The C-Part_40秒の、そのなかで~悠久の時を、あなたと(2-B)~
@ソリステラスのとある公園内・ガーデンティールーム~シエルの場合~
ぼくは、うさぎだ。
うす青いけなみの、おみみのたれた。
といっても、それは仮の姿。
本態は、天狼フィルのチカラと意識を分かたれ形成された、小さな光の球。
だからこそ、さまざまな姿をとることもできるというわけで。
ごしゅじんさま――シグルドさまの試練のとき、ぼくと相棒は、わるいやつにおっかけられてるかわいそうなうさぎとねこの演技をして、その反応を見る役目をした。
シグルドさまは、たぶん、ぼくたちをたすけるだろう。そう予測はされていたけど……
実際にであったあのひとは、予想よりもずーっとあったかくって、紳士的で。
こころから、『ごしゅじんさま』って呼べた。
だからフィル様はぼくたちを、ごしゅじんさまに遣わした。
そしてぼくたちは、ごしゅじんさまのうさぎとねこになった。
青いけなみのぼくは、シエル。黒いけなみの相棒は、ノワール。
そんな、素敵な名前をつけてくれたのは、ごしゅじんさまと、婚約者のサクヤさま。
おふたりはぼくたちの首に、きれいなリボンを優しく結んでくれて。
きょうからよろしくねと、やさしい笑顔で撫でてくれた。
それは、すっごくうれしくて。
これから、このひとたちをまもっていこう。素直にそう思えた。
おふたりはとってもラブラブで、いつもいっしょにいるけれど、たまに離れる時もある。
そんなとき、ごしゅじんさまはぼくたちをサクヤさまのボディーガードとして残していかれる。
ちょっぴりさびしいけれど、ほこらしくもある。
だってそれは、ぼくたちがたよりにされてるってことだから。
そんなわけで今日、シグルドさまがフィル様のブラッシングからかえってくるまで、ぼくたちはサクヤさまのおともをつとめる。
サクヤさまはもう、プリメラ様の加護を受けてるけど、そこははなしをとおしてもらっているのでだいじょうぶ。
おうちからそう遠くない、バラの花盛りの公園にごいっしょした。
そこではおともだちのマールさんとシャルちゃん、スバルちゃんと会ったので、みんなでお茶に。
ぼくたちは動物じゃないのでお茶とかも平気だけれど、優しいティールームのご主人は、ぼくたちのために動物用のお茶をふるまってくれた。
『しんせつなおじさんだね』
『うん。
ここのにんげんたちは、みんなやさしいね!』
そんなふうにノワールといいあっていれば、ふいに空気がシリアスになった。
きけばスバルちゃんは、昔なじみの男の子が気になり始めて。
それをきっかけに、人生の選択を考え始めたのだという。
ぼくたちには、寿命などない。
けれど人間には、ある。
そして、場合によっては、寿命を超える手立てがある。
選べてしまうから、迷ってしまう。
スバルちゃんへの結論は、これからゆっくり考えればいいというものだった。
彼女はまだ小さな女の子だ。こころに抱いた淡い思いの行く先がみえるのも、まだまださき。
そこから考えてもいいじゃないかと、マールさんとサクヤさまは言った。
そのかえりみち。ぼくたちは、サクヤさまにきいてみた。
「サクヤさま、サクヤさま」
「サクヤさまは、どうなさるんですか?」
「そうね。
……わたしは、シグルドさまについてゆくわ。
あの方が悠久の命をもとめるなら、わたしも。
人としての人生を燃やし切りたいと思うならば、ともにそうする。
……そうしたいの。愛してるから。
あなたたちは? あなたたちは、どうしたいと思ってる?」
「ぼくたちは……」
もちろん、おふたりについていく。
そうこたえた。
だって、そうしたかったから。
ぼくたちも、このやさしいごしゅじんさまが、とてもだいすきだったから。
「そういってもらえると、うれしいですね」
ふわっと吹いてきた風が、やさしい声を運んできた。
みればそこには、ごしゅじんさまがやわらかく笑っていた。
――シグルド、サクヤ。
このすこし後に結婚。三人の子供に恵まれる。
こどもたちが独立し、親世代をみおくったのち、ともに悠久の命を得て、最終試行のおわりまでイツカ・カナタにつかえつづけた。
サクヤの琴の弾き語りは世界のひとびとの心を癒し、平和維持に大いに奏功した。
シグルドはいつのまにか白カナぴょんファンクラブ会長に上り詰め、世界にカナぴょん愛を広げ、深めるために合法的なあらゆる手を尽くした。
――シエル、ノワール。
シグルドがもらいうけたフィルの分体。サクヤのボディーガードを務めることも多い。
ふたりを「だんなさま」「おくさま」と呼んでつかえる姿が可愛くけなげだと大人気。そのため二人の動画にはいつも出演した。
ちなみに、普通の軍人相手なら無双できるレベルに強いが、そのチカラを発揮する機会はほぼなかった。




