The C-Part_40秒の、そのなかで~ゆったりと流れる時間を(6)~
かわいいコユキ。わたしの宝物。
この子のためなら、がんばれる。
降ってくるような星空の下、わたしは彼女をだきしめた。
気が付けばわたしは、赤ん坊のコユキを抱いて河川敷に立っていた。
着の身着のまま、見覚えのない場所でふたりだけ。
さいわいすぐに優しい人に見つけてもらえて、星降園で保護してもらえたのだけれど……
それまでの間、泣き出しそうなわたしを支えてくれたのは、何も知らずに笑いかけてくれる、ちいさなコユキのぬくもりだった。
私たちは『スターシード』という特別な子供だが、コユキは先天性の心疾患をもつ『ハートチャイルド』で、特殊な手術を受けなければ一生病院暮らしだと聞いた。
だいじょうぶ、手術費用なら私が稼ぐ。
堅実に就職して、こつこつと働いて。
VRバトルが得意ならば『ティアブラ』でAランク100万を達成し、高天原学園に入って……というみちもあったけれど、あいにく私はそうじゃなかった。
一瞬だけ、デザイナーなんて夢も見たけど、それは高天原学園にはいるよりなお狭き門だ。
とどかないかもしれない、あぶくのような夢と、コユキのしあわせ。
そんなの、はかりにかけるまでもない。
私は懸命に勉強した。幸い私たちは、望めば学ぶことを許された立場だ。『ティアブラ』は息抜きにとどめて――そのなかでコユキたちに服を作ってあげて、よろこんでもらえたりすれば、ただそれだけでがんばれた――園の手伝いと勉強、そして体力づくりに明け暮れた。
目指すのは、星降園かハートホスピタルの職員。
公務員なので安定している。年収も不足はない。
環境もよくわかっているし、食住にも困らない。
意外となり手がいないのもポイントだった。
『スターシード』のための施設職員、もしくは医師は、αか『スターシード』でないとなれない。
『スターシード』の子供は普通の子供と能力の桁が違うこともままある。いざというときに、その体力についていけないようでは話にならないからだ。
現に『ハートホスピタル』のアラタ先生もα。それも、御三家クゼノインゆかりのひとだったりする。
フリーダム星人なイツカを見ていると、それでもやっていけるか若干心配になったものだが、『母さん』から『ここにはみんながいる。一人でしょい込まなくていいのよ』と言ってもらえて不安は消えた。
イツカを見ていると、つくづく私とは真逆だなといつも思った。
バトルだいすきで、毎日そればっかのイツカ。
何度やられても、ボロボロになっても、おめめきらきらで毎日突撃。
そのうちメキメキ強くなりだしたと思ったら、『ソナタちゃんが高天原に行かないで済むように、そこまでに俺たちが高天原いって稼ぐ』といってバリバリ依頼を受けまくり。
稼いだTPで『免罪符』を買い込んで、宿題なんかへーきでブッチして狩りに行ってまた稼ぐ。
なのに、カラッと明るくて憎めない。
それでて、とんでもなく優しいのだ。
ある冬の日、ちょっと無理をして、私は熱を出してしまった。
『母さん』の説得を押して、なんとか登校しようとした私にイツカが『そういや今月コハル誕生日だよな! ちょっとはやいけどこれ俺たちから。疲れたときとか使ってな!』と『免罪符』を三枚さらっと渡してくれた。
そのときのサインがよれよれになったのは、熱でへろへろしていたからだけじゃない。
イツカは――そしてその相棒のカナタはどんどん強くなって、ソナタちゃんのためにと高天原に。
さらには『ハートチャイルド』が世界をつかさどる女神により引き起こされたものとつきとめ、女神との謁見にこぎつけ、みんなをあっという間に治してくれた。
もちろん、コユキも元気になった。
これでだいすきなピアノを、好きなだけ弾けるようになったのねと、みたこともないほどのしあわせな笑顔を見せてくれた。
どうお礼をいったらわからないほどの感謝に包まれたわたしたちにイツカとカナタは、ただいつものように笑って『これからもずっと友達でいて』と言ってくれた。
その日、わたしの宝物は増えた。
わたしのコユキを元気にしてくれた『魔王様たち』は、コユキと同じくらいに、たいせつな存在になったのだ。
その、大切なひとたちが世界から『追放』されたと聞いたとき、わたしは震えた。
コユキたち『シスターズ』は、復活を願って歌うと言っている。
わたしは。わたしもなにかしたい。わたしにできることで、なにか。
そのとき、コユキは言ってくれた。
「そうだ、お姉ちゃん。
ずっとまえにお姉ちゃん、わたしたちのためにって、ティアブラのなかでドレスつくってくれたわよね。
衣装は、あれアレンジしたら、いいとおもうの。
お姉ちゃんのドレスって、すごくわたしたちらしくって……だいすきだったから。
それ着れば、わたしたち、すっごく勇気出るとおもうの!」
正直わたしはおどろいた。
ずっとずっと、むかしのことだ。
小さい子供がお絵かきをするように、ただ気軽に作っていただけのドレス。
そんなつたないもので、世界に向けたメッセージを、発信してしまっていいのだろうかと思った。
悩むわたしに、また『母さん』がいってくれた。
ひとりで悩まないでと。
ライカちゃんたちもいってくれた。
不安なら、アスカ君やアカネちゃんたちに助けてもらえばいいと。
はたしてあこがれのデザイナーふたりは、画面の向こうから歓声を上げてくれた。
もちろん、二人に見てもらったそのドレスは、技術的には未熟なもの。
横っちょの部分とかだいぶごまかしてたりしてあったし、着て踊るなんてちょっと無理な代物だったのだけれど……
どうやってか一時間もしないうち駆けつけてくれたアカネさんは、わたしたちが見ている前でやってくれたのだ。
元のドレスはそのままに。それを百倍素敵にアレンジした、もちろん着て踊ることのできる、本物のアイドルドレスを作り出してくれた。
夢への扉は、まったく突然に大きく開くもの。
かくしてわたしは、デザインの世界に足を踏み入れたのだった。
その日私は夢を見た。
わたしは別の世界に住む平凡な女の子で、毎日一人、かわいいドレスの絵ばかり描いていた。
それを知るのは、妹ばかり。
デザイナーなんて狭き門。それを知ったわたしはその夢を親にも告げぬまま、押し入れの奥にしまいこんだ。
それでも、知らないうちにうっぷんはたまっていたのだろう。休みの日にはゲームばっかりやっていた。
そんなわたしのもとにある日舞い込んだのが――『ゲームで世界を救いませんか? 新規エデュテイメントプログラム・協力者募集!』というみたこともないアルバイトの募集。
ゲームはすきだし、長期休暇中のアルバイトも探していたところで渡りに船。
コユキとふたり講習を受けた私は、『流れ星の子』となって異世界『ミッドガルド』に降り立ったのだった。
――コハル。
コユキの姉。堅実な就職をだけ目指していたが、『ホシフリ☆ソングちゃんねる!』開設時の衣装原作をきっかけに、デザインの世界へ。
高天原学園芸能科に入学して学ぶ一方、アカネに師事し、才能を花開かせる。
さまざまな衣装を手掛けるようになっても妹愛は格別であり、コユキのウェディングドレスは世紀の傑作と語り伝えられる。
――『母さん』/ミユキ
『星降園』の子供たちを母の愛でいつくしみ育てる美しい女性。『永遠の二十歳』はダテじゃなく、古いアルバムの中の姿も、未来の姿も全く変わらない。
どうやら第五覚醒を成し遂げているのがその秘密であるらしい。
最終試行の終わりまで『スターシード』たちを育て続け、イツカ・カナタたちが里帰りすれば優しく迎え、何かと相談にも乗った。
――アラタ・クゼノイン。
温和な人柄で愛されるホスピタルの医師。医師会長をつとめる。
『ハートチャイルド症』執刀の第一人者でありなから、その技術が無用のものとなった時に、誰よりも喜んだ。
その後も終生ホスピタルにつとめ、流れ星の子たちや、地域の人たちを見守りつづけた。
本当はもっと人数出したかったけどなかなか難しいです……。
次回は絶叫マシン大好きのケンタくんたちのお話の予定です。
どうぞまったりおつきあいくださいませ!




