The C-Part_40秒の、そのなかで~悠久の時を、あなたと(5)~
@月のティールーム~赤のカナタの場合~
『さいしょの戦いのとき、俺はお前たちにひどいことを言ってしまった。
そのことを詫びさせてもらいたいんだ。どうか一度、会いに来てもらえないだろうか』
ルクからの伝言を伝えると、ミツルとソラは二つ返事で了承。
おれたちの立ち合いのもと、『第二期試行アタックチーム+エルカさん』が一堂に会し、その席でルクは頭を下げた。
「ミツル、カケル。
前世のお前たちが戦死したのは、お前たちの責任なんかじゃない。
だというのに、俺はひどい暴言を吐いてしまった。
本当に、申し訳なかった。どうかこのとおり、詫びさせてくれ」
するとソラはふるふるとかぶりをふった。
「俺に謝らないで、ルク。
俺には、それを言われるだけの落ち度があったから。
俺がもっと強かったなら。あのとき生き残ることができてたなら、ルクをひとりぼっちにしなかった。
こちらこそ、ごめんなさい」
「いいんだ。いいんだよ。
ミツルを見捨てるなんて、させられるもんか」
まっすぐな目できっぱりとそういうルクは、どこかイツカをほうふつとさせた。
これが、ほんとうのルクなのか。
おれたちがみてきた『御大』とは、まるで別人に見える。
「俺だって、セレナだけはどうやったってあきらめられなかった。
だから、同じなんだ、カケル。
お前はわるくなんかないよ」
「ありがとう、ルク」
二人はしっかりと握手して、微笑みあった。
ミツルもそこに手を添える。
「そのことは俺にも言える。
そもそも俺が、もっともっと強ければよかったから。
俺からも、同じように言わせてほしい、ルク」
「ミツル……
じゃあ、俺からも同じように。
ありがとう。
ふたりとも、心からありがとう」
ルクはその手にさらに手を添え、三人は暖かく手を取り合い、笑いあった。
それを見守るおれたち、そしてセレナさんもエルカさんもニコニコだ。
「それじゃあ、これでわれら一同、仲直りということで。
めでたく乾杯といこう」
エルカさんの音頭で、旧勇者一行はみんな笑顔でティーカップを掲げた。
もちろん、立ち合いのおれたちも。
かんぱいとにぎやかに声を掛け合い、おれたちはひとつのお茶をいただいた。
この少し前に、おれたちはせつない事情を知った。
ルク――尊城竜空が、長くひとりぼっちだったのには、もうひとつわけがある。
セレナさんは竜空と同時期に一度生を受けたものの、まもなく命を失ってしまっていたのだ。
想定されたシナリオでは、こうなるはずだったという。
ステラ国のソロイ・イングラム氏とその妻セリカ・ユエさんの間に、セレナさんが生まれ……
その後、セリカ・ユエさんの父親ロイド・ユエ氏が、商家の一員として月萌を訪れた際、尊城家の令嬢瀬空さんと恋に落ち再婚、二人の間に竜空が生まれ。
ロイド夫妻のもとをソロイ夫妻が『孫の顔をみせに』と訪れた際、竜空とセレナが出会い、やがて平和のために手を取り合うようになる。
しかし、ステラ国の情勢は当時厳しく、セリカさんはセレナさんを産むも死産。セリカさんの体のダメージも大きく、ふたたび子を望むことは絶望的となってしまったのだ。
子供世代への転生は、ルールによりできないことになっている。そのため、セレナさんの母となるセリカさんの転生は二世代あと、セレナさんのふたたびの誕生はその次世代となり、その間ルクは待ち続けることになってしまった。
もっとも竜空が前世の記憶を取り戻したのは、セリカさんが再び生を受けたしばらく後、18歳当時のことなので、『待っていた』期間はその分少なくなるのだけれど。
そこから計算すると、『尊城竜空』の実年齢は200には足りない。
それでもあのとき『200年生き続けてきた』といったのは、第二期試行の分を足して考えてしまっていたためと聞いた。
それでも、いま目の前にいるルクは、むしろおれより年下くらいに見える。
『ショタジジイ』と自分で言ってしまうのも納得だ。
しかし、人のことを笑えはしない。
おれはイツカやライムとともに、限りなき命をもらって、セレネさんを手伝うことに決めた。
つまり、いずれ、おれもこうなるのだ。
……うん。なんか。なんともビミョーだ。
「ふぉふぉふぉ。お茶のおかわりはいかがですかな?」
そんなことを考えていれば、いいタイミングでヴァルさんが声をかけてくれて、おれはごまかすようにお代わりを申し出たのだった。
――ヴァル。
ルクとセレナにつかえる老執事。
かわいいふたりを愛でていると実に幸せだそうな。
最近はツーリングから一歩飛び出し、月面ホバーにはまっている。
その乗りこなしっぷりは若者顔負けのアクロバティックである。
次回、ルカとルナと、ささえてくれるひとの絆の予定でございます。
どうぞゆっくり、おつきあいくださいませ!




