The C-Part_40秒の、そのなかで~旅立つ者たち(5)~
@『月送り』の宴の会場~コウジ・タカシロの場合~
ルク派というものが消えてなくなるまで、わたしはその成員であったとそう思っている。
あのときアスカ様に頭を下げたのは、そもそも月萌が滅びては元も子もない、そう判断したためだ。
『御大』は、その決断に感謝を述べてくださった。
そして、『ツクモエマザー』――セレネ様も。
そのおかげで、今があるといっていい。
わたしはいま、誰かに糾弾されることなく、ここにいる。
盃を手に、月を見上げて。
今夜は満月。
あの月に、お世話になったあの方々は無事、おつきになっただろうか。
そして、心穏やかな酒を飲んでおられるだろうか。
月の空にかかる、大きな地球を見上げながら。
そうだといい。そうであってくれますように。
そう言いあいつつ、われらは盃を開ける。
あの方々がここに、地上にいたころのように。
――アカシ&コウジ&アオイ・タカシロ。
全員タカシロ分家の者たち。あくまで親戚同士であって兄弟ではないが、親しい者たちには『信号ブラザーズ』などと呼ばれていた。
得意分野を生かし、管理派として、ルク派として動いた。
『御大』をいたく慕っており、彼が月で働くようになったのちは、月と地球を行き来しながら、月萌と世界のために働いた。
@空のうえ~とある元・指揮官の場合~
月へのお召しは意外と早く、あれから数年の後に訪れた。
もとより、天命を受け入れるつもりだった。
妻はまだ若く、子供たちもこれから。その人生を、年寄りの世話で縛らせたくはなかったから――
かねてより、無理な延命はしないでほしいと意思表示を行い、そのときにむけての準備もしっかりと進めていた。
思えは仕事人間だった私。
一線を退く前には、子供が家出したことも、妻と離婚寸前になったこともあった。
それでも、妻子は泣いてくれた。
数少ない友、元部下の中にも心からの涙を見せてくれたものがいた。
イツカ様がたが泣いてくださったのには、すこし驚きながらも、あの方らしいと思われた。
このさき、この方々は幾度こうして泣くのだろう。
それを思うと、不憫な気持ちにすらなる。
それでも、わたしにできることはもう、なにもない。
私の人生は、終わりを告げた。前を向いて、進んでゆくだけだ。
視点はすでに、体の目からは離れていた。
横たわる自分の体を見下ろし、その命運を見定めた私は、さてと顔を上げる。
するとそこには、透き通るような輝きに満ちた、ふたりの天使がほほ笑んでいた。
「お疲れ様です、ようこそこちらへ」
「さあ、ともに月へ。
皆様のための宴が始まります」
「宴……?」
伝承に聞いていた。死したもののもとには、美しい天使が迎えに現れ、ついてゆけば月の宮殿での宴と、ゆったりとした楽しみの日々とが待っていると。
いまならばわかる。それが、真実のことなのであると。
天使たちに手を引かれ、すっと舞いあがっていけば、屋根を抜け、空を抜け、わたしは月へと至ったのだった。
天使たちは私の手を引いて、月をぐるりと一周した。
表から、裏へ。そして、裏から表へ。
わたしはすでに、人の身を脱している。
だから、見えた。
眼下に、『裏側』の様子が。
月の表の『裏側』、人の目では見えぬ領域には、おどろくほどに壮麗な、それでいて懐かしい城と庭園が広がっているのが見えた。
これは――そうだ。
私たちが、さいしょにこのセカイに入るときに訪れた、『歓待の園』だ。
ふいにそう、思い至った。
『ここにふたたび来ることができるのは、特別なときだけ。
魂を鍛え、『人間』としてアースガルドに生まれいずることのできるようになったとき、あなたがたはここに迎えられるのです。
そのときには、時を超えて、会いたかった過去の人とも、会えることでしょう』
GMがそう告げた声が、鮮やかによみがえった。
ここに着地するのか、と思ったが、どうやらそうではないらしい。
天使たちはニッコリ笑って、私の手を引き飛んでいく。
目指すのは、月表の東地平線の方向。
すいと表裏の境をとびこせば、眼下にはこれまたなつかしい景色。
ティアブラ・ミッドガルドだ。
キャラメイクをして、最初にワールドに入るときには、この高さから『はじまりの町』へ、『はじまりの広場』へとダイブした。
もう、半世紀以上もまえのことなのに、昨日のことのように思い出された。
あのころは、ただただ、楽しかった『ティアブラ』。
友達と一緒にクエストをうけて。必殺技を覚えたり、冒険者ランクが上がればすなおにうれしくて。
――その先に何が待っているのか知っていても、それはやはり、楽しく輝かしい時間だったことに間違いはなかった。
あの頃の友の半数はすでに鬼籍にはいり。さらに半数も、どこかに傷みを抱えているものがほとんど。
かれらももう間もなくこうしてここに来ることだろう。そして、そのあとは――
「来られますよ、ここにも、また」
「このセカイはすでに、それだけの猶予を得ました。
まあ、できるのなら、一度アースガルドで肉体を得てからまたおいでいただきたいものですが……」
「それでも、しばらくのんびりするぐらいは、大丈夫です」
天使たちは口に出す前に答えてくれた。
そして、きれいな指で行く手を指さす。
「それよりまずは、ほら、あれを」
促されるまま前方を見れば、地平から登る、青い月。
みずみずしい輝きに満ちたそれは、ああ。
「『地球の出』です。
――あの地球は、アースガルドのそれを模して形作られています。
アースガルドの地球もとても、美しい場所です。どうぞ、愛してあげてくださいね」
「もちろん!」
私はおおきくうなずいた。
だって私は、もともとそのつもりで、このセカイに降り立ったのだから。
しかし、なんと、なんと美しい光景だろう。
生身ではけしてみることのできない奇跡に、涙があふれた。
やがてすっかりと地球がのぼりきれば、そこはふたたび『歓待の園』のうえ。
天使たちはわたしを優しく気遣いながら、ゆっくりふわりと舞い降りていった。
そこではすでに、友たち、恩あるひとたち、亡き両親たち。
そしてなんと『御大』と『御前』までもが、笑顔で手を振っていたのたった。
――とある元総司令官(51)。
御大ことルクの命で、『シーガル先遣隊』処断を指揮した。その後約束通り真実が明かされ、イツカやカナタ、先遣隊メンバーたちとも和解を果たし、穏やかな生活を送る。
その後胸の病の再発により、三年後に死去。家族に看取られての最期は安らかなものであった。
前身は、『エヴァーグレイス』に棲むちいさな海鳥モンスター。アースガルド転生後は、ちいさなヨットハーバーにつとめるようになった。
月面から地球の出は見られないだってぇぇぇ?! しまったあああ!!(昨日の日向の叫び)
ほんとは月と地球で互いに「のぼってるねー」「みんなどうしてるかねー」と2サイトのんびり酒宴回にしたかったんですが、そんなわけでこうなりました。
ルクとセレナは、亡くなったわけではなくふつーに参加です。
女神ぱうわぁです。
こちらのコウジは日本の色彩の黄色系の柑子色からきています。つまりきいろちゃんです。というとなんかとたんにこいぬちゃんぽくなる不思議。
次回、うさうさしき旅立ち。
ソーヤとシオン、ソリステラス留学へ!
どうぞ、お楽しみに!




