The C-Part_40秒の、そのなかで~はじまる、新たな日々!(10)~
わたしはかえってきたー!!
@イーパラ地下闘技場・VIP席~イズミの場合~
カジノ・イーストパラダイス。
原則おとなの遊技場たるここにも、例外的に未成年が出入りできる場所ができた。
それが、ここ。
かつてはアングラ施設であった、いまはただ、文字通りに地下に設けられた場所である、闘技場。
ここの名物は、かつてここを不正の場にした3Sと、かれらを従えた隠しダンジョンの女神ルーレアをボスキャラに据えた、ガチ難易度のボスバトル。
おれたちも在学中に何度もお世話になり、腕を磨いただけあって、勝てるものは多くない。
だが最近ではちらほらと、その数も増えてきた。
少し前まで、月萌はひそかに戦争をしていた。
それゆえに、強い者は有形無形でそれに関わらされ、『走り続ける』人生を送ることが多かった。
つまり、この難易度に挑む実力がある者は時間がなく、時間がある者は実力が足りないという状況で、ルーレアさまたちダンミスは、ド暇な毎日を送っていた。
あまりにヒマすぎて、牧場はじめたり冒険者やってたり。
しかし、その状況もかわりつつある。
きっかけは、『魔王戦争』第五陣くらいから月萌軍が作戦行動として行ったダンジョンアタック。
あくまで仕事として、後半はガス欠になるレベルでかくしダンジョンにトライした経験は、しかし彼らをぐんと強くした。
そのことで月萌軍が、正式に訓練として隠しダンジョンアタックをはじめ。
魔王戦の当時はやりすぎ・ワンパタと飽きられたものの、様々な者たちが挑むようになった後は、クオリティの高いバトル動画は次第に、ふたたび視聴者たちを引き付けてゆき――
やがて彼らの何人かは、自ら装備を身に着けてここにきた。
それから、幾度かの難易度調整や、新ギミックの導入、ボスどうしによるエキシビバトルを重ねるうちに、地下闘技場はイーパラの目玉となった。
ムリゲー企画としてお目見えしたドラゴンルーレア三つ首・四つ首バージョンでさえ、いい競り合いを展開する猛者が現れはじめ、いまノルンでいちばんホットなのがここ『イーパラ・チカトー』といってよかった。
いましも女神フォーム・ルーレア&レイジVSバニー&グリードによるガチバトルが終結。
闘技場がぶっ壊れるんじゃないかというほどの熱い熱い戦いは、万雷の拍手と歓声で幕を下ろした。
「ふぃー。狙って企画しといてなんだが、すっげえなマジ」
その後。
闘技場の熱に当てられたおれたちは、テラスに出た。
風に当たりつつ一休み。ニノがネクタイをゆるめながらため息をついた。
「……だな」
おれもおなじようにする。ノルン山から吹き来る風がここちよい。
これがゲームの中だなんて思えない、そう何度も思ったものだが、今となれば納得だ。
なぜって、そもそも。
おれたちの暮らしてたリアル、そのものがすでに『ゲーム』の世界だったのだから。
そしておれたちは、そのゲームの世界に一度はこころを還した元・人間。
心地よく、かつリアルに思えない訳がなかったのだ。
でも、それはそれでいい。
あれから、おれたちも『かつての記憶』をとりもどした。
おれは、人の身では届かない、スピードを求めて。
ニノは、そんなおれにつきあってくれて。
『エヴァグレ』世界をさまよううち、うっかり呑まれてしまったというわけだ。
そんなことを思い返していると、ニノの声が聞こえ我に返った。
「レイジたちの被害者たちへの賠償も、円満に済んだ。
イーパラもRDWも、ノルン鉱山も西市街も、みんなみんなすっかり賑わいを取り戻した」
それは、つまり。
「潮時だって、おまえも思うか」
「ああ。
『自分たちなどいらないほどにノルンの街が持ち直せば、ともに辞任する』――
そういう契約だからな」
テラスからみえるノルンの街並みは、初めてここにたどり着いたとき以上の賑わいをみせている。
観光する人、働く人、暮らす人。
ここから見える限りではあるが、皆、明るい顔をしている。
イーパラはもちろん、ギルドも教会も町役場に市場、東西の坑道入り口も。
いっとき廃墟のようになっていた西市街は、むしろ東市街以上に栄えた様子になっていた。
西市街西区RDWでは、けも化しての障害物競走『けもけもレース』、リニューアルした射的屋『リスのおやじの超難易度射的屋台』が人気爆発。入り口で整理券が配られている。
店舗のひしめく東区には、たくさんの人があふれ……
中心となるチボリーの道具屋には、売り買いする人々の列ができている。
店の前のオープンカフェ『チェリ&チコのおまんじゅうカフェ』でも、たくさんの人々が『うさぎときつねのしあわせまんじゅう』と飲み物を楽しんでいる。
その様子を優しく見下ろしながら、ニノはいう。
「このしごとは、すっげー楽しかった。
でも、それはあくまで、ノルンを非常事態から救うため、みんなにフォローしてもらってやっていた、ほんのいっときの『お手伝い』にすぎない。
ここでの、俺たちのしごとは、もう終わったんだ」
「そうだな。
……一度戻るか。
あのアトリエに。そこに拠点を置いた、ただの自由な冒険者に。
『ふわひつ』シリーズについてはまあ、おいおいな?」
在学中からニノが仕切っていた案件のうち、『ミルクポーション』についてはすでにコトハさんたちに移管が済んでいる。
『うさぎまん』はチボリー一家に製法を渡してあるし、権利も数年内には完全に譲られる――それは最初の契約通りに。
『ふわひつ』こと『ふわふわひつじ』シリーズには、レオナさんたちの希望もあっていまも関わり続けているが、そろそろ譲り渡していいころだ。
「そうと決まれば話に行くか、イェリコ社長に!」
@西市街、ノルン山方面、門~ニノの場合~
「ふたりとも、もう行くの?」
門を守るものたちのうちひとり、色鮮やかな緑の羽根とポニーテールの少女が、かろやかなソプラノで呼びかけてきた。
ミユウ。この町で親しくなった冒険者のひとりだ。
ここにいた時分はなんやかんやと世話になり、世話を焼いた間柄である。
「おう、まずは俺たちのアトリエに行こうと思ってな」
「そっか。……最後に会えてよかったよ。
あたし、もう少しでAランク100万なんだ」
「マジか!!」
「へへっ。ニノとイズミの活躍見てたら、やっぱあたしもーってね。
試合でたら投げ銭ヨロシク☆彡」
「おおおするわするわー!!」
「がんばれ。今の高天原は厳しいけれどいいところだ。応援してる」
「ありがとー!!
ふたりもがんばって! 応援してるから!!」
俺たちは握手をかわし、手を振りあって別れた。
俺たちのはたらきは、世辞ヌキに評価されていたようだ。
名誉会長・副会長辞任を言い出せば、びっくりするほどみんなから惜しまれた。
イェリコ社長の一声がなければ、いまも慰留は続いていたかもしれない。
『ふたりはまだ若い。もっともっと、ずっと大きくなれるのです。
広い世界を回り、いろいろなものを見て聞いて――
そうしてここに戻ってきてくれるそのときを、楽しみに待ちましょう。
大丈夫。ふたりはここを、この地における故郷と言ってくれているのですから』
そう、このまちは、おれたちのこころのふるさとなのだ。
このさきどれほど世界を回っても。たとえ、アースガルドでもとの体に戻れるようになったとしても。
この町でうまいメシを食い、射的やレースで遊び、働いて、ときには試合して――
降ってくるような満天の星空を眺めながら、とりとめなく茶飲み話をして。
眠くなったらベッドに転げて寝落ちログアウト。
そんな幸せな日々を、これからもずっとふたり、つづけていくのだ。
「しかし、びっくりしたな。
チコちゃんのすきなひと。まさか、ベルカさまだったなんてな」
山道をたどるうちふいに、イズミが言い出した。
思い出すのは、東地区の教会の中庭で、偶然に見たほほえましい光景。
花々に囲まれたベンチの上、手作りのクッキーをふるまうチコと、それを嬉しそうに食べる、私服のベルカさま。
ふんわりとほほを染めて幸せそうなちいさなカップルを見ていると、俺の方まで満たされた気持ちになった。
その後俺たちに気づいたベルカさまは、折り目正しくあいさつをしてきたのだ。
――チコさんと、結婚を前提に交際させていただいております。
今はまだ僕も若輩ですが、男としてかならずやチコさんを幸せにいたしますので、どうか温かく見守ってください、と。
「ああ。
まさかベルカさまが男だったなんてなー……」
俺たちは何年もノルンにいたのに、全く気が付かなかった。
野郎だなんて一ミリも、そう一ミリだって思っていなかった。
イズミのやつが無情にものたまわる。
「ま、いいんじゃないか?
ニノとくっつくよか幸せになりそうだし。」
「おい。」
「だっておまえ、しっかりしてるようでてときどきめったくそ世話焼けるし。
ほっとくとなんにでも首つっこむし。気が付くとしごと抱えすぎてて寝かしつけなきゃ寝ないし」
「ハイ、ドウモマイド、オセワカケテマス……」
言われてみればその通りだった。
平身低頭の俺だが、イズミは笑う。
「ま、いいってことさ。
おれの人生救ってくれた、恩人で相棒だ。その世話だったら、苦にならない。
そんなお前だからいい、一生面倒見てくれるって奇特なお嫁様が見つかるまでは、お前の冒険に付き合うからさ」
「……サンキュな」
ガキのころから、こうと思うと突っ走っちまう、しょーもない俺。
そんな俺をいつもイズミは、めんどうみてくれた。
朝になれば迎えに来てくれ、時には情けよーしゃなくたたき起こし。
夕方になれば宿題やったかと窓をたたき、風邪ひいて熱をだしたら自分も学校休んでついててくれた。
おかげさまでイズミにはもう頭が上がらないのだけれど、俺みたいな暴走キツネ野郎には、やつのようなできた相棒が不可欠なのだ。
「それじゃあ俺はお前の武者修行、どこまでだってお供するからな。
装備だろうがアイテムだろうが、お前を一番輝かせるやつを、どんなむちゃぶりアイテムだってこしらえてやるし。
どうしようもなく気持ちがへこんだときは、そばにいて引っ張りあげてやるさ」
「サンキュ、ニノ」
そうしてふたり、とんとこぶしを打ち合わせた。
ノルン山のうえ、どこまでもどこまでもひろがる、晴れた大空を見上げて。
――イェリコ。
イーパラ支配人。ニノとイズミのよき理解者として、その旅立ちを後押しした。
数年後、その決断は大正解だったことが明らかとなる。
――ルーレア。
ときどきうっかりなおねむ系女神。操作の難しい多頭竜フォームを難なく操る天才バトラー。
かつて敵同士の間柄となった3Sたちとは、いまは仲良し。
とくにレイジと仲が良く、バトルマニアどうし熱い殴り愛を披露して、地下闘技場を沸かせている。
――レイジ。
もと『地下闘技場の処刑人』。現在ではボスキャラ役を務める3S『憤怒』。
試合前にみせる悪党ムーブは『振り切ってていっそここちよい』と評判。
ルーレアとは戦いを通じて認め合い、現在熱愛中。いつもガシガシ闘りあっているためか、ケンカはほぼしないらしい。
――グリード、バニー。
もと金庫&ニセ支配人本体。現在は地下闘技場でボスキャラ役を務める3S『強欲』『虚飾』。
怠惰と高笑いという絶妙な組み合わせの夫婦漫才ムーブはじわじわくると好評。
一方で実力は確かで、歯ごたえのあるバトルを提供。
バニーはその華やかさが評価され、いくどかハーフタイムのライブに出演したのち、芸能界デビュー。グリードがブレインとして付いたため、あっというまにスターダムを駆け上がった。
――ミユウたち、ノルンのまちの冒険者。
ゆっくり遊びたいエンジョイ勢が多かったのだが、ニノとイズミの活躍に触発され、何人かは高天原入りを果たした模様。
じっくり培った実力と自由な発想で、高天原学園の新時代を担った。
その一方で、巨大ロボを作る者もいたりととにかくフリーダム。
――チボリー、チェリ、チコ。
『チボリーの道具屋』を営む年の差夫妻とその娘。
実際は、夫が老け顔で妻が若見えのため、そこまで年の差は大きくない。
一時期、チボリーが西市街に残り続け、チェリがチコを育てつつ東市街で働くという別居状態だったのだが、再び西市街で仲良く暮らすようになった。
チコの気の強さは相変わらずだが、優しいベルカ様にだけは弱い。
――ベルカ司祭。
東地区の教会につとめるねこみみ司祭。チコとおないどし。父譲りの高い適性から、幼くして神の道に進んだ。
かわいい容姿にかわいい声のいわゆる『男の娘』だが、カナタは正体を見抜いていた。
優しく穏やかな人柄で、才気煥発のチコとはいいコンビ。そしてラブラブ。
かわいらしい二人の逢瀬は、教会の中庭を訪れる人々にしあわせをくれる。
――リスのおやじ。
RDW敷地内で射的屋台を営む、もとAランクガンナー。商売柄愛想よくふるまっていたが、カナタとの出会いがきっかけでキャラ変。思い切って射的場の難易度もどんと上げる。結果、屋台もおやじも人気爆発。
近々、Sランクを目指して武者修行の旅に出る予定である。
――ニノ、イズミ。
3Sたちの暴走で危機に瀕したノルンの街を立ち直らせるため、イーストパラダイスグループの名誉会長・副会長として、さまざまな企画を打ち出した。
短期間で前以上の活況を導いたのち、契約通りにさっそうと辞任、ミッドガルド放浪の旅に出た。
その才能はホンモノで、数年後ノルンにもどったのちに、町議会員など数々のポストを経て町長・副町長となる。
しかし長くその座にとどまることはなく、数年後また旅立ち、各地で困っている人を救い続けた。
のちにノルンの街の広場には、二人の銅像が建てられた。
金青のオッドアイには宝石がはめ込まれ、山からの朝日を浴びるととくに美しい。
長いけど、もうけずれないのでこれで行きます(`・ω・´)
次回、新章。Cパートで新章かい。
はじまる、つづく平和な日々。
クゼノインの用心棒に就任したのは……?
どうぞ、お楽しみに!




