいた僕は、その場で自己強化を使う。
そんななかにひとつ、パンッという心地よい音が響いた。
そちらを見ないでもわかった。アスカくんとハヤトくんが、すれ違いざまにハイタッチした音だ。
「『セイクリッド・フルブレッシング・オール』!」
同時に、ハヤトくんの力強い声。たちまち、クリスタルのような虹色の祝福が僕たち全員を包んだ。
神聖強化、漸次回復、全異常防御。僕たちを包むエフェクトが一気に華やかさを増す。
ハヤトくんは僕たちの前へと駆け抜けながら抜刀。
ライカくんについた神聖防壁を利用し、すでに迫ってきていた第二波――水龍がたたきつけてきた、巨大な水翼を叩き返してくれた。
あわわわ?! ブックマークありがとうございます!
(直前で書き直してちょっと遅れました……m(__)m)




