The C-Part_40秒の、そのなかで~ゆったりと流れる時間を(7)~
@高天原学園・面談室~マイロの場合~
情報科、芸能科の新設にあたり、それまでのありかたはなにになるのかと議論になった。
一時期便宜上『普通科』となっていたけれど、戦いにかかわることどもを学び、定例闘技場で華やかなバトルを見せつつ腕を磨くというのは『普通』じゃない。
結局『アイドルバトラー科』に落ち着いた。
芸能科と被るという議論もあったけれど、ほかに表しようがなかったのだ。
『アイドルバトラー科』は実習として、定例闘技会への参加が必須。このタイミングで各種ショーによるアイドル活動をすることも可能。
芸能科は各種芸能活動、あるいはそのサポートを行うことが実習となる。
すみわけはそんな感じとなった。
また入学の条件に、それまでの活動実績による自薦・他薦が加わったのも特筆すべきことだった。
これまでの高天原は『α、もしくはΩ=対ソリステラス戦における戦力』になれるほど戦力を育てたβの振り分け育成機関に過ぎなかったため、冒険者ランクA、TP100万をのみ入学条件としてきた。
しかしミッション『エインヘリアル』が終結した今、その役目は終わりを告げた。
今後高天原が育成すべき人材は、平和な世をたもち、より良くするチカラをもった若者たちとなった。
つまり、入学条件もそれに合わせて変わることとなったのだ。
先日の『ラストバトル』で歌声を披露した『ニセイツカナーズ』の四人は、そのときの投げ銭額とメッセージ総数を実績にひっさげ、ユーユー……もとい、ィユハン党首・イツカ君たち・カナタ君たちの推薦で芸能科に入学を果たした。
かれらの素直で伸びやかな歌声は、ひょっとすると本家以上ともいわれている。
イツカ君、カナタ君と同じにされていた容姿は、よく似た別人のものに変えられたけれど、彼ら自身も自分だけの新しい顔を気に入っているよう。
あのとき、涙と叫びで窮状を訴えていた時の追い詰められた表情は消え、かわりに毎日たくさんの笑顔を見せてくれるようになった。
そうそうたる推薦人たちも、ときどき彼らを訪ねては一緒に歌ったり、羽目を外してノゾミ先生にまとめて叱られたりしている。
そんなある日の放課後、もと・にせカナタ君たち二人――エア君とハイト君がわたしに面談を申し込んできた。
かれらがいうには。
「せんせい。じつはおれたち、もっとクラフトや、それを生かしたバトル、学びたいって思ってるんです」
「『ふしふた』とか『みずおと』とか見てると、やっぱそのへんがしっかりしてるから、バトルシーンの迫力も違うんだなって。」
「そんなわけで、アイドルバトラー科への転科とか、できないかなって……」
「それは難しいようでしたら、クラフト実習をもっと受けられる手立てがないかと、考えてまして」
かれらがこんな相談をしてくるわけは、私にはわかっていた。
「ふたりとも、素晴らしい熱意ね。
しかもクラフトをもっと学びたいなんて、先生感激だわ。
ただね。ふたりともすでに枠いっぱいまで実習を取っているわよね。
これ以上バランスをかえるなら、たしかに転科が現実的だけど……
そうすると今度二人は、芸能科のレッスンを何とか取れないかと考え始めるんじゃない?」
「うぐっ」
やっぱりだ。かわいらしい反応にほほが緩んでしまう。
「ひとつ、紹介できる場所があるわ。
ただし条件があるの。
くれぐれも、無理はしないこと。倒れてしまったら元も子もないわ。
まあ、一度二度はしょうがないけど、それ以上はないように。やくそくできる?」
「はい!」
「やくそくします!!」
まあ、ふたりとももともとアンドロイドだ。体力に関しては、只人よりずっとアドバンテージがある。
それでも、限界というものはあるし、しんどさだって感じる。
そこをちゃんと見てあげるのが、わたしたちおとなの役目だ。
進捗と体調をちゃんと報告することと約束させて、わたしはあの場所を紹介した。
すなわち『ゼロブラ館』を――そこで行われる、自由勉強会を。
面談室を出れば、ちょうどとなりの面談室からも三人出てくるところだった。
もと・ニセイツカくんたち――リク君とユウキ君、そしてノゾミくんが。
「あら、ノゾミ先生。そちらは?」
「ああ、この二人はもっとバトルの腕を磨きたいということだったから、『ゼロブラ館自由勉強会』を紹介しておいた。
あちらにはいろいろなやつらがよく顔を出すし、ちょうどいいと思ってな」
ノゾミくんが、リク君とユウキ君のあたまをわしわし撫でながら言う。
もちろん、あそこはイツカくん、カナタくんの住居のひとつでもある。『ホンモノ』との差別化を図りに行くにもちょうどいい場所と判断してのことだろう。
「奇遇ね、こちらも『ゼロブラ館』をご紹介したところよ。
じゃあ四人とも、バディで通えるわね」
「はい!!」
笑顔で声をそろえた四人の顔は、少年らしい輝きに満ちていた。
よかった。こうなって、ほんとうによかった。
何が幸せか。どんな進路が幸せか。
そんなものは、ひとそれぞれだ。
けれどいま、彼らは笑っている。こんなにも明るく、はつらつと、楽しそうに。
まっすぐに、目指す幸せに向けて進んでいる。
そしてわたしたちは、そのお手伝いができている。
これまでと違い、かれらに何かを隠すことなく――そう、まっすぐに。
やっとやっとつかむことができた、『ふつう』の教師としての、幸せ。
わたしは今日もそっと、それをかみしめるのだった。
――マイロ。
少女のような姿のクラフト科教師。彼女も第三覚醒を遂げているが、この容姿は生来のものらしい。
仲良しの少年少女を愛でるのが大好きで、そのしあわせのために尽力することを天職と思い定めている。
最終試行の終わりまで、変わらぬ姿で高天原の教職にあり続け、多くの少年少女たちを導いた。
――ハイト、エア。
もとニセカナタ(白、赤)。冷静なハイトに比べて、エアはすこしだけ幼い感じ。
悲運を抜け出したたれみみ兄弟として注目度抜群。
基礎からブラッシュアップした歌唱力とハイレベルなクラフトの腕で、見ごたえのあるショーバトル・ステージを作り出す。
ステージへの情熱は衰えず、芸能科修了後にアイドルバトラー科に再入学、実力派アイドルバトラーとなった。
――ユウキ、リク。
もとニセイツカ(白、赤)。『ニセイツカナーズ』四人の中で一番冷静なのがユウキで、いちばんなきむしなのがリク。
あえて『ニセイツカナーズ』の看板を背負い、それを利用したのはユウキの判断。結果的にそれは功を奏し、順調にアイドルバトラーとしてのスタートを切る。彼自身は得意の剣の腕と演技力を磨き、四人のリーダーをつとめた。
リクは罰ゲームでスコ耳に換装させられたのだが『あざとかわいい』と大評判。ダンスのキレとのギャップから『ギャップあざとい黒スコちゃん』のあだ名を拝命。
二人もまた芸能科修了後にアイドルバトラー科に再入学。実力派アイドルバトラーとして金字塔を築いた。
次回、クゼノインの用心棒まわりのおはなし。
イツカ・カナタは約束通り、用心棒になるのか……?
どうぞ、おたのしみに。




