The C-Part_40秒の、そのなかで~ゆったりと流れる時間を(8)~
@クゼノイン邸・講堂~ミズキの場合~
イツカとカナタはソレイユプロ在籍のアイドルにして、ソレイユ邸敷地内に住まう『用心棒』。
ただし『月萌杯』がおわって落ち着き、十分な力量を育んだならば、クゼノインに居を移し、ほんとうの用心棒となる。
その約束が果たされる日が、ついに今日、やってきた。
クゼノイン邸敷地内の講堂に、家人たちが整列して待ち受ける。
講壇上に出た父が開会を告げると、さあ、おれたちの出番だ。
ミライと俺とで、四人をエスコート。みんなが見つめる壇上に連れて行った。
今日の俺たちは、六人とも白基調のそろいの礼服をまとっている。
『和』の様式を愛し、多く取り入れたクゼノインらしく、前を合わせ帯で締める『和装』風だ。
うるさいことをいうならば、いまのイツカたちとカナタたちはGMにも並ぶ存在。
それが、いち子息の用心棒という立場に収まって良いもののはずはない。あえてふさわしい表現を探すならば、むしろ『守護神』のほうだ。
それでも、友達だから、やくそくしたからといってくれる四人のきもちと沿う形が、これだった。
壇上に立って父は述べる。
「本日より我らクゼノインは、次期当主ミズキ、そのバディたるミライを通じ、『救世の王たち』の庇護を受けることとなりました。
友として、同志としてのお四方をよく存じ上げるものも我が家には多くおりますが、それは今後とも、そのままの形でと――
むしろ、クゼノインの家については知らぬことばかりのために、よりよき協力関係のためにも教示を願いたいとのご意向です」
そう、『友としての厚意から、いざというとき俺とミライを、その大事な人たちを守る』という形なら、名実ともに問題なくなる。
もちろん俺たちも守られてばかりでいるつもりはない。四人の背中は、俺たちでがっちり守るのだ。
互いに敬意と感謝、そして友愛のこころを忘れず、ともに明日の幸せのため励みましょうと父が結べば、講堂はあたたかい拍手に包まれた。
世界そのものを救ったイツカたちとカナタたちは、押しも押されぬ救世主。その庇護を受けれられれば、もはやクゼノインに怖いものはない。
たとえばふたたびタカシロとの関係が微妙になったところで、恐れることはなくなるのだ。
しかしそうなると、むしろ逆の懸念もうまれてくる。
こんどはクゼノインが、逆に他に圧をかける側になってしまいはしないか。
父たちはそれを懸念していた。
威をもって圧してしまえば、もとのかたちは損なわれる。
明日をよりよく導くためにまず必要な、ありのままの姿をとらえるということができなくなる。
力がありすぎても、なさ過ぎても、クゼノインの信条は果たせなくなるのだ。
その葛藤をあっさりと解決したのは、イツカたちのひとことだった。
『だいじょぶだ。タカシロも守ればいい』
『まーたしかにアスカいるしハヤトいるしライカいるし』
『レインも強くなったし!』
『つかぶっちゃけクラウディアさんがめっちゃさいきょーだけど!』
『……たしかに』
そう、俺も後から知ったのだが、レインさんのお母上、クラウディアさんはとんでもなく強かった。
どれくらい強いかというと、ノゾミ先生とガチでやりあえるレベルに。
レインさんもご両親からいただいた素質を開花させたし、さらに世界をつつむライカネットワークのあるじがいつもついている。
それでも。
『タカシロはここまででいちばん悪役を引き受けてきてくれた。立場的には弱いものがどうしてもある。
その今後のかじ取りを、アスカたちだけに丸投げするのは酷だからね』
『まあおれたちにしても、そのあたりはしろうとに毛が生えたようなモノだけど……
味方になってやることぐらいはできると思うんだ』
カナタも優しい、ほんもののうさプリスマイルでそういった。
そんなわけで、この式が終われば、四人はタカシロ本家に赴く。
俺たち同様、アスカとハヤト、レインさんとライカを通じ、タカシロをも庇護することとなる。
『救世の王たち』はいまや、ルク派にも慕われるようになった。
自爆をこころみたルクを身を挺して守り、二度にわたってセレナを許し。
アカシたちもみな元の姿に戻し、家族のもとに帰し――
さらには、ミッション『エインヘリアル』の廃止で、彼らの苦闘を根本的に終わらせ。
ルクたちを慕う者たちのため、週一度の月へのシャトル便をいやな顔一つせずに務めている。
そんなわけで今ではむしろ、もとルク派が最も熱く四人を慕っている状態だったりする。
もちろん、おなじことはすでにソレイユ本家でも行われている。
白のイツカとカナタは、所属のトップアイドルLUKA、LUNAと未来を誓っているし、赤のカナタは、宗家令嬢ライムの婚約者だ。
赤のイツカは何かというと、レモンさんに『そりゃー、かわいい義理の弟でしょ!』とわしわしなでなでされてみんなほっこり。もうどっちが守られてるのかわからなかったけどそれはそれでアリである。
『救世の王』たちの優しい、短いスピーチに拍手をおくれば、クゼノインらしいシンプルな式典は終了。
休憩を兼ねた短いお茶の時間を、おれたち六人とサツキさん、そしてブルーベリーさんという親しい若手だけで過ごしたのである。
クゼノインの流儀では、お茶の一煎目をふるまうのは座長の役目。
なので、俺がみんなにお茶をお出しした。
ミライは、お菓子を運んでお手伝いしてくれる。
ブルーベリーさんも今日はお客様なのだけれど、「ミライさんをみてたらわたしもやりたくなりましたわ!」と参戦。
サツキさんは、やけに感動している。
「これからはミズキがお茶をふるまう番なのか……りっぱになったな……
あの、ちっちゃいくせしておとなびて、それでてべそっかきのかわいいミズキが……」
「えっ?! ミズキべそっかきだったのか?」
「なんかいつもニコニコしてそうだけど!」
「ちょ、サツキさんっ」
しまったと思ったら、すかさずイツカたちがくいつく。
止めようとしても時すでに遅し。
「ああ、ニコニコはしてたんだ。もうお前子供何周目だよってレベルで落ち着いてて、聞き分けもよくて手がかからなくて。
でもけっこう転ぶんだ。それで泣くんだ。可愛かったぞ~」
「ええええ! 見てみたーい! かわいいちっちゃいミズキ――!!」
ミライもおめめきらっきらでテンション爆上がりだ。
「い、いやあのね? 俺は別に、ふつうのこどもだったよ? これはあくまでサツキさんの主観であって、そんなに特別にかわいくは」
「かわいかったですわよ!」
必死に弁明していると、ブルーベリーさんがフレンドリーファイアをしてきた。
「もう、わたしよりずうっとかわいいくらいで!
この子がお前の婚約者だよって聞かされた時にはもううれしくて!」
初めて知ったそんなの。というか。
「ブルーベリーさんの方が断然可愛かったからね?
婚約者だって知った時には、今までで一番くらいに神様に感謝したんだから」
「ミズキさん……」
「おお~」
「おお~」
夢中で反論したら、なんだか別方向に場が加熱してしまったようだ。
「よしよし、ここは若い二人に任せて私たちは庭でも見るか!」
「ですね!」
「クゼノイン邸のお庭、おれだいすきですので是非!」
サツキさんは仲人さんみたいなこと言い出すし、なんとカナタまでのっかる。
「「がんばれよミズキ!」」
「おうえんしてるよふたりとも!」
ふたりそろっていい笑顔で親指を立てるイツカたちはまだしも、ピュアなミライにニッコリ言われると毒気も抜けちゃう。でも。
「だいじょうぶですわ、わたしたちしょっちゅうラブラブですから。
それよりせっかくなので、みなさんの『なれそめ』もお聞かせ願いたいのですけれど、かまいませんかしら?」
ブルーベリーさん、ナイス反撃!
そう、せっかく集まれたんだから、もうすこしみんなとも話したい。
それをわかってフォローしてくれる最愛のひとに、おれはこころのなかでそっと頭を下げるのだった。
――ミズキ。
このすぐ後に、カレッジに合格。本来ならばこの時点で月萌軍に入るはずだったが、戦争がなくなったことで方針転換。むしろその歌声で世に幸せを、ということで学業の傍ら『うさもふミライ』としての活動をいましばらく継続することになった。
カレッジ卒業と同時にブルーベリーと結婚。アイドルを引退し、当主の座を継ぐ。
バディのミライとはその後も仲むつまじく、そのほほえましさは二人の妻たちに『これはわたしたち公認だから♪』とニコニコ言われるほどである。
――ブルーベリー。
実はミズキより一つ年上。学園メイドのしごとは花嫁修業としておこなっていた。
ミズキのカレッジ卒業と同時に結婚。ミズキの歌声を愛する彼女は『このままアイドル活動を続けては』と勧めていたものの、家族をいちばん大事にしたいというミズキの意志を受けて、活動停止に同意した。
その後、二人の双子の子供たちは親譲りの美貌と歌声で『リトルうさもふツインズ』という二世アイドルに。ミズキ本人も彼らを支える形で、部分的に芸能活動を再開した。
――サツキ。
すこし後に『風見の塔』の党首を継ぎ、ミズキたちとも連携を取ってよりよい世を目指す。
あいかわらずのサッパリお姉さんぶりでみんなに慕われるが、ちょっと意外な人物とご縁があり、結婚することになった。
その後も議員として、統括理事会理事としてバリバリ働き『あんな女性になりたい!』と多くの後輩たちの憧れを集めた。
10人とか出すって、やれるときとやれないときありますね。
このメンツはおなじみなので、そう苦労しませんでした。
個人的にはブルーベリーさんがさいきょーです。
次回、ステラ領ロイヤルファミリーのやんごとなきお茶会。その席にのぞく、旅立ちの予感の予定でございます。
どうぞ、まったりおつきあいくださいませ!




