15-6 くろねこイツカと、おにぐんそう~ライカのにゃんにゃん☆ブートキャンプ~(1)
「ハヤトさ……こないだの実習こんなすっげーとこでやってたのか?! ぶっちゃけ広すぎね……?」
「俺も驚いてる……
あの時は生徒だけでも10人いたし、講師がノゾミ先生だったから、ここまでとは思えなかったんだが……」
「あいつ一体何させる気なんだろ……まさか、走らされるとか……」
「え、アスカにもわかんないの?」
時は、日曜の午後。
場所は、闘技場の一角、第一練習用フィールド。
おれとイツカ、アスカとハヤトは装備と持ち物をととのえて集結していた。
この第一フィールドの大きさは、校庭の大グラウンドほどもある。
たった四人が特訓するには、どうにも広すぎるように思われた。
今日は、他が空いていなかったのだろうか?
そんなことを言いあっていれば、本日のコーチが姿を現した。
あたりを圧し濃く漂うは、まごうことなき強者のオーラ。
助手のミライにつれられて、木刀を杖代わりにしたそいつは、ゆっ、くりとした足取りでおれたちのまえに立つ。
しかし彼の言葉が終わったときに、おれたちは口々に叫んでいた。
ティアブラの『けも装備』がもたらす装備効果のうち、最も特徴的なものは『けもスキル』。
その最高峰が、『覚醒技』だ。
熟練度A+など、いくつかの条件を満たして開放される強力な技だが、条件の詳細は謎。
しかし謎を謎のままにするのもあれなので、おれたちは手分けして情報を集めてみたのだ。
まず、ルカとルナはこう言っていた。
『あたしは打ち込み稽古してる時にひらめいたのよね』
『わたしは、瞑想してるときだったなあ』
ノゾミ先生とミソラ先生、マイロ先生。
アカネさん、レモンさん、ライム、エルカさん、トウヤ・シロガネ。
黒服のタカヤさんも当然卒業生だったので、片っ端から会いに行き、あるいはメールやコールで聞いてみた。
装備覚醒済みの四ツ星数名からも、ミズキのツテで話を聞くことができた。
だめもとで突撃してみた、面識のなかった四ツ星も、半数程度が教えてくれた。
その結果は。
『バラバラだ……』
『バラバラだね……』
それでも集計してみると、バトル中やトレーニング中が最も多かった。
そのため、まずは修行だな! ということで、アスカとハヤト、おれとイツカはライカをコーチにむかえ、特訓を開始したのであった。
けれどおれたちの前に立ったやつは、そこまで漂わせていた『強者感』を自ら完膚なきまでにぶっ壊す。
「はいはいー。みんなそろったかにゃー?
それではさっそく『ライカのにゃんにゃん☆ブートキャンプ』はっじまっるよーん!」
すなわち、猫耳堕天使メイドのコスプレで、あざとさ全開のにゃんこポーズを決めてきたのだ。
「なんでだよっ!」
おれたち四人が最初にしたことは、もちろん奴へのツッコミだった。
「なんだっていまコスプレ?!」
「そのポーズで木刀かよ?!」
「そもそもその『にゃんにゃん』ってなに?!」
「っていうかなんでまたおれの顔なのっ?!」
「えー? ノリ!」
うん、きいたおれたちが馬鹿だった。
しかしもろ手を挙げて絶讃しているやつもいた。
「すばらしい! すばらしいよライカ君っ!
ネコミミ堕天使メイド(♂)とはまさしく天使! 君となら夜のバ」
もちろんこんなものをミライには聞かせられない。おれはすばやくミライの耳よっつをふさぎ、アスカがその発言をぶった切った。
「はいはいバトルが無理な下僕はくたばる準備をしとく!」
「スパイシー!」
「っていうかなんで来てるんですかレイン理事」
「ふっ、もちろん『視察』だよ。
わたしが何者かお忘れかね、カナタくん?
――なにをかくそうわたしは高天原統括り」
もちろんおれは笑顔でぶったぎる。
「それ今の発言の後で大きな声で言ってて恥ずかしくないですか?」
「ぐっは!」
その場にくずおれるレイン理事。しあわせそうだ。
「カナぴょん……あんまりレインを甘やかしちゃだめだよ。
カナぴょんなしで生きられない身体になっちゃったらどーすんの? うざいよ?」
「そうだね。こんなに大きい生き物、ライムも置き場に困るものね。イツカ一匹ぐらいならまだしも」
「はうっ!」
「ねえなんで俺にとばっちり来てるのっ? しかも単位が人間用じゃないし!」
「えー? ノリ。」
「ひでっ!」
そこまでをワンセットで済ませるとおれはミライを(よしよししてから)解放。
イツカを軽くなだめてライカに向き直った。
「それで、どういうメニューで行くつもり?」
「そうだねー。まーとりあえずー……」
小首をかしげて考えていたライカだが、ニコッと笑うと木刀を地面にたたきつけた。
「40秒待ってやる!
お前ら全力で、かかってこいやァ――!!」
もちろん哀れな木刀と半径30mの地面は粉々になった。
なるほど、やけにフィールドが広かったのは、そういうわけか。
かくして唐突なレイドボス戦は始まったのであった。
今回の設定は『バトルシミュレーション』。
そのため、設定した武器防具アイテムはすべて使用可能。
なおかつ、破損したものや使用したものやポイント、ダメージもすべて、戦闘終了と同時に元通りになる。
VRゲームの便利なところだ。
だが今回最もありがたかったのは、もし何らかの理由で精神的外傷を追ってしまったとしても、その部分だけ消去もできるというところだろう。
ライカの強さは、悪夢そのものだったのだ。
「神聖強化!
ハヤト、ブーストする。セイクリオールで!」
「ああ。
『セイクリッド・フルブレッシング・オール』!!」
アスカがまずおれたち全員に神聖強化。そしてハヤトに手を差し出した。
ハヤトもエイリアスのライカとフルリンク。アスカの手を取り、その補助を受けながら高位の神聖魔法を使用した。
クリスタルのような虹色の祝福がおれたち四人を包み、ハヤトの戦闘用TPは1に。
すかさずおれはTP大回復のポーションをハヤトに投げた。
「これは今回、あと9本あるよ。
適宜投げるけど、必要なら言ってね」
「おう!」
「りょか!」
「っしゃ行ってくっぜ――!!」
同時にイツカが飛び出す。
今回はイツカがメインの前衛だ。
ぶっちゃけ、やつだけ補助ができないためだ。
黒いふさしっぽがふり、とふられた、よし。
いつもの通り、『斥力のオーブ』はすでに装填してあった。跳ねたかかとへ『抜打狙撃』ふたつ。
たちまち音速を超えたイツカはしかし、悲鳴を上げて空中で停止した。
ななななな……
ブ、ブクマとIN一丁頂きましたっ! ありがとうございます!!
あわわわわ、が、がんばります!!
次回、ライカ無双(決着)。
ゲーム中だからこそできる超スキルを利用した、ちょっと面白いあれも出します。お楽しみに!




