16-6 きつねとうさぎの課外授業!(2)
「なら、そろそろいくか。
イツカ。お前の次の一手次第では、カナタが吹き飛ぶことになる。心して選べ」
「……なっ?!」
先生がパワーチャージを開始。
イツカは追いかけるようにチャージしながらおれに叫ぶ。
「カナタっ! 防御固めろ、俺は次でいいっ!!」
イツカの声は小さく震え、動きも若干固くなった。
とくに強敵を相手にする場合、支援回復役を死守するのは鉄則だ。
けれど、おれがひとり穴熊戦法を取ったとして、先生からの『完全に吹き飛ばすつもりで放たれるなんらかの攻撃』に耐えられるだろうか?
神聖魔法でしのぐのは無理。
『瞬即塹壕』で地下に逃れればそのまま『詰み』だ。
適宜アイテムを投げてやることができなくなれば、イツカはすぐに倒される。
機動力を失ったおれも、すぐに狩り出されてエンドとなる。
となればおれが、取るべき手は!
「了解! いくよイツカ!」
「え?!」
先生の動きがチャージで鈍っているこのタイミングで、強化のポーションをまとめてイツカに投げることだった。
5本投げて全弾命中。これで、先生の80%には相当するはずだ。
「お前、全力で先生を止めるんだよね。
おれがそして、お前を支援する。
つまりおれの『防御』の強さは『お前』の強さってことだ。
間違ってないよね、イツカ?」
「……ああ!」
そしてイツカは、チャージした力を自らの強化に回す。
「『ムーンライト・ブレス』!」
淡い金色の輝きがイツカの全身を包む。
猫やうさぎなど、月とゆかりが深いとされるけも装備に共通の、ベーシックな自己強化スキル。ムーンサルト・バスターのもととなっている、ハンター系の技だ。
強化された状態で発動した強化は、一気にイツカの力を引き上げた。これで、先生の95%には届いたはず!
しかし、先生はふっと一つ息を吐いてそれを超えてきた。
「『日精月華』」
こちらも強化スキル。ただし、レアけも装備用の上位バージョンだ!
金と銀の輝きの粒が、キラキラ舞うように先生に集まっていく。
すると先生のパワーは一気に1.5倍に。またしても差を広げられてしまった。
「だいじょぶだよイツカ! お前ならできるから!!」
いや、ここで折れてどうするか。おれはイツカを鼓舞しつつ、すかさずもう5本投げる。今度は神聖強化で効力を増して。
よしよし、これで最初の先生の120%。いいペースだ。
「まずは第一問クリア。及第点だ。
で、カナタ。手持ちの残りはどれほどだ?」
「まだ二倍はありますけれど?」
「そうか。なら構わないな。
『精気収奪』」
「っ!」
イツカはとっさに飛びのくが、一瞬で二割持っていかれてしまった。おれは再び強化のポーションを投げて、その分を補った。
きつね系装備の必殺技のひとつ『精気収奪』。対象のステータスの一部を奪い、自分のものとするやっかいな必殺技だ。
さいわい効果範囲は狭く、せいぜい手を伸ばして届く範囲まで。
しかし、これが来るとなると、イツカは攻め手を封じられる。
イツカが一番結果を出せるのは、相手の懐に飛び込んでの直接攻撃。
サブとしての位置づけにある斬撃では、いまの先生にはほとんどダメージが通らない。
「カナタ、俺はもういいから! お前が!!」
だがそういいつつ、イツカは果敢に攻めかかる。
斬撃を次々飛ばし、『精気収奪』の効果範囲ギリギリの距離でうろついて、先生の注意をひきつけはじめる。
となれば、やるしかないだろう。
一気に地を蹴った。スキル『超跳躍』発動。複雑に宙を、壁を蹴って跳びつづけ、狙いを絞らせずに先生の頭上を取る。左ももの魔擲弾銃を抜き、声を張る。
「イツカよけて!
『ムーンボウ・サンクション・キャンセル』!!」
もともと、左にはこのためにボムを装填してあった。
まずはフレアボムで、視覚聴覚を阻害。跳びまわりつつ、アイス、ブリッツ、クレイとぶちまけ、最後に追い風のオーブですべての弾速を上げる。
弾倉に残した一発は回避・着地用の『斥力のオーブ』だが、おれはこれを自由落下しながらの『瞬即装填』で差し替え。
『斥力のオーブ』と『フラッシュ・グレネード』と『フラッシュ・グレネード』と『フェザー・フォールのボム』と『治癒のグレネード』、『斥力のオーブ』にする。
装填の終わったちょうどそのとき、爆風をついて先生がおれの目の前に姿を現した。
もちろん、大したダメージも通っていない。
眼鏡の向こうの目は閉じていた。近距離に近づいて撃ってくるのが『フラッシュ・グレネード』であることを予測したのだろう。『超聴覚』をたよりにおれを捕捉しようと跳んできたのだ。
かまわない。先生に向け、四回立て続けに引き金を引いた。
目を閉じた先生の手が宙をかいた。やった。
先生は読みを外されたことに気づき、目を開けないまま狐の耳を伏せるが、おれも目を閉じかまわず連射した。
フラッシュ、フラッシュ、フェザー・フォール。
目を開けられないままの先生は、気配を頼りにこれらを切り払うが、それこそ狙い通り。
『フェザー・フォール』の白い羽がふわりと咲いて、先生の移動を一部制限。下方向への移動をほぼ封じた。
『フェザー・フォール』の効果は、『落ちるものを強制的にゆっくりとしか落下できなくする』こと。横や上に行くなら勝手だが、下方向には宙を蹴っても羽根の落ちる速度でしか移動できなくなる。
それは、武器を振る動きについても同様。
つまり、いま先生の下は安全地帯となったのだ。
おれは宙を蹴り、先生の真下へ。目のくらんだ状態のイツカに『治癒のグレネード』を打ち込む。
グレネードを頭にくらったイツカは、その飛んできた角度から先生のだいたいの場所を割りだし、視力回復よりも先に地を蹴ってくれた。
よし。おれは右の魔擲弾銃を抜く。
しっぽを振ってくるイツカのかかとにむけ、すれ違いざまに左から一発。右から、イツカの見ている天井の一点に向け一発、『斥力のオーブ』を撃ちだした。
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
昨日は心配おかけしました!
うさぎのせんせいがなかなかでてこない……!!




