The C-Part_40秒の、そのなかで~旅立つ者たち(1)~
@リガーの愛車~チェシャの場合~
「なに、あんたたちマジ旅立つの? お幸せにね!」
「いや俺はただの送迎。
こいつおっぽり出したらフツーに帰ってくっからな?」
リアウィンドウをのぞきこむ『銀子ちゃん』が、ニヤニヤ笑ってとんでもねーギャグぶっこんできやがる。これがはなむけの言葉とは、俺たちらしすぎて泣けてくる。いや泣いてねえけど。
うんざりと念を押す『リガー』に続き、俺も念を押した。
「冗談じゃねえや、こんな口うるせえ野郎と愛の逃避行なんざ億のカネ積まれたってお断りだから」
「ンだと、俺だってこんなガラのわりい野郎お断りだこんにゃろう!
オラ、とっとと行くぞ……ん?」
いま、どこからかクスッと笑う声がした。
間違いない、トランクルームだ。
『ラウンド』のやろうども、でっけえ荷物もってきてはなむけだ出発してから開けてくれなんてのたまうから何かと思えば、再就職希望者をおっつけてくれたらしい。
まったくどいつもこいつも、大した『仲間』だ。マトモに別れを惜しんでくれた四魔王ちゃんたちが神のように思えてくるイキオイだ。
「……どーする」
「……役立たず認定してから捨ててくるわ」
一応確認をとってくれたリガー。俺はちょっと考えてからそう返した。
『ナイツオブラウンド』ナンバー10。やけに明るくひとなつっこく、仕事ぶりを見なけりゃエージェントなんて思えないそいつは、なぜかやけに俺になついてきた。
深入りしたところでいいことなんかない。俺の旅立ちをギリギリまで告げないでくれ、『トニー』たちにはそう頼んでいたはずなのに。
だれかの差しがねか。それとも、やつ自身の有能さゆえか。
ともあれ、いま放り出そうとすれば『銀子ちゃん』が10の味方してめんどーだろう。そう判断した俺は、先延ばしを選択した。
あくまでめんどーだからだ。決して決して、ツンデレではない。
旅立つつもりだと魔王様方に告げたら、引き留められた――ちょこっと下を向いた頭のお耳に。
顔では笑って、口ではさっぱりと、きっとそうおっしゃると思ってましたの、強くなったらまた手合わせしてくれよだののたまってるクセに。
あんまりかわいくて撫でそうになって、必死で自制した。
このセカイの呪われた物語を終わらせるため、やつらのことは敵として、標的として狙ってきた。
けれど一度『仲間』になってしまえば、情は容赦なく根を張った。離れないで済む口実を探してしまうほどには。
それでも、俺のなかでさわぐ声もまた止めがたかった。
俺は、自由の風の中でしか生きられない人種なのだと、葛藤を続けた日々の末に思い知った。
ここはいっそ、スパッと国外追放してもらうか。そう思ったのだが、俺の罪はほぼほぼ清算されてしまっていた――ルクたちが政治犯として罪一等を減じられた関係で、しがないテロリストの俺の量刑も軽減されていたのだ。
司法取引にも素直に応じていたため、天下の『黒チェシャ』様ももはや、ただのしがないごろつきレベルのアレに堕していたのである。
だから俺は、ほかのやつらのぶんの罪も引き受け、国外追放としてもらったのだ。
月萌にはサンザン迷惑をかけた。だから、国外追放を受け入れる。
追放が解かれた暁にはマトモに魔王さまがたのお役に立つため、世界を回り学んでくる。罪滅ぼしのために働きながら……
という、似合わねえ御託をぶら下げて、俺は旅に出た。
当然ナットクのいかねえ奴らはいるだろう。ガチに命がヤバいレベルの襲撃だって食らうだろう。『白刃』や『レッドセイレーン』をはじめとしたやつらは、いまだにフリーなのだ。
まあ、そんときゃ謹んで逃走させていただくが。
それでも魔王様のおひざもとでソレやるとさすがにクソ迷惑なので、『リガー』に国境まで送ってもらうことになったというわけである。
なのに、さいしょの一歩でコレ。若干先行きが不安である。
まあ、いいってコトだ。
俺は、それだけのことをしてきた。
これからの俺は、生きるも死ぬも、風の向くままだ。
「んじゃ、いくわ」
シルバーに軽く右手を挙げて、リガーに「頼む」と告げれば、車は滑るように走り出した。
――『黒チェシャ』。
過去抹消済みの『エクスペンダブルズ(使い捨ての体を使うエージェント)』。本体はスターシード。このセカイに課せられたミッションを見抜き、それを早期に終わらせるため、テロ活動を行っていた。
実は人を殺してないので、罪も軽くなった模様。
おしかけバディの10の世話を焼きつつ、人助けと学びの旅をしている。
毎度「しかたねえな!」といいつつ、まんざらでもなさそう。
――ラウンドNo.10。
明るく人懐こいアンドロイドエージェント。けも装備は『エゾクロテン』を選択した。
仲間たちの協力で、『黒チェシャ』のおしかけバディになった。
エージェントとしての能力は高いが、プライベートではちょっと抜けてて、チェシャに叱られたり世話を焼かせたりと仲良く過ごす。
――『白刃』&『レッドセイレーン』。
剣を愛する男と、召喚士の美女。とにかく強いものと戦うためにエージェントをしていた。
世界が平和になったのちもそれぞれ自由に旅をしては、つわものとの手合わせを求めつづけた。
次回、さらなる宇宙の高みを目指すリュウジたちチームの様子をお届けする予定です。
どうぞ、まったりのんびりお付き合いくださいませ!




