The C-Part_40秒の、そのなかで~ゆったりと流れる時間を(3)~
2023.05.08
ルゥ=スノウフォレストさん、ただしくはルーさんでした。修正いたしました!
@平原の民の村・入口~ミルルの場合~
同じ過ちを犯さずにすむだけの強さを身につけるため、遠い土地での修行を行う。
わたしのステラ領軍所属はそのための、一時的なものだった。
戻る予定、戻るつもりだったのだ。ゆくゆくは、平原の民の地に。
だから、わたしがライアンさまを倒し、その後継になっては、と提案されたときには、その場でハイと返事ができた。
ルリアさまのティーパーティーで産声を上げた『飛べない鳥トーテムへの偏見をブッこわすぞ計画』は、しかしその後、意外な展開になった。
『もういっそ、空の民の女王候補になっては』という方向になっていったのだ。
さすがにどうしようかと思った。さいしょの形なら、平原の民の地に戻れる。お母さんともまた、一緒にいてあげられる。
けれど、空の女王になってしまったら。……
師として母として、女手一つでわたしを育ててくれたお母さん。
支えてあげたい。楽をさせてあげたい。そう思っていたはずなのに。
きっとお母さんは『やりなさい』という。さびしさを声にも出さずに。
だから、相談できなかった。
迷い迷ってある雨の日、わたしはメイさんのもとを訪れた。
メイさんは、だまって琴を聞かせてくれた。
何分も、ただひたすらに、その音色でわたしを包み込んでくれた。
静かな雨が上がった時、わたしのこころは決まっていた。
『母と話します。寂しがるようなら、計画をもとの形にしてもらうよう、ルリアさまと話します』
そう告げればメイさんは『応援してるわ』とほほえんで、優しく抱きしめてくれた。
はたしてお母さんは、やりなさいときっぱり言った。
『手塩にかけた子と離れる。それは、さびしいにきまっているわ。
でも、その日はいつか必ず来るものなの。
それでもお母さんは、とても幸せよ。
かわいい娘がすっかり立派になって、大きな夢を追いかけるために発つ。
そんな、誇らしい形での見送りだもの。
行ってらっしゃい。がんばって。
でも、たま~に帰っていらっしゃい。ミルルがそうしたいと思ったときにね』
もちろん、メールやコールでもいいからね。そう言ってくれるお母さんをわたしはぎゅーっと抱きしめて……
お母さんもわたしを、ぎゅーっとした。
そんな涙の旅立ちから、数か月。
わたしは晴れて、空の民の女王候補に。
生まれ育った故郷を離れることになるわたしを気遣い、ステラ領軍からの退職手続きをわたしの分まで行ってくれたリンちゃんのおかげで、わたしはこうして、短い里帰りができたのである。
「ただいま!!」
わたしのとなりには、同時に里帰りすることになったベルちゃん。
ふたり一緒に大きく手を振れば、村の入り口で待ってくれていたみんなが、わっと走ってきてくれた。
もちろん、一番にわたしを抱きしめてくれたのは、輝く笑顔のお母さんだった。
――ミルル。
特例措置として一時的にステラ領軍で働いていたが、その熱心な学びぶり、働きぶりと人柄であっという間に人気者に。
町のみんなにも広く愛され、退職とお引っ越しのときには『ミルルちゃんロス』に陥る者さえ出た。
数年の修行を経、リンとともに女王に。周囲の人々ともよく話し合い、慈愛に満ちた為政を行った。
次代に位を譲ってのちは、いち平民として実家に戻り、穏やかな日々を過ごした。
@平原の民の村・入口~ベルの場合~
これからどうしたらいいんだ。
そう途方にくれたのは、二回目だった。
わたしはたしかに父の子だ。
それでも父たちのように拳をかわし、戦うことは絶対にできない相談だった。
わたしたち、うさぎのソウルをもってうまれたものの体は、小さく弱い。父あたりがパンチを放てば、余波でさえ吹っ飛んでしまう。
だから、草原の民の血を引くものとして成人を目指した。
母のように穏やかに暮らし、来る日も来る日も料理をした。
しかし、このままではポイズンクッカーとしての特徴を克服しきるうちに婚期を逃すハメになる、そう判断されたため、やむなく平原の民の成人の試練を受けることになったのだ。
もし、平原の民の長の娘でなければ、もし、ステラとのコネクションがあれば、リンちゃんのようにステラにという道もあっただろう。
それでも、わたしにその道はなく、事故でステラに。
その後小さな葬儀が出されていたと知ったそのとき、積み上げてきたすべては壊れてしまった。
料理の腕も否定され、生きていることさえ否定された。そう思ったわたしは、もう生きる意味もないとさえ思ったものだ。
けっきょくそれは、いくつもの行き違いによる『誤解』だったのだけれど。
それがわかるまでわたしはずっと、父を恨み、平原の地を憎み、穏やかに生きてきたかつての日々を否定するように、戦いにのめりこんでいった。
ステラには弱い体のものたちでも、大きな力で戦うすべがあった。
さいわいわたしにはカードキャスターとしての素質があった。これならいける。これならわたしも自分の腕で生きていける。
いつかわたしを見捨てるだろう、『強い』男を頼らなくとも。
その後わたしは、イツカとカナタと出会い、かれらとともに世界の平和を実現した。
けれど、失念していた。
戦いが終われば、兵の必要は減じる。
はたしてわたしは、予備役への転向を打診されたのだ。
わかっている。わたしにはそとの社会で生きていくだけのスキルも、帰る場所もあるためだ。
それでも、考えさせてくださいと部屋に引き上げたわたしは、ぬけがらのようになってしまった。
現役を退いたところで、『エルメスの家』の家族とのきずなは消えない。それはわかっている。
つまりは、このしごとに。ステラ領軍の兵としてのしごとに依存していたのだと、そう気づいた。
けれど、気づいたところでどうすれば。
途方に暮れていれば、携帯用端末に連絡が。
面会希望者。ルゥだ。
携えたスープジャーのなかには、わたしのすきな味の野菜スープがほかほかと湯気を上げていた。
なつかしいスープを口にしたら、言葉はぽつぽつとこぼれてきた。
ルゥはだまって、話を聞いてくれた。
言葉が全部なくなって、スープが全部なくなって、訪れた静けさはただただ、ここちよくて。
わたしは帰ることを決めたのだ。
ソリス領に。わたしをいちばん、たいせつにしてくれるひとのいる場所に。
平原の民の村で落ち合おう、そう約束してルゥはソリスに帰った。
わたしは転向の手続きを済ませ、数日後にステラを発った。
おなじく軍を辞めた、ミルちゃんといっしょに。
はたしてルゥは、村の門のところで待っていた。
殊勝にも、お父さんお母さんに先を譲ろうとしていたルゥだったけど、優しく背中を押されると、転げるように走ってきた。
「いいわねえ、若いって♪」
「いやいやトトちゃんはわたしとおないどしだからね??」
トトちゃんがニコニコひやかしてくる。
つっこんでると、ラーラちゃんが言う。
「いいなーいいなー。
あたしもそろそろ、いいひとさがそっかな?」
「まっ、まちなさいラーラ、そんなのお前にはまだ早いっ」
いつものクールっぷりがすっとぶルーさん。
これにはラゥおじいちゃんが笑ってつっこむ。
「ラーラもベルとおないどしじゃぞ?」
「うぐっ」
げほげほせきこんじゃうルーさんと、その背をさすってあげるラーラちゃんの姿に、あったかな笑いの輪が広がったのだった。
――ベル。
重なった行き違いから父を、故郷を恨んでいたが、イツカのはからいで誤解が解けたのちは、憎しみを捨てずっと明るくなった。
世界が平和になった後は予備役に転向。平原の民の地を中心に、スペルカードの普及に努める。
なお3Sフラグメント『虚飾』を使っていたころの名残で、カードバトルのさいには『あおり系カードキャスター』な言動が出てしまうのだが、そっちも人気である。
――ルゥ(ルゥ・ホァ)。
珍しいうさぎトーテムの男性。女の子大好きのコミュ強だけど、真実愛しているのはおさななじみのベルだけ。
世界にネットワークをもつ商家ホァ家の直系だが、商家のドンなんて性に合わないと、ふだんはインティライムでガイドをしている。ちなみに有能。
家事も育児もドンとこい! なうさぎ男パワーを大発揮し、結婚後もバリバリ働くベルを支えた。
――ライアン&コニー。
ベルの実の父母。愛する一人娘を『失った』ショックでそれ以降、言動も固くなり、子供を作ることもできなくなっていたのだが、ベル発見&仲直り後はその呪縛から解放。すっかりもとの伸びやかな人柄をとりもどす。
さらにベル帰郷のしばらく後には、めでたく年の離れた弟を授かった。
自らのつらい経験を踏まえ、平原の民の成人の試練のあり方を一部変えるべく奮闘。同じ立場の親たちの支持を得、試練に見守りがつくようになった。
――ルー(ルー=スノウフォレスト)。
北の狼族の長。ライアンの副官を務める美丈夫。
熱いハートのライアンをクールな知性で補佐する。
弱点はもちろん、長代理をつとめるしっかりものの妻、そしておちゃめな娘。
ライアンのつぎの平原の長に推されるが、そろそろ北の地に戻りたいと固辞。以降はゆったりとした日々を送った。
――ラーラ。
ルー=スノウフォレストの娘。しっかり者でありつつもおちゃめ。ルーは彼女を溺愛していて、不埒な男なんぞ近づけさせんと全力ガードしている。
結局、ふたりともに信頼する親族の男性(※年下こいぬちゃん系男子)と結ばれることになるが、父のほうが彼を気に入ってしまってやきもちやいたり、にぎやかに過ごすこととなる。




