16-3 スイート・スイート・100本ノック!
『それじゃー! フルブレ100本ノック、はじめー!』
「セイクリッド・フルブレッシング・オール!!」
『えいっ』
「セイクリッド・フルブレッシング・オール!!」
『そいっ』
そしていま、冗談みたいなトレーニングが開始された。
アスカと手をつなぎ、補助を受けたハヤトが『セイクリッド・フルブレッシング・オール』を発動する。
ライカがハヤトに、親指の爪ほどの小さな、特殊なあめ玉を投げる。
ハヤトがそれをパクッと食べれば、頭上に『TP+1』という白い、キラキラしたポップアップが上がる。
そうしたらハヤトがまた『セイクリッド・フルブレッシング・オール』。ライカがまた、ハヤトにあめ玉を投げて……
これを、100個のあめ玉を使い切るまで、えんえんと繰り返すのだ。
イツカとアオバ、ハンター猫コンビがにゃあにゃあと驚きの声を上げる。
「すっげー! 何マジ、これってTP消費1だけで発動してんのかっ?」
「しかも連発とか! どんな裏技だよ!!」
「裏技じゃないよ、ふたりとも!」
「そっか、ふたりは神聖魔法ぜんぜんやってないから、知らないんだっけ」
「詳しくお願いします!」
するとミライとミズキ、プリースト系のふたりがかわるがわる解説してくれた。
「まずね、ハヤトが一回『セイクリッド・フルブレッシング・オール』を使うの。
すると、ハヤトのTPはどれだけあっても強制的に1になるの。これはいいよね?」
「はい!」
「ここで『ティア・ボンボン』を食べてもらうと、ハヤトのTPは1回復して2になる。
すると、その時点でまた『セイクリッド・フルブレッシング・オール』が使えるようになるんだ」
「……え??」
「『セイクリッド・フルブレッシング』系の魔法はね、TPが2以上あれば使えるんだよ!」
「マジか!」
「ほんとだよ。
聖騎士が使う奥の手、決戦の切り札という位置づけの魔法だからね。
そして、これを使った聖騎士本人が先頭に立って斬り込めるように、TPは絶対に1残る。
つまり、あえてTP2で使えば、消費は1で済んでしまうんだ。
いうなれば『セイクリッド・フルブレッシング』系の仕様をうまく利用した方法だね」
「ほえー……!!」
イツカとアオバが猫耳ピコピコさせつつ感嘆の声を上げる。
二匹、もとい、二人そろうとなんか可愛い。
「アスカの発想力はほんとにすごいね。
まさか『ティア・ボンボン』の1ポイント回復を利用するなんて、目からうろこだよ。
ミッドガルド教会のみんなにも教えてあげたいなあ」
「ほんとー!
それにこれだと『ティア・ボンボン』もいっぱい食べられて、いいものねっ!」
「ミライってば♪」
ミライのかわいらしい発想に、その場がほんわかする。
「ティアいちごサンド……!」
「ティアチョコケーキ100本ノックなら俺もいけそう!」
「食べすぎだろ!」
ミツルがしあわせな想像で目を輝かせれば、イツカもそんなことを言い出した。まとめて突っ込むのはアオバだ。
そう、いまトレーニングに使われている『特殊なあめ玉』とは『ティア・ボンボン』のこと。
ミッドガルドではポピュラーなお菓子で、食べると1ポイント、TPが回復する。
小さな子供へのご褒美に使われたり、結婚式や各種お祭りで配られたりする、綺麗な色をしたボンボンだ。
回復効果がささやかすぎなので、もっぱらおやつとしての位置づけしかなかったアイテムだが、こんな使いみちがあるなんて。
聖騎士に転向したのち、早く熟練度を上げたいひとたちにとっては福音である。
「ありがとうね、ミルク組の三人にも手伝ってもらっちゃって」
「お互い様ってことよ! な、コトハちゃんにクレハ!」
「あ、はい!」
「俺たちには、むしろありがたかったよ。
指名で依頼してもらえるなんて、ここではほとんどないことだったからさ。
しかも報酬も多めにしてくれて、本当に助かる。こちらこそ、ありがとう」
もちろん、ボンボン作成依頼を受けられる、クラフターにとってもだ。
今回作成を引き受けてくれたチナツ、コトハさん、クレハの表情は明るい。
「山組が行き詰っちまってるいま、俺たちも若干ヒマしてたからなーってうわっ?!」
「だったらティアチョコケーキ作れねえ?!」
「ティアいちごサンド!」
「ひゃああああ?!」
うっかり『ヒマ』なんて言ってしまったチナツ、一羽と一匹もとい二人にたかられて大慌て。もちろん、おれとアオバで取り押さえる。
「こらおまえたち!
気にしないでチナツ! こいつらスイーツの頭になってるだけだから!
与えないでいいから! 食べすぎになるから!」
「ごめんねチナツ、おどろかせて」
「あ、あの!」
しかし、コトハさんがはにかみながら手を上げる。
「ちっちゃいの、なら……
いちごひとかけらサンドとか。ケーキ用スポンジをチョコでくるんで、チョコボールにするとか……
それなら、食べすぎになりにくいし、かわいいし……」
「おっ……おねがいしますっ!」
二人は子供のように目を輝かせると、ペコン! と頭を下げる。
まったく、あんなキラキラされちゃったら、もう止められない。
アオバとおれは苦笑しあい、コトハさんに頭を下げた。
「あの、ごめんねコトハさん。
後でちゃんと、依頼として出すね。あくまで余裕のあるときでいいから」
「うちのくいしんぼ猫のおねだりでもあるし、迷惑じゃなければ、おれも責任もって手伝うよ。いいかな?」
「はっはわわわ?! えと、はい、その、はいっ!!」
そこにサクラさんたちが『スイーツー!!』ととっこんできて、さらにはニノが『それ売れるんじゃね?!』と乗り出してきて……
『うさねこ特製ひとつぶ回復スイーツ(仮)』開発プロジェクトの開始がどたばたと決まったのだった。
「まて……ストップ、もう、限界!
トレーニング効果がある、のはわかるが……これだけ甘い味が続くと、頭が……」
『おっ、覚醒近づいたかんじ?』
「そうだとしても……そう言いたくない……感じ……」
一方、ボンボン100粒ノックは途中で中止していた。
ハヤトが甘みに耐えられなくなったためだった。
げんなりした顔でその場に座り込み、頭を抱え込んでいる。
「うーんー、だめかー。
苦手な甘みで追い詰められて、覚醒来るかと思ったけどなー」
「そっちかよ!!!!」
テヘペロを決めるアスカに、その場の全員が突っ込んだ。
しかしアスカは、華麗に話を切り替える。
「でさでさー。いま気になるワードが聴こえたんだけどちなっちゃん?」
「あー! そうそう、それ!
やっぱ今日もあんま探索進まなかったってさ。で、やっぱメンツ変えないかって話になってるんだ。くわしくはプロジェクト掲示板な!」
「まじか! ちょいまって読んじゃうねー。ハーちゃんとライカは休んどいて!」
アスカは携帯用端末を手に取り、『プロジェクト・シープ』掲示板に上げられた報告をチェックし始めた。
『ブクマさんが減ったと思ったら増えていた件』
ありがとうございます!
これはうさみみのせいか……うさみみのせいなのか?!
次回、メンバーチェンジしようと決める回。
やばい、プロットに穴があった。いつものパターンです。
大丈夫何とかなる。お楽しみに!




