The C-Part_40秒の、そのなかで~はじまる、新たな日々!(7)~
@かもめ島、執務室~ユリの場合~
データ整理はひと段落。お茶を片手にクルミとレアが言葉を交わす。
「レベル高いですねー、応募者さんたち……」
「ほんとに。
もうふつーに軍に入ってていいレベルのひととかサラッといるし……」
かつて『魔王島』と呼ばれた島は、世界の人と技術が交わる場所になった。
それにともない、我々の『顔』もかわった。
魔の島に棲む敵を倒すための一隊から、皆の楽園を守るための騎士団に。
この先中く続く平和。守るには、人手がいる。我々は、世界にむけて募集をかけた。
結果。予想を上回る数と質の応募に驚くことになったのだ。
「やっぱり『前歴問わず』のおかげですかね?」
「たぶんこれエージェントだったろうなってひとかなりいますからね、きっとそうでしょう」
理由はわかる。魔王戦を通じ、魔王軍が一度もエージェントたちを使い捨てにしなかったためだろう。
このセカイでは、使い捨ての体を持つことができる。
逆に言えば、工作員の仮の体を使い捨てるのは、むしろ『ふつう』の手段で。
それをさえ避けたのは『甘い』とも言われたが、それでもやはり、現場の人間の信頼は集めていたのだ。
うれしい一方で、緊張もする。
ひとつひとつの応募者データの裏に隠された信頼を思えば、背筋が伸びる。
はじめて「長」を拝命したときのきもちが、なつかしくよみがえる。
「……こたえなきゃいけないな。
かれらの信頼に」
口をついて出れば、ふたりとも『はい!』といい笑顔で答えてくれた。
「失礼します」
そのとき、コンコン、とドアがたたかれる。
そう、そろそろ視察の時間だ。
月萌軍からやってくるのだ。かつての上司、エイジ・ツヤマ統合幕僚長たちが。
彼の娘にして後継者候補、ルリ・ツヤマも伴って。
わたしとルリとは親戚同士。いつも一緒の幼友達だった。
けれどいつのまにか、二人の距離は離れていて。
ひさしぶりに言葉を交わした時には、考えかたも離れてしまっていた。
『大神意』のせい、というのは簡単だけど――。
歩を進めてゆけば、船着き場にはもうルシードとマユリがいた。
かれらもまた、すこし戸惑いを残した顔でいる。
わたしたちは魔王戦争の際、程度は違うながら月萌軍に冷遇された。
その件については、公式にはもう終わっている。
名誉は回復ずみ。つらい思いをさせてしまったと、気遣いねぎらうメッセージも受け取ったし、なんならすでにオンラインでの協議も大人の顔で済ませている。
我ら『シーガル聖王騎士団』は、月萌・ソリステラスから距離のある公海上の小島アルム島と、その周辺の平和維持のため、両国からの委嘱を受け活動するNGOという立ち位置となっている。
そして、わたしたちはその活動のためにと円満退役。
すでに、そういうことになっている。
けれど、直に彼らと会うのは初めてで。
はたしてわたしは、きちんといられるのだろうか。
あくまで関係者を迎える、大人の顔で。
そう思ったとき、水平線に機影が見えた。
あちらは、月萌軍式の敬礼で。こちらは、胸に手を当てて。
帽子をかぶっていたルシードは、しっかり脱帽もして。
挨拶を交わせば、ツヤマ統合幕僚長はすっと歩み寄り、こう言ってくれた。
「あなたがたには、月萌軍所属時、不当なつらい思いをさせてしまいました。
長たるわたしの、監督不行き届きです。
そのことをまず、お詫びさせてください」と。
もう一度、こんどは、ひととしての一礼とともに。
それは彼の偽らざる本心だったのだろう。
わたしの胸のつかえは、するりと潮風に吹きさらわれていった。
仲間たちをみわたせば、同じきもちのようだった。
わたしはただ、ストレートに伝えた。
「ありがとうございます。
そのお言葉で、胸奥のつかえもすべて溶け去りました。
皆も同じ気持ちです」……と。
同じようなやり取りは、あのらくがきの前でもあった。
あの、永訣の朝。誰かが書き残した『さようなら』。
そしてその下に書き足された『なんて言わないよ!^^』の前で。
消すか、隠したほうがいいかという議論もした。けれど、消すなんてことはできず、かといって隠すのもまた不自然に過ぎる。
結果、そのままになっていた、それの前で。
「いまではもう、笑って話す話題です。
イツカさんカナタさん、そして、島のみなさんが暖かかったから、でしょうね。
島に着いた時にはもう、わたしたちのための素敵な療養施設も用意してくれてあって、うれしいやら、驚くやらでした」
『魔王軍』にはソリスの匠や、研究所から派遣された建設の申し子がいたが、それをしてもにわかに作れるものではなかった。
おそらくは、あのしろうさぎの天才軍師の入れ知恵だろう。
けれど、不用意なことを口にして、彼に何かあっては申し訳ない。
ただ、優しい魔王の魔法でしょう、とふんわりさせておいた。
さわやかな潮風の中、視察は滞りなく終わった。
別れ際にルリは、そっと言い残していった。
「また会いたいね。今度は、幼馴染として」
私の口から出たのは、気負いのないそうね、だった。
またねと笑みを交わし、ちょっと手を握り合い。
そうしてわたしたちはもう一度、海のこちらと向こうへ別れるのだった。
――ユリ・ツシマ。
ツヤマ家の親類にあたるツシマ家の出身。ルリとはおさななじみ。
いつしか立場をたがえ、考え方をたがえていたが、このたびまた仲良しにもどった。
会えない日にはメールしあい、休暇には一緒にショッピングに繰り出したりと楽しく過ごしつつ、お互い『いい人いないかしらねー』と言い合う今日この頃である。
――クルミ、レア。
『シーガル』のわんこそうび二人組。
隊の中では一番真面目で、いつしかユリを補佐する立場に。
かわいらしくもしっかりしごとする姿に、周囲の信頼も厚い。
『いまは仕事が楽しいから恋愛はいいや』と言っているが、そんな彼女たちにさりげなくアピールするためと、料理を頑張る男子が島に増えたもよう。
――ルシード、マユリ。
新卒なのに軍でいろいろあったふたり。心配していたご家族のため、しばらくは実家と行ったり来たりしながら働いていた。
その気持ちも落ち着いてしばらく後、結婚を機にアルム島移住。
天気の良い日には竜化し、島周辺の空を飛んで楽しむことも。
美しい空に映える銀竜の雄姿は、アルム島の名物となった。
――エイジ・ツヤマ。
月萌軍統合幕僚長。温厚な人柄で、個人的に管理派の考え方、やり方には賛同できずにおり、己のできる限りで筋を通そうとし続けてきた。
その努力を知る者はみな、彼を敬い慕う。
このしばらく後に退官するが、そのパーティーには多くの人々が集まった。
現在は悠々自適の生活の拠点を探して、アルム島を含めあちこち旅している。
――ルリ・ツヤマ。
エイジのひとり娘として、後継者候補に目されていたものの、いまだ若輩であるとこれを固辞。アルム島をつうじ、月萌と世界の懸け橋になり、また学びを進めたいと『シーガル聖王騎士団』へ。ユリを補佐し、ときに一緒にハメを外したり。
戦いの日々のなか、アスカに抱いた憧れはいまだ消えず、いい人を探している。
業者さんとのやり取り……胃に来るのです……
いろいろ提案してもらったのに、お断りする際の申し訳ないなーってのがもうつらくて。
そもそも対処せにゃならん連絡が来る状態にあること自体こみゅしょーにはツラいっす(爆)
そんなわけで予定の半量&文章おかしいかもしれないという事態だったりします。
ごめんなさいm(__)mミスは気づいたら直します!
次回、がんばるおとなたちの様子をお送りする予定です。
どうぞ、のんびりお付き合いくださいませ。




