The C-Part_40秒の、そのなかで~旅立つ者たち(3)~
@星降園・居間~ミユキの場合~
知らないわけがなかった。高天原がどういう場所になってしまっていたか。
明かすわけにはいかなかった。けれどいつも思っていた。行ってくれるなと。
小さき人の胸に芽生える、単なるエゴとわかっても、思いは止められない。
だからだろう。イツカが『ティアブラ』やりたさに、バトルやりたさに園を抜け出した時には、強く叱ってしまった。いけないと思いながら涙さえ、見せてしまった。
けれど、そんなことはもうないのだ。
『ティアブラ』はもう、ただの楽しい遊び場となった。
確かに、アカウントが身分証明・社会的手続きの際の口座となったり、ゲーム中でスキルなどを学ぶことなどはできるけれど――
もう、戦争のできる人材を育て上げるための、欺瞞のハコニワではなくなったのだ。
『ティアブラ』を通じて十分に育ったβたちを、αかΩに振り分け育成する装置だった高天原学園は、さらなる夢に手が届くよう、子供たちを導き育てる本来の姿となった。
だからいまのわたしたちは、旅立つ背中を、心からの笑顔で見送ることができる。
ソナタ、シュナ、ヒトミ、コユキの『シスターズ』と、コウジ、コハルは高天原学園芸能科へ。
ケンタは情報科、ライトはアイドルバトラー科へ。
ルネは初志貫徹で星降大へと、それぞれ進路を決めた。
メイとリノはこの間まで迷っていたようだが、ついに決意の目でわたしたちに告げた。
「わたしたち、ソリステラスに行ってみたい!」と。
カナンとノート、もちろんこどもたちみんなも呼んで、ふたりは言った。
「いままで、わたしたちの世界って狭かったでしょ。ソリステラスのことなんて、教科書とかニュースでくらいしか知らなかった」
「でも、イツカとカナタとミライが旅立ってすっかり変わった。
海の向こうに、今まで知らなかったいろんなものがある。
それのこと、もっと知りたいし……」
「知って、教えたいんだ。
ミナやチトセやユイトやタイキ、そのあとにくる星降園の仲間に。
そうしたら、夢の選択肢だって広がる」
「わたしたちもそうして、夢を探したい!」
月萌のこどもたち、とくにこのβ居住域に住む子たちの世界は、これまで狭いものだった。
それがこの一年ほどで一気に広がったのだ。
断片的な情報としてしか知ることのできなかった隣国が、実在することがわかり。
そこからやってきた魅力的な人物たちを通じて、ほとんど未知のものだったいろいろがぱっと目の前に広がった。
行ってみたい、そう思うのが人情だろう。
さいわい、若者ならばフットワークも軽い。
それに……
「ソリステラスにはミライツカナタの仲間もたくさんいるからな。
そういう点では、不安はないな」
そう、これまでの歩みであの子たちが得た、信頼できるひとたちのネットワークが、ソリステラスにはある。
安心して羽を休めることのできる暖かな場所と、それを提供してくれるひとたちが全土にいるのだ。
「そうね。わたしも賛成だわ。
けれどどうせ行くなら、帰国後が不利にならない形がいいんじゃないかと思うのだけれど。
ソリステラスのどこかの学校と、交換留学という形にできたらいいかしらね」
ノートは優しく微笑みながらも、冷静な判断を示してくれる。
「それってそれってもしかして、ソリステラスの子がうちにきたりもするの?!」
「まじー?!」
「いいじゃんいいじゃん!」
とたん、テーブルを囲むみんながわきたった。
留学。この月萌では、とんと使われることのなかった言葉。
それをカギにして、こどもたちがこんなふうにわいわいと楽しく盛り上がるということももちろんなかった。
このセカイから、やむなくとはいえ奪われていたしあわせは、いくつもある。
大きな意志、大きな力によって。
けれど、屈しないでそれを取りもどす人も、それに続く人もいくらもいる。
わたしは、わたしたちは。
このプロジェクトに、この試行に、立ち会うことができて――
かよわいはずの『ひと』が、こんなにも輝くさまをみせてもらえて。
どれだけ、果報者なのだろう。
いや、そこで終わっては、この子たちの『母さん』として情けない。
わたしも輝こう。その手立てはまだわからないけれど、これから探す。
この子たちのために。この子たちに続く、こどもたちのために。
――メイ、リノ。
イツカナたちとおなじ『大きい組』の子供たち。中学二年生相当。
広い世界を見て夢を探したいと、ステラ魔法学院と交換留学。
その後、もっと自由に見て回りたいと、働きながらのソリステラス一周の旅に出る。
帰国前からたびたび小さい子たちにメールやコール、絵葉書などを送り、見たものや感じたことを伝え続け、その体験記はやがて多くの人々の目に触れることとなる。
――ミナ。
『小さい組』の子供たちのひとり。小学三年生相当の活発な少女。
メイとリノが教えてくれた世界のいろいろにこころひかれ、彼女もまた海の外へと飛び出す。
メイとリノが幾度世界を回っても星降町に帰ってきたのと対照的に、奔放で活発な彼女は世界を回り続けた。
最終的には地球を飛び出し、宇宙にまで彼女の旅路は続いた。
――チトセ。
『小さい組』の子供たちのひとり。小学三年生相当のおとなしい少女。
メイとリノからのソリステラス便りをこよなく愛し、一冊のノートにまとめて手作りの本にしたことから、出版のみちを志す。
メイとリノ、そしてミナからとどく便りを、暖かくこまやかにつづりあわせた旅行記は、月萌のこどもに、そして大人に読み継がれた。
――ユイト、タイキ。
『小さい組』の子供たち。ミライツカナタの活躍、メイとリノからのソリステラス便りに胸躍らせて育ったふたりは、アイドルバトラーとしての世界進出を目標に決めた。
アイドルバトラーとして大成するなら、実力もそうだが差別化が大事。それをきいてふたりは、いろいろな企画にチャレンジ。むちゃぶりをそれ以上のむちゃくちゃで乗り越える、たくまし可愛いアイドルバトラーバディとして広く愛された。
――カナン、ノート
星降園のこどもたちに勉強を教える先生たち。二人もまた星降園出身の先輩スターシード。
高天原の実態を知らずに子供たちを送り出したことを悔いるが、イツカやカナタをはじめとした当事者たちに『いまとなってはむしろありがとうだから!』と告げられ安堵。
子供たちをいつくしみ、時にドタバタしながら、教師人生を全うした。
ほんとぎりっぎりまで今回の子たちの進路悩んでたんですよ……進路の決め方とか調べちゃったりして。
でもなぜか、ここまで来て連鎖的に降ってくるように決まりました。夢は連鎖する……なんて(∀`*ゞ)エヘヘ
次回! ちょっと意外な人たちが、あらたな旅立ちにのぞみます。
どうぞ、お楽しみに!




