The C-Part_40秒の、そのなかで~悠久の時を、あなたと(6)~
遅くなりました!
急遽『ふき』を煮る羽目になってですね、えらく時間とられましたorz
取り急ぎ投稿まで!
「……それなんだけどさ。
あたし、いずれ一線を退こうと思ってる」
ミッション『エインヘリアル』が廃止されてひと段落がついたころ。
あたしたちは集まってその後のことを話し合った。
そのときあたしは、ここ数年考えていたことを口にした。
「え……」
「ど、どうして?
レモンさん、なにかつらいことでも」
ルカとルナは驚いた様子。
そこからはほんとうにあたしを慕ってくれていることが分かって、ぎゅーっとしたくなった。
でもまずいまは、説明が先だ。
「そういうんじゃないよ。
たださ、そろそろ不公平かなって。
……あたしはもうずいぶん長くアイドルやってる。この姿と声のままで。
若さや実力を自分の努力で懸命に保とうとしている人たちがいる一方で、あたしはただ、生まれながらに与えられた力でここにいる。
もちろん彼らにしたって、天与の才とめぐりあわせがあってスタートラインに立てたわけなのだけれど、これはそれとはわけが違う」
二人は不安そうな顔。
だいじょうぶだよ。おいてなんかいかないよ。
あたしはニッコリ笑って見せた。
「……だからあたしはいずれ、別のステージに進もうと考えてる。
後進育成に力を注ぐんだ。そうして、後に続くみんなを応援する。
もちろんふたりのこともね」
そう伝えれば、二人ともほっとした顔になった。
「そうですか。
それじゃあ、わたしはあなた方を支えつづけることにします。
可能ならば、悠久の命を得て」
「タカハシさん!」
エミ――エミ・タカハシは、もともとあたしをはじめとした、何人かをマネジメントしてくれていたマネージャーの一人だ。
けれど同期たちの入れ替わりを経て、いまではあたしとルカ、ルナだけの面倒を見てくれている。
その彼女が、そういう気持ちになるのは十分理解できる。けれど。
「ルカとルナには、もうした話だけれど。……
エミ。すこしザンコクな話をするよ。
あたしたち神族三家と、エミたち人間は、同じようで大きく違う。
あたしたちはもともと、悠久の命と、その時間に耐えられる精神を与えられて生まれてくる。
でも、人間はそうじゃない。
覚悟や信念、愛情で支え続ければ可能なことだけど、『可能』ってことと『できる』ってことは別物だ。
一番つらいのは――
愛するひとたちを、何度も見送ることになることだ。
その覚悟はどうしても必要になる。
ね、エミ。
大事に思うひとたちみんなと会って、よく相談して、そのうえで決めたこと?
もしまだあっていないひとがいるならば、一度、その人とも会って。話してみて。
きっとまた来世で会える。そう思っていても、悲しいものは悲しいからね」
「両親と、主たる友人とは、もう話しました。
けれど、レモンさん……いえ、レモンちゃん。
わたしが人間の生を選び続けたら、あなたは友達兼戦友を、ひとり見送ることが確定しちゃうじゃないですか。
だからわたしも、いっしょに歩きたいの。
あなたが『おわり』をえらぶ、その日まで」
「エミ……!!」
お説教に帰ってきたのは、涙が出るようなそんな言葉だった。
あたしはテーブル越しに、彼女をぎゅっと抱きしめた。
あたしは神族三家ソレイユの一員。
仲良くなったひとたちのほとんどとは、いずれ生きる時間がずれていく。
だれかと恋し、結婚したら、そのひとにはどちらの『時間』を選ぶか、その葛藤に直面させることになる。
だから、本気の恋も結婚もしない。
わたしの人生に人間を引きずり込むことは、しない。
そう決めたのはずっとずっと前で、それは今も変わらないけど。
それでも、それでもついてくると断言してくれる真の友がいてくれることは、どうしようもなくうれしいものと、あたしはこの日思い知った。
――レモン&エミ。
この数年後から、徐々に一線を退き、後進育成に注力。
それでもレモンのパフォーマンスは衰えるどころかますます輝かしく、エミのマネジメント手腕はあとにつづくマネージャーたちのあこがれとなった。
ふたりのゴールデンコンビは、最終試行の終わりまで続いた。




