14-4 高天原・ごちゃまぜケーキバイキング(2)
「そういえば、『ハルオさん』。
理事会の人たちってみんなαのようですけど、ホントに高天原卒業生なんですか?
以前、ある方がモンスターに襲われかけたところに出くわしたんですが……」
言うまでもなく、それは先日のこと。彼が、巨大鉄刺蜂とハヤト相手に怯え、腰を抜かしていたときのことだ。
αプレイヤーとは、国防戦士養成機関である高天原学園を卒業した猛者のこと。
であれば、そんなことはありえないはず。
百歩譲って、鬼おこハヤトがガチ狼レベルに恐ろしかったとしてもだ。
『ハルオさん』はティーカップを手に取りのどを潤すと、落ち着いた様子で語り始めた。
「ああ……。
種々の理由から、卒業していないものもいるよ。
それでもαである理由は、君も想像つく通り。
タカシロやソレイユ、シロガネ……高天原の名家に生を受けたものは、生まれながらに『みなしα』となるためだ。
仕方のないことだ。真に優秀と証明されたもの以外いられないのでは、おちおち出産もできないってものだからね。
まあ実際、名家の子らのほとんどは、しかるべき年齢で高天原学園に入り、卒業して名実ともにαとなり、高天原を支えていく人材となるんだ。
……『ほとんどは』、ね」
紅茶色の水面に視線を落として、タカシロ理事、いや、レイン・クルーガー・タカシロ氏は微笑む。
そのやるせない目の色に、なんとも切ないきもちになった、そのときだった。
「あーやっぱここだったー! やっほー!」
後ろから陽気な声が割りこんできた。
アスカだ。その後ろには、ハヤトとライカ。
アスカはいつも通り、ピンクとブルーと金色に髪を染め、デコ眼鏡と魔改造した制服。ハヤトはふつうの制服をきちっと着込んでいる。ライカはアスカの顔で、ミニスカメイド服を着た女子の姿をとっていた。
「あれ、どうしたのアスカ。なにか起きたとか……」
「うんにゃー。偶然を装って乱入に来ましたー!」
「口に出したら台無しだろ!」
「てへっ?」
ハヤトが思わず、といった調子で突っ込めば、アスカはお手本のような『テヘペロ』を決めた。
一方でレイン理事はライカを目にした瞬間がたっと立ちあがる。
「おおお、ミニスカメイド服の美少年っ! さあさあ遠慮なくわたしの隣にっ!」
なんだろう。いまおれがこの人に抱きかけた真面目な心情が、音を立ててぶっ壊れた気がする。
「ちょ、ライカきみいま男なの? じゃあ胸のそれは何っ?!」
「詰め物!」
そしてアスカとライカの問答で、そこらの空気が変な形で凍り付いた。
店内の、そして通りすがりの野郎どもが(※純真なミライとチョコケーキに夢中のイツカをのぞく)、衝撃を受けた顔でライカを見ている。
「いやーアスカの顔で女体化メイド服はよせって言われたしー」
「うん、どっちにしてもメイド服でおれの顔は止めてね? これ命令だから。マスター権限での」
「わかった、じゃあゴスロリにするー」
「だからまず顔を変えてっ?! 違和感ないとかそういう問題じゃないからっ!!」
「俺、帰っていいか……?」
ハヤトが頭のふさ耳をぺったんこに折る一方で、美少年大好き野郎はウハウハだ。
「はあ、なんという幸せの花園! アスカ君の下僕にしてもらってほんとよかったよ!
なかみジジイの傀儡ばかりの管理派で枯れていく毎日とくらべたらまさしく天国と地獄!
というわけでアスカ君、ちょっとだけ……」
「寄るな変態。」
おさわりを冷たく拒否られた変態は幸せそうな顔をした。ハヤトにむっと見られれば、さらに嬉しそうな顔をする。いや営業妨害にならないかこれ。
一瞬心配になったが、さりげなさを装った女子グループが三つぐらいるんるんと入店してきたのでいいことにする。
ところで我らがグループの女子勢はとみれば、さりげなく静かになっていた。
立ち耳装備をしているのはミライとレモンさんだけだ。しかしほか全員の『心の耳』もこっちを向いてることは、見えずともひしひしと感じられる。
「あ、かまわずかまわずー」
「うんうん、デイジーきいてないよー」
なんでこういうとき棒読みの人に限って返事するんだろう。っていうかいちおう軍のエリートじゃなかったんですかレモンさんとジュディ。
おれは軽く頭痛がしてきたので、そのことは放棄して話に戻ることにきめた。
もっとも、アスカがうまく水を向けてくれたので、軌道修正はたやすかった。
「でさでさ。カナぴょん『ハルオさん』となんの話してたの?」
「ああ、とある理事の身の上話。
なんか、高天原に入れなかった……みたいな流れになってたんだけど……」
「ああ、それはホントだよ。
やつは高天原に入ってないんだ。
……たまにはいるよ。
傀儡たちの本体も在任中はみなしαになるし、タカシロ宗家の血を引いててもβとして外で育つものもいる。よくあることさ、身分と実力のズレなんてね」
意味ありげに微笑むアスカ。後半はおそらく、自分のことなのだろう。
このこともいずれ聞かねば。こころのメモ帳にしっかりと書き留めた。
「っと、それはおいといて、あいつのことね。
んー、くわしくは『ハルオさん』から聞いた方がいいだろうね。
チョコケとモンブラン取ってきたげるからごゆっくりー☆」
「あ、どうも……」
アスカはそれだけ言うと、あっさりとケーキテーブルに向かっていく。
乱入、というからには張り付いてくるかと思ったのだが、ハヤトも一瞥をくれただけ、ライカも、別にこだわる様子もなくるんるんとついてゆく。
「いや、何しに来たのアスカ?」
「『スイーツ』と聞いて甘いものを食べたくなったんだろうね。アスカはそういう子だから」
「あー……。」
「話を元に戻すとだね。
どうにもダメだったんだよ、バトルってやつが。
『ティアブラ』はVRゲーム。しょせんはアバターという傀儡ごしに味わう、ふわふわのファンタジーにすぎない。
……それでも、ダメだったんだ。
そんなわたしに残されたのは、タカシロの血をもつ生きた人形としての道だけだった」
いつもありがとうこざいます。
次回でいちおうごちゃまぜケーキバイキングはおしまい。
プラスおまけ(明日か明後日)のあと、新章突入となります(予定)。お楽しみに♪




