The C-Part_40秒の、そのなかで~楽しい宴(5)~
@ハヅキ家・お茶の間~ノゾミの場合~
俺とミソラは、高天原にゆくまえから未来を誓っていたといっていい。
しかし、結婚はすべてをなし終えてから。でなければせめて、ミライがりっぱなαになってからと決めていた。
だが、すべては最高以上の最高に終わった。
そうして今日は、両家の両親祖父母(さらにうちからは弟ミライも遅れて到着予定)が集まっての顔合わせである。
いや、そのはずだ。
そのはずなのだが――おかしい。
「なんだかすごくいつもどおりすぎないか……??」
テーブルのあちらがわにはハヅキ家一同。こちら側にはアリサカ家。
だがそのあいだには緊張感どころか、改まった空気すらかけらもない。
これではただただ、ちょっといい服を着て集まった茶会でしかない。
ミソラもあははと陽気に笑う。
「まーウチとアリサカ家じゃもう、今更だもんね?」
「そうねー。二人が小学校のころから行ったり来たり、改まろうと思っても逆に難しいわ!」
「ほんとほんと」
「ねー」
女子軍団はもはやリラックスしすぎるほどにしまくって、まんま世間話が始まりそうな勢いだ。
俺たち男連中は、これでいいのかとぼーぜんとするばかり――いや、ひとり例外がいた。俺に憑いていた『憤怒』、レイスだ。
ナツキよりひとまわり小さいくらいか。五歳くらい、俺とどこか似た黒髪の男児の姿を取ったやつは、おふくろのひざですうすうと眠っている。
俺の中で多くの時間を眠って過ごしていたため、身も心もまだまだ子供のやつ。
ミソラが管理派やルク派に脅かされる心配がなくなり、俺が荒ぶる必要もなくなると、やつもすっかりおとなしくなった――むしろ平均的な五歳児よりずっとおとなしいほどに。
そんなやつを見て、おやじもおふくろじいちゃんも『うちの子になってもらいましょう、レイスくんがいやじゃなければだけど』と即決した。
レイスはニッコリわらってうなずいて、アリサカ家は新たな家族を迎えたのだ。
そして今日。さらなるあらたな家族が増えることになった。
両家の歓迎の元、俺とミソラの結婚は正式に決まったのだ。
つまりこれから、アリサカとハヅキは、名実ともに家族になる。
俺とミソラの出会いはティアブラ。
それからは、ミッドガルドとリアルの双方で、絆を深めて。
俺がハメられて『鬼神堕ち』したあとは、仲間たちと力を合わせ、全力で高天原に食い込んでいった。
結果、ミソラは学園の長に。俺は、教員となったが……
もしかしたらそれについては、手放すことになるかもしれない。
俺たちは『下剋上』されたのだ。
いま、学長室で仕事をしているのは、シルヴァンなのである。
学園にもどった俺たちは、マイロやシルヴァンをはじめとした教員仲間、さらには学園メイドたちにまで言われた。
『ここまで一番大変だったのは二人よ。まずはしっかり休みなさい。新婚旅行、いくんでしょ?』
『いいですか、お子さんを授かったなら育休もしっかりとってくださいね。おふたりは後に続くわれらみんなのロールモデルになるんですから!』
いや俺たちなんかモデルにすんなよ、そう口から出た。
正直言って、クソみたいに大変だった。
必要とあらば戦う。それは大事なことだが、かといって俺たちの歩んだ道のりを、誰かに真似させたいとは思わない。
むしろ、俺たちのようにならないように。そんな未来を創っていきたいのだ。
しかし『ラスボス戦』に参戦し、ルクの竜の首とやりあったのは確かなこと。
それを論拠に『まず最初に休んでくれ』と言われれば、あとの連中のためにもハイというほかないのである。
そんなわけで俺たちはシルヴァンたちにあとを頼み、体を休め、結婚にむけての準備をすすめた。
休暇は、三日間。
それが終わったら、今度はシルヴァンたちに休んでもらい、俺たちが進めていくのだ。
高天原学園史上初となる、あらたな学部の創設を。
そんなことを考えていれば、ピンポンとチャイムが鳴った。
インターフォンを押すまでもなく分かった。ミライだ。
ミソラが嬉しそうにパッと立って玄関へ。
すぐに連れられてきたのは、かわいらしいスーツ姿で、おれたちみんな大好きな特製蒸しケーキととりどりの花束をかかえ、いっぱいの笑顔を浮かべたミライだった。
――ミソラ・ハヅキ。
『救世主』イツカ・カナタをはじめとした数多くの傑物を輩出、学内においても数々の改革を行った『伝説の学長』として、また『世紀の歌姫』として名を残す。
ただいま花嫁修業がマイブーム。努力のかいあって、料理はそろそろひとりでも大丈夫のようである。
――ノゾミ・アリサカ。
家事一般なんでもござれ。『ミソラの方が忙しいのだから家事は俺がやる』と言っているが『それでもちょっとはやりたいの!』と主張され、可愛さにノックアウトされたりして幸せ真っ盛り。
『仲が良すぎるとなかなか授からない』の言葉通り、子宝に恵まれたのは数年後だったが、みごとなほどに子煩悩な父親に。教員としての鬼モードとの落差がすさまじすぎると評判である。
――レイス・アリサカ。
ノゾミが抱いた激しい怒りにより生まれた3S。
ミソラの入れ知恵をうけたノゾミに『お前の望みをかなえる、おいしいとこだけ回すからそれまではのんびりしてろ』と説得され、暴れることなく共存するようになった。
素の性格はむしろおとなしい。ノゾミのキュウビのしっぽのなかでもふもふおひるねするのが大好き。
戦いが終わったのちはアリサカ家の子として迎えられ、幸せに暮らす。
――ハヅキ家両親・祖父母。
ミソラがスターシードとして目の前に現れたとき、彼女を保護した。
長く子を望んでいたため、手離せずに我が子と偽り育てる。
このたびアリサカ家も同じ過去を持っていたと知り、ますますその間柄は近づいた。
ノゾミとミソラの結婚後も互いに行ったり来たり、にぎやかに仲良く過ごす。
――サンジ・アリサカ。
長く子を望んでいたため、ノゾミを保護したとき、手離せずに我が子と偽り育てた。
しかしノゾミも偶然ともに軽度の遠視であったため、親子のあかしとして黒縁眼鏡をお揃いにした。
ノゾミとミソラの子にもそれは受け継がれ、三世代で黒縁眼鏡を愛用。『ベスト・メガネスト』特別賞を受賞した。
――ヨウジ・アリサカ。
サンジの父。代々軽度の遠視だが、意地を張って生涯眼鏡をかけなかった。
大事なときだけ歴戦のがんこじじいモードになるが、以降の人生で再びそれになることはなく、穏やかに過ごす。
孫ノゾミに子が生まれたときにはひ孫煩悩全開。がんこじじいモードとの落差がすさまじすぎると評判になった。
――カコ・アリサカ。
長く子を望んでいたため、ノゾミを保護したとき、手離せずに我が子と偽り育てた。
実子ミライを授かったのちも、その愛情は変わらず、ふたりをともに大切にした。
ノゾミの恋人のミソラ、ミライが愛するソナタを娘のようにかわいがり、それぞれ結婚がきまったときには、喜びのあまりその場でぴょんぴょんダンスした。
楽しい宴ラッシュはこれにてひと段落!
ここからは、高天原を中心として、新たな日々にスポットが当たっていきます。
次回、高天原学園新学部、そしてあたらしい講師!
どうぞ、お楽しみに!!




