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<ウサうさネコかみ>もふけも装備のおれたちは妹たちを助けるためにVR学園闘技場で成り上がります!~ティアブラ・オンライン~  作者: 日向 るきあ
Stage_98 終結・魔王戦!~あの月を目指す、その前に~

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The Final Epidode_ぼくの選択~『ゴーちゃん』と呼ばれる少年の場合~

 長い長い、夢を見ていた気がする。

 でも、それが本当にあったこと、本当に過ごした時間だということはすぐに分かった。

 何度も、何度もこう言われたから。

 もう三か月も生命維持装置のなかだったのよ、助からないかと思った、目が覚めてくれてよかったと。

 涙でぼくを抱きしめる、家族に、友達に。


 でも、そのなかに、あのひとはいなかった。


「あ、あの、……」


 のどを抜けてきた声は、だいぶかすれていた。

 それでもぼくは、全力で問いかけた。


「マリオさん、……マリオさんは……?!」


 そう、マリオさん。

 ダメダメなぼくの小説を暖かい目で読んでくれて、幻想のハコニワの森の奥までぼくをさがしにきてくれて、自分もそこに、飲まれかけて。

 それでも、いっしょにがんばって、ぼくをもういちど人間に戻してくれた、たいせつなあのひと。


「まだ、目が覚めていないのよ。

 だいじょうぶよ、じきに……」


 みなまできかずに、ぼくは体を起こしてた。

 ちょっとふらっとした。気合でふんばる。

 ささったままの点滴が腕をひっぱる。ちょっと痛かったけど、思い切って引き抜いた。

 うわがけをはねのけて、ベッドの下に靴をさがすのももどかしく、ぼくはかけだした。


 父さん母さん、看護師さんの腕もすり抜けて、病室のドアを抜けようとしたその時、カーッと滑ってくる人がいた。

 点滴スタンドをキックボードよろしく使って、白馬の王子様もかくやの鮮やかさでやってきたのは。


「おう、ゴーちゃん! 目、覚めとったんやな!!」

「マリオさん!!」


 ほかでもない、入院着すがたもきまってかっこいい、マリオさんだった。



 もちろん、ふたりしてきっちりお叱りをうけた、ぼくたちだけど……

 その後に待っていたのは、びっくりするようなお客さまと申し出だった。

『ほしふり出版代表取締役 星ノ木 ちとせ』という名刺を差し出して、ぺこりと頭を下げてきた優しそうなお姉さんは、ぼくたちにこういったのだ。


「単刀直入に申し上げます。

 手記を、書いてみませんか」……と。


『ガーデン』に魂を飲み込まれ、プロジェクト『ソウルクレイドル』で生還した、ぼくたちの体験記を、本にしたいという。


「ええやんええやん! やろうでゴーちゃん!!」


 マリオさんは、まるでわがことのように目を輝かせた。

 けれど、ぼくは。


「あの、…………かんがえさせて、ください」


 そういうのが、精いっぱいだった。



 ちとせさんが帰ってから、マリオさんは優しくぼくに聞いてくれた。


「どないしたん、ゴーちゃん?

 書籍化。ゴーちゃんの、ゆめだったやろ?」

「えと、……書籍化、は。それは、すごいけど……

 ちがう、んだ。

 ぼくは、ぼくのものがたりを、本にしたくて。

 それに。

 ぼくたちが、みてきたこと。すごく、すごかった、けど……

 だからこそ、うそだって、つくりばなしだっていうひとも、いるんじゃないかって。

 ばかにするひとも、……きっといるよ。

 人間のくせに、小説書こうなんて、してて。

 だってのに、たいした文章でも、なくって。

 ダメで、あんまりダメで、VRに逃げて飲まれちゃった、さえない中学生が。

 モンスター使いとして、モンスターとして大活躍して、かわいいアイドルと仲良くなって、……って。

 きっと、笑われるよ。そんなの、中二病の、妄想のものがたりだって……!」


 マリオさんは真剣な目で、ぼくをみていた。

 ぼくは、少し迷ったけど、言ってしまうことにした。


「文章で、……ぼくは迷惑かけちゃったんだ。もう、文章は、かいちゃダメなんだ。

 落ち着いたら、サイトのアカウントも削除して、……

 人間にもできるような。現実的な目標探すよ。

 勉強して、どこか、ぼくみたいな不器用でも働ける進路、みつけて」


 ぼくの情けないことばをマリオさんは、いつものように、口を挟まず聞いてくれた。

 そうして、あったかく抱きしめてくれた。


「……そっか。そうやな。

 やっぱ、こわいよな、ゴーちゃん」


 ぽんぽん、背中をたたいて、頼もしい笑顔を見せてくれた。


「ほな、原稿は、ウチがかくわ。

 こんっなイケメンが書いたおハナシだったら、そんなことは言われへんやろ?」


 そういうマリオさんは、すっごくすごく、イケメンで……

 うん、こんなひとがその物語を書いたって、ぜったい笑われることはない。すなおにそう思えた。


「ただなあ……知ってるやろ?

 ウチ、作文ドへったくそやねん。

 ゴーちゃんが手伝ってくれると、めっちゃありがたいねんけど……」


 そんなイケメンに上目遣いで拝まれたら、とってもことわるなんてできない。

 そうじゃなくとも、マリオさんはぼくの恩人だ。

 そのたすけになれるならと、僕はそれを引き受けた。



 それから、一週間。

 ぼくは、リハビリの合間をぬって、マリオさんの原稿をチェックし続けた。

『てにをは』や接続詞をなおしたり、誤字脱字を見つけたり。

 ときには、このシーンどう表現したらいいかわからないんやたすけて~! と泣きつかれて、いっしょに文章を考えた。


 その時間はたのしくて、たのしくて。

 気づくとぼくは、メモアプリにちまちまと、文章の切れ端を書きためていた。

 もうだれにも迷惑かけないために、自分の文章を書くのはやめよう。そう、ひそかに思ってたはずなのに。


 さらにそれから一週間。

 ぼくはついに、マリオさんに打ち明けた。

 ぷるぷると、震えながらだけど。


「あの。あんなこといっといて、なんだけど。……

 書きたい。やっぱ、書きたい。

 へたくそって。中二病っていわれるかもだし、……

 それは、やっぱりこわいけど。

 がんばって。勇気、出して……!」


 すると、マリオさんはいい笑顔で笑った。


「よういってくれたわゴーちゃん~!!

 ほな、書こ。いっしょに。

 でもな。そんなひっどいメにかわいーゴーちゃんをぜったいあわせたりせーへんで! さっそく作戦会議や!!

 だいじょうぶ。つよくってかわいくって、ゴーちゃんもぜったい信頼できるブレーンちゃんたちがドーンと来てくれるさかいな!!」


 さっそくマリオさんはどこかに通話をかけ始めた。

 一時間しないうちに現れたのは、かわいいうさみみとねこみみをはやした、見覚えのある、ありすぎる子たち。


「え、……イツにゃん、カナぴょん――?!」


 プロジェクト『ソウルクレイドル』。

 そのなかで知り合った、最強サイコーのアイドルバトラーたちだった。



 ――マリオさん&ゴーちゃん。

 プロジェクト『ソウルクレイドル』が成功に終わったのち、参加者たちの手記が出版されたが、圧巻といわれるのがこの二人による一冊。

 そのスペクタクル的な内容と書き手の背景を鑑み、よけいな疑義を産ませぬためにとカナタたちが提案した作戦――『ティアズ・アンド・ブラッズ』のプレイ動画の公開と合わせての出版も、大きな追い風となった。

 人間ならではの不完全さを有した筆致が、むしろリアリティと読み応えを増すと、AIたちにも人間たちにも広く評価を得た。

 その後もこの二人は、タッグを組んで執筆をつづけ、周囲のあたたかな手助けの中、さらなる高みを目指している。

これにて物語は完結です!

明日、あとがき等を上梓いたします。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

まずは御礼まで!!

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