The C-Part_40秒の、そのなかで~はじまる、新たな日々!(1)~
@高天原校内スタジオ~ミライの場合~
「うわあ……うわあ、かっこいい!
デビュー決定おめでとう、みんなー!」
スタジオにはいると出迎えてくれたのは、かっこいいおそろい衣装でキメた七人。
このたび設立の芸能科に転科をきめた、新星アイドルバトラー――『セプテントリオン』だ。
その正体は、おれの入学と同時に、零星脱出した『さいごの七人』。
騎士団で一緒に活動した、仲間たちである。
「えへへ、ミライさんに言っていただくと照れちゃいます!!」
「でももっと言ってください!!」
「がんばりますよ、騎士団に、ミライさんたちの名に恥じないように!!」
「だからもー、さんはいいよってー! むしろおれのほうが後輩なんだからねっ?」
いまさら『さん』づけなんて、はずかしい。それでも、みんなも引かない。
「でも、俺たちよかずっとずっと、戦ってくれたじゃないですか!」
「無星だったときも、いっぱいたすけてもらったし……」
「魔王軍基地に言った後も、俺たちのためもどってきてくれて!」
「ラスボス戦だって行かれたし!」
「むううう……だったらおれもみんなのこと、さんづけで呼んじゃうからねー!!」
そんなふうに言い合って、おれたちは笑いあった。
「ミライさ……ミライも、講師になってくれるって思ってたけど。断ったんだって?」
そのあと、やっぱりな質問が。
「うん。おれ、レモンさんや『しろくろ』のふたりとくらべたら、まだまだだもん。
だれかの先生役になれるほど、ちゃんとアイドルの勉強してきたわけでもないし。
ヴェニーズ・ワルツの練習なら、おてつだいできるかもだけど!」
「そのときはぜひお願いしますっ!!」
「はいっ!」
あのとき。ソナタちゃんと踊りたくって、おれはいっぱいいっぱい、めいっぱいがんばった。
正直これまでの人生で一番くらいにたいへんだったけど、いまふりかえると、それでもやりとげられたことが、確かな自信につながってくれたのがわかる。
おれはやっぱり、ちょっとどんくさくって、不器用だ。
でも、そんなおれでも、ミズキたちに助けてもらっていろいろ工夫したら、できたのだ。
その体験はきっと、あとにつづくみんなのお役に立つ、そう思う。
「でもさ、来年くらいにはきてくれるだろ?
ソナタちゃんたち入学じゃん。そんときはやっぱし……」
「えへへ。そうできたらいいな。
そのためにもいまは、アイドルの勉強、もっと頑張らなくちゃ。
だからおれね、再入学させてもらおっかなって、芸能科に!
一度卒業した生徒が再入学って、例がないっていうけど……」
「まじかあああああ!!」
「うれしすぎだろ!! ミライ――!!」
「ありがとみんなー!!
できるだけはやく再入学できるよう、がんばるねー!!」
おれたちはわちゃわちゃ、団子になって喜び合った。
ほんというと、カレッジの芸能科はどうか、とも言ってもらえてた。
そうしたら、ミズキといっしょに通学できるし、イツカたちとカナタたちともいっしょだ。
ミライなら実績もあるし、それだけで入学資格を得られる。むしろカレッジが講師として招くレベルなので、講師のしごとをしながら学べばいいと。
けれどおれはただ『いっしょにステージでよう!』といってもらってレッスンを受けて、いっしょうけんめい歌ったり踊ったりしてきただけで……
アイドルになりたいと願うみんなのために、ちゃんと系統立てて、役に立てられる話をしてあげられるわけじゃないのだ。
おれの話を聞きたいとお声をかけてもらえるのは、すっごくうれしいし、誇らしい。
けれど、ただのにぎやかしじゃなく、ちゃんと話ができるように。
だれかを傷つけてしまうようなことを、うっかり言ってしまったりしないためにも。
まずはちゃんと、勉強したいのだ。
この、高天原学園で。
いっぱいいっぱいあこがれた、いっぱいいっぱい奮闘した、でも終わりの方は、駆け足で走り抜けてしまった気がする、この場所で。
それでもどうしても、というときには、ミソラお姉ちゃんやユズキさんたち、そしてもちろん、イツカとカナタとミズキたちが、たすけてくれるというので、『体験談でいいので!』とお招きしてもらったら、勇気を出していくつもりだけれど――
その点、ルカとルナはすごい。
高天原に来る前からアイドルを目指していただけあって、おれたちは在学中からずっとお世話になってた。
『ちゃんとした先生じゃないんだから、まるっきりうのみにしちゃダメよ?』とはいってたけれど、ふたりから教わったことがまちがってたことなんて一度もない。
ふたりも、そのことをレモンさんにみとめてもらって、堂々と芸能科の講師を引き受けた。
すごいといえば、シオンもだ。
シオンは芸能科でも、さらにもうひとつの新設科でも、講師をするのだ。
それは、『情報科』。
これまで高天原学園で、情報系は冷遇されてきた。
冒険者ランクA、TP100万を達成しちゃうような優秀な情報系は、学園に来るとラビットハントを仕掛けられたりしてΩにされて、拉致されるように研究所に囲い込まれてきたという。
月萌の『秘密主義』が隠してることを、暴かれないために。その一方で、戦局を有利なものにする、その力を利用するために。
『けれど今ミッション『エインヘリアル』が、戦争が終結し、そんなことをしなくてよくなった。
シオンには、その黒い歴史の最期を知る人間として証言し、二度とそうした愚が繰り返されることのないよう、あすの情報系たちを導くひとりとなる。
シオンさえよければ、国立研究所員の一人として、それを行ってほしいんだ。
この暴挙を止めるためにとはいえ、高天原の体制に食い込み――そのために君たちを犠牲にしてしまったわたしたちには、できえないことだ。
もちろん、つまらない圧力などかけさせはしない。全力で君たちを守り、サポートしていく。
頼まれてくれるだろうか?』
エルカさんのそのことばに、シオンは力強くうなずいていた。
そしていま、シオンはソーヤをアシスタントに、その準備を進めてる。
ミソラお姉ちゃんのかわりに学長のおしごとをする、シルヴァン先生と話し合って。
かくいうおれも、そろそろシルヴァン先生との面談の時間が迫ってる。
『セプテントリオン』のみんなともう一度エールを交換すると、校内スタジオを出た。
そういえばと、ちょっと心配なことを思い出した。
お兄ちゃんとお姉ちゃんは、ただいま休暇中。
お姉ちゃんのかわりはシルヴァン先生だけれど――お兄ちゃんのかわりは?
イツカは忙しすぎて無理だし、ミズキもクゼノインのことがある。ほかの仲間たちも、それぞれ忙しい様子だった。
誰か、いいひとみつかったかな。
いまはシルヴァン先生が、二倍頑張ってその穴を埋めているってきいたけど……
でも、学長室のドアを開けると、そんな心配もとんでった。
学長先生の机のところで、シルヴァン先生と話してたのは。
「ああ、ミライ君。
せっかくですので紹介しておきましょう。新しく戦技指導教官に就任してくれた『スケさん』先生です」
月萌最強の骨剣士――の、なかのひと。
すっきりした白いワイシャツと、ぱりっとしたスーツにネクタイもかっこいいその人は、おれにむけてニッコリ笑ってくれた。
――『セプテントリオン』。
匿名の寄付によって一時に零星脱出した『最後の七人』。
『騎士団』を主軸にそれぞれ学内で活動していたが、このたびアイドルバトラーグループとしてデビュー決定。グループ名はそれまでネット上で俗称として呼ばれていた『セプテントリオン』を採用した。
新設学部『芸能科』の第一期生として、またアイドルバトラーとして、後輩たちに頼りにされる存在となった。
――シルヴァン。
『リアルエルフ』『オカン』のあだ名を持つ、美貌の男性教諭。マイロたちとともにミソラ・ノゾミの留守を守った。
『先祖返り』として『スケさん』と縁があることが判明。もともと高天原学園は人手不足であったため、戦技指導教官としてスカウト。ともに生徒たちの指導に当たり、しっかりとした分析と、オカンさながらの愛のある指導で、生徒たちに頼りにされた。
『スケさん』はとても仲がよく、互いを互いが補うナイスコンビだが、その手合わせは『青嵐公』VS『月閃』の再来と言われ、恐れられている。
――『スケさん』。
β居住区の資産家の息子。とあるきっかけで大学生時代に身を持ち崩しΩとなった。
『ティアブラ』でのイツカとの運命的な『再会』をきっかけに更生、『ネームド』プレイヤーとして活躍するようになる。
イツカとは前世からの縁がある。というかイツにゃん大好き。大好きすぎて『大神意』さえもふっとばした猛者。
戦争ではなくスポーツの一環に生まれ変わったティアブラバトルに、さらなる熱量を吹き込んだ立役者の一人。
面談をおえたおれが学長室を出ると、そこには学園メイド隊のみんなをはじめとした、いろんな人が待っていた。
事務の人、医務室の先生。マイロちゃん先生もいた。
「どうでしたの?」
「再入学、許可していただけそうですか?」
「いっいえその、ミライさんはおそらく寮生ではなく通学生となりますし……」
「そうなると全寮制廃止の先駆けとして、こちらの調整も必要となって参りますもの!」
赤のセミロングのアップルさん。黄色のボブのパインさん。
グリーンのハーフアップのキウイさん、オレンジ色のシニヨンのオレンジさん。
五人いたメイド隊のうち、紺色のポニーテールのブルーベリーさんは、本格的に当主としての引継ぎを始めるミズキの秘書役を務めるために退職。もう、ここにはいない。
その発表がされたとき、学内は納得に包まれたのを覚えてる。
ふたりは隠してたけど、なんとなーく気づいてたのだ、みんな。
『ちょっと悔しいけど超お似合いっス!!』『おふたりなら祝福できる!!』『しあわせになってください!!』とのメッセージが、いっぱいいっぱいきたものだった。
いけないいけない、ぼうっとしてたら。
「あのね。もうちょっといろいろ、調整がいるみたい。
ごめんなさい、できるだけ早く結論出るようにするね!」
「そんなそんな、謝らないでくださいませ!」
「みんな、ミライさんのこれからが楽しみなのですわ。
どうかお気にやまれず、ベストの道をさがしてくださいませ!」
「わたしたちみんな、ミライさんを応援してるわよ!」
急いで返事を返すと、みんなからあったかなことばをいっぱいもらえた。
さいしょは、『天使堕ち』での『入学前研修』で――イツカとカナタのフットマン役として、学内をあるくようになったおれ。
学生のそれとはちょっと違う、研修生のブレザーをきたおれを、みんなはあたたかく、新入りの仲間として迎えてくれた。
みんなにお世話になって、いろいろ教わって。
ときどきドジもしたけれど、がんばってたおれに、みんなは優しくて。
そんなみんなのために、もっともっとがんばってたら、もっともっと仲良くなれて。
αへの、生徒へのみちが半ば閉ざされた状態ではじまった高天原ライフは、お兄ちゃんお姉ちゃん、イツカにカナタ。そしてみんなのおかげで、しあわせなものだった。
そのことがあらためて胸に迫って。
「ありがとう、ありがとうみんな!!」
おれは、めいっぱいのありがとうを告げたのだった。
――学園メイド隊。
月萌最高のシティメイド五人によるスーパーレディ隊。生徒たちの協力を得ながら、学園の生活環境を維持している。
ブルーベリーの退職で四人になってしまったため、現在新メンバーを募っている。
応募者には男性もかなりいるが、その多くが『制服はメイド服でオナシャスッ!!!』と熱く主張するという。
――学園事務員、医務室の先生。
あまり出てないが、彼らも学園を支えています。ご苦労様です。
シオンが起こした幾多の事件、イツカがポテスト後に起こした『お祭り』も、いまではいい思い出。
ほんとよくアレ人死にでなかったよねと、いまでもしみじみ語りあう。
高天原の事務、医務さんってとんでもなくタイヘンな気しかしない……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
次回、アイドルたちのこれから。そして、新しいダンサーズも結成?
どうぞまったりとおつきあいくださいませ♪




