The C-Part_40秒の、そのなかで~ゆったりと流れる時間を(2)~
2023.05.05
一部表現を修正いたしました。
わたしの後ろに控えた若い騎士、こいつはわたしを恨んでいていいはずなのだ。
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というか、いちばんの『元凶』はわたしの後ろに控えた若い騎士。
こいつはわたしを恨んでいていいはずなのだ。
@天空城入り口~リンの場合~
「おかえりなさいませ、リンさま!」
わたしが城に戻ると、侍従長セバスチャンを筆頭に、ずらりと並んだ城づとめの者たちが出迎える。
うん、やはり、慣れない。
「あの、……やっぱこうじゃなきゃ駄目なの?
わたしはまだ、女王じゃないのだけれど……」
そう、ルリアさまだったらこの出迎えぶりもわかるのだ。
けれどわたしは、まだ候補者でしかない。
皆にもしごとはいくらもある。出入りするたびこれは、むしろ申し訳ない。
……ということはもう、何度かセバスチャンにもお願いしてあるはずなのだけれど。
『いいえ、わたくしは誰にも命令などしておりません。
みな、リンさまとミルルさまが慕わしく、お出迎えしたくて駆けつけるのです』
ミルルは素直に感激して、それを受け入れたのだけれど、わたしは。
というのも、わたしはこの天空島にケンカを売るようにして出ていった。というか、一部の人間には実際にケンカを売ったのだ。というのに。
「いいじゃないですか。そろそろ慣れてくださいよ、リン様」
「えええ……」
「それとも、俺の忠誠では不足でしょうか。やはり親父の首を」
「そ、そういうのはいらないから!!
もう……」
やりにくい。正直言ってやりにくい。
というか、いちばんの『元凶』はわたしの後ろに控えた若い騎士。
こいつはわたしを恨んでいていいはずなのだ。
なのに、わたしに見せる顔はむしろ逆だった――あのころからずっと。
わたしが天空島を飛び出し、ライアン様のもとに行く前、こいつとこいつの父親が家を訪ねてきたことがあった。
ルリア様にもお叱りを受け、心より反省した、謝罪をしたい。そういうことだったが、そのときは会う気にもならず追い返した。
だが、その後もこいつはやってきた。
ライアン様がかわって話を聞いてくださったところ、謝罪のあかしとして私の騎士となるため、会いに来ているということだった。
わかっている。ルリア様がお叱りを下したいまは私たちが『官軍』。跡取り息子でもなんでも差し出して、なんとかわたしの機嫌を取り、保身を図らなければ彼の家がやばくなる。
なぜって、わたしが天空島を飛び出した直接の原因は、こいつの父親たちにあるのだから。
かれらは、事故で翼を失ったわたしと、わたしをかばう父母のことを、悪しざまに噂していた。
キレたわたしは、こいつに決闘を申し込み……
予想通りに代闘士が出てきたところを煽って、元凶である父親らを釣り出しボコった。
もちろん、その時かばいに入ったこいつのことも、情け容赦なくのした。
いい感情があるわけなんかない。
にもかかわらず通わされるこいつがすこしだけ気の毒になり、そのあと『一度だけ』という条件で直接会った。
そのとき、やつはこう言っていた。
『あれは親父が完全に悪い。そして、それを止められなかった俺も。
あのときは体面上、親父をかばいに入ったけど、むしろきもちよく一発でノックアウトしてくれて感謝してるんだ。
親父も反省して、何度もお宅にお詫びに伺っている。
許してくれと簡単には言えないが、その償いはするつもりなんだ』
『それが、あんたを差し出す理由?
あたしがあんたを、どうするかもわからないのに?』
『リンは優しいな。
もちろんリンたちがそんな冷血だったらまた違っただろうさ。
だが、そうじゃなかった。それが、俺がここにいる理由さ』
そして、どうかわたくしをあなた様の騎士に、と膝をついた。
わたしは、翼を取り戻すことができたらね、そういってやつを帰した。
翼のよみがえる兆しすらなかった。断り文句のつもりでしかなかったのだ。
翼がなければ、わたしは守るべき姫ではない。やつも騎士になる義務など負わずに済む。
そうして数年もたてば、すべては風化して――
と思っていたのに、やつは待っていた。
それも、父上母上の研究に、被験者としてその身を差し出しながら。
やつの家も、資金やらコネクションやらを駆使し、全面的な協力を続けていた。
もう、その手を取らない理由なんかなかった。
そんなわけでこいつは、わたしについてくるようになった。
いや、それは正しくない。
研究協力の時以外、やつはいつも、陰からわたしを見守り続けてきたのだから。
真摯な、優しいまなざしで。
でも。
「いっとくけど。
あたしがお嫁さんにしたいのはミルちゃんだけだから。」
「ぐはっ?!」
だからって、急にデレデレなんて、できるわけもない。
うれしそうに膝をついたやつを待つことなく、わたしはすたすたと城に入っていくのだった。
――リン。
フォルカとアリオン、二つの翼を抱く次期女王候補。
空の民とステラ領の友好の生きた証として、その友好に務める。
リンの幼馴染でもあった騎士を筆頭とするリン・ミルル騎士団を長として率いながら、女王になるべく修行中。
自ら苦労した分、弱い者のきもちがよくわかる彼女は、よき女王になると期待されている。
――名を伏せた騎士。
リンの幼馴染。後継者ランクはリンより少し落ちる。これを覆そうとした彼の父親が、有形無形に彼女を追い落とそうとしたが失敗。彼自身はリンにほのかな好意を抱いていたがそれを止められず、償いのため動き出す。
結局は許しを得て騎士になり、騎士団を結成。リンとミルルの行く末を見守る。
――セバスチャン。
つねに天空城にいて、つとめびとたちを束ねる侍従長。
孫のようにも思うルリア、ひ孫のように思うリンとミルルを優しく見守る。
空の民は老いるのが遅く、長寿であるのだが、そろそろ後継を探したいお年頃。
@天空城ティールーム~執事バルトの場合~
そんなほほえましい若人たちの様子を、そっと見降ろすものがおりました。
我らがあるじルリアさまと、リンさまのご両親たるアークさま、セラさま。
そしてルリアさまの執事たるわたくし、バルトでございます。
「ああもうかわいい……なんだろうもうこのかわいさ!
若いっていいなあ……」
かわいいものだいすきのルリアさまがもえもえなさります。
ほっぺたに手を当てなさったそのご様子、わたくしからすればそちらも同じくらいにお可愛らしい。いまふうにいうならば、もえもえです。
「ルリアさまだって十分お若いですわ?
いつもわたくしたちのお世話をしてくださるのですもの、そろそろルリアさまもよきお方ときゅんきゅんもえもえなラブラブタイムを満喫なさってもよろしいのではございませんか?」
セラさまがちょっぴりはずかしいお言葉を発され、アークさまがうんうんとうなずかれます。ちなみにわたくしも、表現には一考の余地がございますが、同意見です。
ルリアさまを慕う者は、天空島の内外に多くおります。問題なく婚姻を許される位のものから、そうでないものまで幅広く。
それでもルリアさまは、そのうちのどなたにも、ただひとりへの特別の寵愛を下されることはございませんでした。
幼き頃よりつねに、天空島の未来のためにと、つねに前を向いて羽ばたいてこられたのです。
そろそろ後継をとの周囲の言葉に、耳を貸すこともなく。
『わたしの子供だから。そんな理由で未来を決められることになどなったら、その子が気の毒だわ。
さいわい父と母の子に、女王になったことをわたしは後悔していないけれど。
だからわたしが結婚するとしたら、次代を見つけ育て上げてから。
『空の民』はそれが許される命の形をしているのだから』
いつもそう仰せだったルリアさまは、やはりこうお答えになりました。
「いまは一番大事な時期でしょ。リンにとって、ミルルにとって。
ふたりこそいまはわが子のようなもの、……って、実のご両親に言ってしまうのもアレだけど、そう思って育ててあげたいの。
リンとミルルは、わたしの、わたしたちの夢をかなえてくれた。天空島に自由の風を吹かせてくれた。
そのお礼として、ふたりをりっぱな女王にしてあげたい、そう思っているの」
その、慈愛に満ちたほほえみ。
わたくしも恋してしまいそうです――もしもわたくしがもっと、若かったならば。
いいえ、いまは浮かれてはいられません。
ルリアさまにとってもいまは、大事な時期。となれば執事のわたくしにも、大事な時期なのです。
全力でお支えいたしましょう。それはもっと、これまで以上に。
と、こつこつ、ドアがたたかれました。リンさまです。
とびらを開けばリンさまが、ただいまといっぱいの笑顔で飛び込んでこられました。
ミルルさまもこうして、おうちにお帰りになったのでしょうか。
本日ミルルさまは、平原の民の地にお里帰りです。
いまごろご家族と、どんなお話をなさっているのでしょう。
暮れゆく窓の外に、そっと想いを馳せたわたくしでした。
――バルト。
ルリアの執事。ルリアはまだ幼く口が回らないころに彼を『バート』とよんでおり、それがそのまま愛称となった。
セバスチャンとともに先々代の王のころから城につとめており、彼にとってルリアは孫くらいに当たる年なのだが、すっかり美しく育ったルリアの姿にときおりドキドキしてしまう。
リンとミルルが女王候補となったころに、後継候補を選出。こちらの育成にも力を注ぎ、新女王戴冠より二年後、ルリアのみの執事として、女王の執事の座を退いた。
――アーク&セラフィーネ。
アリオン家とステラの友好のあかしとして婚姻を結んだ。それまでもそれまでも波乱続きであったが、このところようやく落ち着いたもよう。
もちろんいまだにラブラブである。
――ルリア。
『蒼穹の女帝』の二つ名をもつ、空の民の女王にして六獣騎士。
たくましくもフリーダムな人柄、愛あるよき治政で広く慕われる。
コツコツ勉強したり修行したりはちょっぴり苦手、差別やいじめは大っ嫌いで、大小さまざまな騒動を引き起こした。
リンとミルルに女王の座を譲ったのち、バルトを伴い念願の冒険の旅に出た。
昨日ちょっと立て込んでおりまして、見直しもそこそこに投稿してしまいましたスミマセンm(__)m!!
というかほんとはサツキさんたちも出したかったけれど、それはまた機会を改めて。
次回は平原の民の地に里帰りのミルル&ベル、それを迎えるライアンさんたち。
どうぞ、お楽しみに!




