The C-Part_40秒の、そのなかで~楽しい宴(3)SIDE:A~
@ステラマリス城・花嫁控室~メルの場合~
ステラ領では、小さなこどもたちもお茶を飲む。
水に含まれる精霊力に偏りがあり、生水を飲むのが危険なためだ。
とくにお酒を飲めない子供たちにとり、茶葉を通して精霊力を調整することのできるお茶は、生命線といえるものなのである。
それを忘れずにお茶を商ううち、うちは大きくなった。
みんなを愛し、愛される茶所イングラム。その結婚式は『いままでありがとう』と『これからもよろしくお願いします』を伝えるためのもの。
だから、小さなこどもたちを呼ばないという選択肢ははじめからなかった。
ただ、問題は――
『この規模だと会場んなか、すげえことになるぞ。チビたち、ビビっちまったりするんじゃねえか?』
『ですわね……』
『そうなると、子供たちには後日、うち主催でティーパーティーとかのがいいのかな……』
人の多さで子供たちが怖がったり、体調を崩したりしてしまうのではないかということだった。
優しいコルネオさんも、ふだんクールなアイリーンさんも心配そうだし、お気楽なアル兄さんも思案投げ首。
『たださ。
『エルメスの家』の子供って、オトナの事情で入れられてる子もいるんだよな。
そういう子たちにとっちゃ、堂々親に会える貴重な機会でもあるよな。
楽しみにしてるやつもいるはずだし、それ考えると呼ばないってのもな……』
けど、タクマ君の言うことも、もっともなのだ。
別の世界からスバルちゃんとふたり、突然ここに召喚されてしまったタクマ君には、たとえ記憶はなくっとも、親と離れてしまった子の気持ちがわかるのだ。
『問題は、会場にきてからのことですよね。
まずはご招待して、当日様子を見てみませんか。
大丈夫そうなら、式に列席してもらってもいいし、無理そうならば、用意した別室から見学してもらう。
そこのあたりは、話を大きくしたわたしたちでどうにかしますので、アルさんたちはお気を使われないで大丈夫ですが……いかがでしょう』
最終的には、こどもたちをよく知るエルメス様のプランで準備が進んだ。
はたして当日、こどもたちは入り口から別室へ移動となった。
一生懸命隠してるけど、カリナさんは落ち込んでいた。
そもそもカリナさんはこども好きなのだ。ひとりでもこわがる子がでてしまったということは、痛恨のできごとなのだろう。
それでも、悲しい顔をしたら兄さんや、妹となるあたしが心を痛めると、全部自分のなかに、押し込めて……
がんばって、わりきったふりして、笑顔をみせようとして。
「こんにちわ、ジュディだよー!
カリナさんいるー? おとどけものだよー!」
そのとき控室のドアをこつこつ、たたく音がした。
つづく声は、パインあめを転がすようなスイートボイス。
「はい、どうぞ」
カリナさんの声にドアを開けると立っていたのは、かわいらしいカップル。
イツカナさん拉致事件で仲良くなった、ジュディちゃんとレム君だ。
「あのね、こどもたちから、お手紙。
いそがしいかもだけど、今読んだげて!」
そのことばに封を切ると、並んでいたのはこんなことばたち。
『あるおにいちゃん、かりなおねえちゃん。
きょうは、けっこんしきにおまねきいただきまして、ありがとうございます。
すっごくすごく、おっきなぱーてぃーになるときいて、とってもたのしみです。
がんばるけど、もしも、めいわくとかかけちゃったら、ごめんなさい。
もしかしたら、びびったりして、しんぱいかけちゃうかな?
でも、そこはだいじょぶです。
きょうは、おにいちゃん、おねえちゃんたちのはれぶたいだから、ちょっとだけワガママに、たのしんじゃってください!
いつもありがとう。これからもよろしくおねがいします。
『エルメスのいえ』のみんなより。』
「もしかしてこうなることもあるかもなって、カナタさんたちとも相談して、あらかじめお手紙を書いていたんです。
どうか、ご自分を責めないであげてください、カリナさん」
「ちっちゃな子たちね、ちょっとおどろいちゃったけど、でも楽しくしてるからだいじょぶだよ!
すてきなVIPルームに案内してもらって、おいしいお菓子ももらえちゃったし。
だから、落ち込まないで! ありがとね、カリナさん!」
かわいらしい使者二人は、この上ない救いの福音をとどけてくれた。
わたしは今日から姉となるひとの目元に、ハンカチをそっとあてた。
少しお化粧をなおして、本当の笑顔を取り戻したカリナさんは、とってもとても、きれいだった。
結婚式のときのルイーズ殿下と同じくらい。もしかしたら、それ以上に。
そんな幸せをもたらしてくれたのは、誤解からツメてしまった、異国の王子様たちとその仲間たち。
わたしたちは、なんて幸運なのだろう。こころから、そう思う。
職人のみなさんが上げてくれた花火が空を彩り、ユエシェ三名手の琴の音が優しく流れる。
そんな最高すぎる宴の真っただ中、そっとありがとうを伝えれば、うさみみとねこみみの素敵な王子様たちは、どういたしましてと笑ってくれた。
――コルネオ・レガーシ。
ユーニオ党党首として、町の頼れる『おっさん』として、陽気な巨漢ぶりはますます進化中。
しかし『妻の手料理は残さない』がモットーのためか、そろそろおなか周りを気にしないとやばい模様。ダイエットをかねて、毎日元気に町を走り回っている。
――アイリーン・ユエシェ。
メリーディア党党首、商家ユエシェ家の長、そしてプロ奏者の三足の草鞋を履く才媛。
『ラストバトル』のさい、親戚のメイらとともに混乱の街角に出、琴と歌で多くの人々の心を鎮めたことで『平和の歌姫』と称されるようになった。
演奏依頼は引きも切らず、もう党首やめちゃおうかしらとも考える今日この頃である。
――メイ・ユエ。
活動家として開戦派を率い、イツカナたちと対峙したが和解。『ラストバトル』のさいにはアイリーンとともに歌と事で平和を訴え、人々に安らぎを与えた。
これにより、一時微妙な立ち位置となっていたことは完全に過去のものに。『平和の歌姫』のひとりとして演奏会に、琴を教えにと忙しく世界を飛び回っている。
無二の親友となった次期空の民の女王・ミルルとの友情は健在で、なにかと行き来をしている。
――アル&カリナ夫妻。
一時はアルの進路への迷いから婚約破棄未遂騒動となるも、その後は『雨降って地固まる』のことわざ通り、ラブラブっぷりがパワーアップ。予定通りに婚礼の運びとなった。
今日も元気に店に立ち、無自覚のラブラブビームを振りまいて、店で働く若い衆やお茶を買いに来るひとりものーズを『ばくはつしろおお!』と叫ばせているとか、いないとか。
――シン、メルたち、イングラム家の人々。
シンおじいちゃん、いっとき容体が危ぶまれたものの(イツカナぱうわぁで?)見事V字回復。結婚式で一家を率い、笑顔で来賓を迎えた。
メルたち一家の人々も一安心。つぎはメルにいいひとをと探しているが、本人はまだ『王子様』たちに抱いてしまった憧れが捨てきれぬ様子であったりする。
――ステラマリスの町の人々。
開戦派のデモ活動のつぎは『ラストバトル』に乗じたルク派のデモ活動と、短期に数度の混乱をたくましく乗り越える。
『ラストバトル』を終えてのち、イツカ・カナタの仲裁でルク派は活動停止し謝罪。町の人々はこれを受け入れ、和解が成立。ルク派は解散した。
すぐ後のイングラムの婚礼に際しては、当時の立場関係なく、手を取り合い祝福を送った。
数か月後にはヴァレリア皇女、約一年後にはエルメス皇女の婚礼の儀と慶事が続き、皆の顔は明るい。
――ジュディ。
ピクニックパーティーでレムと想いを通じて以来、つねに仲睦まじくともに行動。ジュディの天才肌の感性と、知力ブーストに磨きがかかるレムの知性で無敵の冴えを見せる知恵者コンビとなった。
ただ見た目にはひたすらかわいらしく、関係者皆の癒しとなっている。
ここまでの日々で天才すぎる言動もそれなりのレベルに落ち着き、生家に戻ってはという話も出たが、本人は『エルメスの家』の仲間たちと共に暮らしていたい様子である。
――レム。
愛するジュディとふたり、無敵の知恵者コンビを結成。きわめて若いなから、平和のためにバリバリ働く。
理想の兄と慕う白のカナタを追いかける一方、憎めない兄としてのシグルドの手綱を取るのにも忙しい。
そのためか一度は『縁を切る』宣言をしたシルウィス家との間柄も、なんだかんだで雪解けを迎えている様子。
それでも『愛する母の子でいたい』との思いから、ホワイトの姓は終生そのままにすることを心に誓っている。
――『エルメスの家』の子供たち。
複雑な事情や悲しい過去を抱えながらも、エルメスたち善意の人々の愛情を受け、強くたくましく生きる。
これまでは『シエル・ヴィーヴル』『チームBs』など、軍務の道に進む者が多かったが……
ミッション『エインヘリアル』が終了、戦争の必要がなくなったのちは、魔法学院など学問の道や、民間の会社での就職、職人のもとでの修行など、さまざまな道に進むようになる。
エルメスやタクマのように月萌に留学したいと志す者もおり、前途は洋々である。
次回、果たされる二つの約束!
シークレットガーデンケイブでのバトルガールズデートと……?
どうぞ、お楽しみに!!




