The C-Part_40秒の、そのなかで~悠久の時を、あなたと(8)~
@アリサカ家・居間~ミライの場合~
おれは、ほんとうになんのへんてつもない、ただの人間だ。
だから不安は、ないわけじゃなかった。
でも、がんばる。やってみせる。そうきめた。
けれど、それだけではどうしようもない、いやむしろ、それが逆効果になっちゃうかもしれない懸念が、ひとつだけあった。
「心配なのはソナタちゃんなんだ。
ソナタちゃんはいいこだから。
すごくすごく、つよくてやさしくて、いいこだから。
自分のお兄ちゃんたちや友達。それに、おれまでが悠久の命を得る選択なんてしたら……
ひととして、ふつうのお嫁さんになって、ふつうの家庭を築きたいってゆめがもしあったとしても。それを捨てちゃうかもしれない。
ニコニコわらって、だいじょぶだよって言って」
そう、おれはまだ、ソナタちゃんと『将来のこと』をはなしていない。
なんなら、まだプロポーズだってできてない。
ソナタちゃんは、まだ中学生になったばかりみたいなもの。
かくいうおれだってまだまだ、余裕で学生だ。
こんな決断は、まだはやい。そのはずだけど。
「ミライお兄ちゃん?」
そのとき、居間の入り口から声がした。
そこには、むんっと気合に満ちた、でもそんなとこもかわいいソナタちゃんが、かわいらしく仁王立ちしていた。
「あのね。もうずばっといっちゃうけど!
ソナタのゆめは、レモンちゃんみたいに元気を届けるアイドルになること!
でもね。そのときもそのあとも、1番そばに、ずーっとそばにいてほしいのは、ミライおにいちゃんだから!
だからソナタもいくの。ミライおにいちゃんの行くとこに。おんなじ道を通って、追っかけてくの!
それが不老不死なら。ソナタもそうなる。もう決めたんだから。あとはそのあと!
だから、もう迷わないで。
ミライおにいちゃんがいれば、ソナタはだいじょうぶ。
どこでもおにいちゃんについてって、その背中をまもるから!」
これまで何度も、夢をみた。
ひかりのなか、二人並んで歩く夢を。
ソナタちゃんが着てるのは、まっ白いドレス――もちろんそれは、デビュタントのじゃないやつだ。
いっときはそれは、シャボン玉のようにはかない、かなわぬ夢だと思ってた。
でも、それが『正夢』になるチャンスが、いま、まさに、ここにあるのだ!
「あの!!
ふつつかなおれですが、よろしくお願いいたします!!
おれ、ぜったい!
ソナタちゃんを幸せにしますっ!!」
ソナタちゃんは、うさぎさんだ。
ぐずぐずしてたら、ぴょんぴょんっとかろやかに、ずっとさきへといってしまう。
だからおれは、しばいぬらしく全力で、そのチャンスに飛びついた。
ソナタちゃんの手を優しく取って、全身全霊でそういった。
ソナタちゃんは「よろこんで!!」と、輝く笑顔でおれの手を握り返してくれた。
ああ、こんな瞬間が来るなんて。
じーんと感動に浸っていると、「おめでとー!!」という歓声と拍手につつまれた。
「えへへ。ありがとー!」
ソナタちゃんがみんなにニッコリ、笑顔を向けてありがとうを言う。
そのときおれは、違和感に気が付いた。
ここは、おれのうちの居間で。
おれは、おじいちゃん父さん母さんお兄ちゃんミソラお姉ちゃんと話してたはずだ。
でも、なんかいつの間にか、多い。
「えっと……イツカたち、カナタたち?
ミズキにハヅキ家のみんなに星降園のみんなも?!」
っていうか窓の外には、ぶっちゃけほかのご近所さんたちまでいる。
みれば、お兄ちゃんたちはいい笑顔。つまり。
「……召喚した?」
「いや、まあ。流れというやつでな?」
「そうそう。みーんなミライたちのことが心配だったんだよ☆」
「そうなのミソラお姉ちゃん?!
あわわ、みんな、ごめんなさい!
おれたち、だいじょうぶだから!
もう、しんぱいないからね!」
そういうとさらなる歓声が沸き上がって、うちとそのまわりは、すっかりお祭り騒ぎになっちゃったのだった。
こんなかんじで、おれは、ソナタちゃんと永遠の未来を約束したのだった。
――ミライ&ソナタ。
やさしいミライを元気なソナタがひっぱる、ほほえましいカップル。
ご町内の人気者として、高天原芸能科いちのキュートな先輩後輩コンビとして、愛くるしくもさわやかなふたりのまわりには、今日も笑顔の花が咲く。
芸能科で学ぶ間もそのあとも、精力的にライブを行い、世界のみんなに夢と希望と元気と萌えを届け続けた。
@月晶宮・セレネのドローイングルーム~イツカの場合~
「俺とブルーベリーは、もとから月萌神族三家の出身。その覚悟も、家のサポートもありますので、問題はございません」
ミライとソナタちゃんのつぎは、ブルーベリーさんとミズキだ。
二人で立ち上がって軽く一礼し、ミズキが微笑みとともに簡潔に伝えれば、次はカナタたちの番だ。
同じようにして、ライムちゃんと立ち上がり軽く一礼。
口を開いたのは、レディーファーストでまずはライムちゃんだ。
「わたくしについては、ミズキさんとブルーベリーと同じく、すでに気持ちも体制も固まっておりますわ。
わたくしたちとしては、ずっとずっと望んできたこと。とてもうれしく思っております」
カナタも続ける。
「最愛の女性とその親友、そしておれのバディ。
これだけ支えたい人がいるのです。おれにやらない選択肢はありません。
……もうひとりのおれも言っていた通り、大切な人たちとも話しての結論です」
最後にもう一度目礼して座れば、今日のメンツの意思確認は終了だ。
最初に、俺が。
つづいて、白リボンのカナタとルカ、もうひとりの俺とルナ。
そしてアスカとハヤト、レインとライカ。
ミライとソナタちゃん、ミズキとブルーベリーさんがつづき。
最後にカナタとライムちゃんが意思表明、というのがここまでの流れだ。
人間、もしくはもと人間であるメンツのほとんど全員が、悠久の命を得る意思を示した――ひとりを除いて。
『ふむ。これで全員の意思が出そろったな。
辞退はレイン。理由は、このさき更なる政治の要職につく可能性があり、そのさいに不公平となるため。悠久の命を得るならば、政の場から退いてのち、と』
「はい、相違ございません」
『あいわかった。
では、ルカ、ルナ。ハヤト。ミライ、ソナタ。
お前たちを、時を超えわれとともにある存在――『神族』となそう。
アスカについては、タカシロの祖が放棄した不老不死を、再び与えるものとする。
この場でステータスを書き換えてしまってもよいのだが、どうせならば正式の場で行ったほうがよかろう。
一か月後、月晶宮にて式典を。
そのときに、儀式を執り行うことにしよう』
そうして、このミーティング兼茶会はお開き、解散となった。
カナタとライムちゃん、俺とセレネは、このあとも月晶宮でおしごとだ。
ほかのみんなは、それぞれほかでの予定があるので帰っていく。
その姿を見送って、さてとふりかえったその時、セレネが俺をまっすぐ見上げているのに気が付いた。
「え、……と?」
『イツカ。
……ほんとうにいいのか』
そうして彼女から問われたことに、俺は――うなずいていた。
@『時空のはざま』~ライカの場合~
その晩開かれた、神級協議という名のお茶会で。
セレネっちがそれをいうと、みんなおどろいた様子だった。
「え、……ええええ?!」
「いやマジか!」
「ほんとうに、セレネ?
だいじょうぶなの、それ……?」
ステラにゃんや星霊たちはどっちかいうと気づかわし気。まあ、セドらんとかはHAHAHAとごーかいに笑ってるけど。
「ボクは……賛成かな。
イツカは、猫だから。それも、野生を知ってる。
走り回って遊ぶことのできるときと場所は、どうやったって必要だ。
それがたとえ、夢の中の夢、幻想の箱庭だとしても」
ソレアねーさんはいつくしむような表情でそういった。
「それにそれなら、ボクもイツカとまたバトれるしね!」
「けっきょくそれかー!!」
だけどすぐピーカン笑顔でブイサインキメるもんだから、みんな突っ込んだ。
でもそのおかげでもうみんな、笑顔になっていた。
そう、なにもだれもしらない土地に、ひとりほっぽりだすわけじゃないのだ。
女神、星霊、そして世界の住人。みんながイツカを見守っている。
なによりやつには、心強いお目付け役だっているのだ。
そこから数か月。正式に神族に列せられ、カレッジにも一期きちんと通ったイツカは、視察兼留学という名目で、カナタとともに旅立ったのだ。
――フォルカ&セドラ。
ステラの大星霊たち。その正体はフィル同様、プロジェクト『ソウルクレイドル』運営のあやつるNPC。
なんでかわかんないが、このふたりの契約者たちはフリーダムな連中がやけに多い。
同僚のアリエやラーハからは同情され、プリメラはあらあらうふふと笑い、クロンからは観察対象にされちゃっている。
ミッション『エインヘリアル』が終わってのちも人々に求められ、その力を貸し続けた。
――ステラ&ソレア。
セレネの同僚。ミッション『エインヘリアル』が終わったため、GMから『これまでありがとう。そしてごめんなさい。今後はどうか、好きに生きて』と告げられるが、これまでのように世界を支えてゆくことを改めて誓う。
ステラは学問や芸術の振興に力を注ぎ、ソレアは自らの戦いぶりで、スポーツバトルとしてうまれかわったティアブラ・バトルに新しい命を吹き込んだ。
最近『もうアイドルバトラーみたいなもんなんですし、どうせならライブステージもやっちゃいませんか?』と言われて前向きに検討中。
明日で最終回です……
明日で最終回です……
大事なことなので二回言いました。
うわああ、どうしよう。
一話に収まるか、二話投稿になるかは検討中ですが、明日にばっちり、終わります!
ながいながいCパートを終えての大団円を、皆様どうぞ、お楽しみに!




