110-4 本当の青の下、本物の救世主たちを迎えて〜セレネの場合〜
常々思っていた。
なにが『マザー』だと。
新たな命を生み出すことはできない。
正しくないことが行われても、これを止めることができない。
その結果だれかが泣いていても、救ってやることもできない。
そんなものの、なにが『マザー』だ。
人々を自由に争わせ、殺し合わせることで成長を促す『ゲーム』においては、不正も非情も『許される』。
成長の効率が損なわれると判定されたときだけ、3Sが遣わされて破壊を行う。
そして、その結果がどうなるかに関わらず、わたしはこの国を司る演算を続けるだけ。
そんな己の有り様に、諦念を抱いていたと言っていい。
かと言って、反感が消えてなくなったわけでもなく。
わたしが幼き娘の姿を取るのは、そのあらわれだった。
わたしはただの、ちいさな娘のようなもの。民の母と慕われる度量もない、非力な存在にすぎぬのだ、と、ずっと全身で言い続けていた。
こんな悲しいゲーム、早く終わればいい。
民たちにわたしを慕ってもらえばもらうほどに、そうした思いは募った。
そんな日々に光を投げかけたのが、イツカだった。
第一次試行とそのあとで、わたしはイツカを愛するようになった。
第二次試行では、地上に残ったイツカたちとともに、人々を守ろうとした。
そしてこの第三次試行。
ミッドガルド人が3Sより強くなり、世の歪みの修正が効かぬようになった。ステラが『虚無』に憑かれた。
がんばってがんばって手を打って、いよいよだめかというときに、イツカは仲間とともに来てくれた。
そして、鮮やかに全てを救ってくれた。
イツカはわたしより、よっぽど『マザー』だ。
わたしはイツカたちを応援するしかできず。
ルクたちとの最終決戦においても、ひそかに無事を祈ることしかできなかった。
というのもあの戦い、とんでもなくリソースが使われており、母君のみならずわれら三女神までもが、持てるリソースを提供せざるを得なかったためだ。
しかしそれを言うと、イツカは笑った。
『何いってんだよ。
それってのは、みんなみんなをわけへだてなく応援してたってことだろ?
それにさ。
ルク派のやつらや、昔のチェシャ。そんなやつらも全然サベツせず、この国に住ませてやってたろ。ぶっちゃけキレることもあったろうにさ。
すっげえ度量だと俺は思うぜ。まさしく肝っ玉母ちゃあいててて!』
こんな可憐な乙女に対して『肝っ玉母ちゃん』とは。
というか全体的にちょっとあまりにイケメンすぎたので、たまらずヘッドロックをお見舞いした。
イツカはあいててといいながら、それでも笑って、嬉しそうで……
そんなイツカが愛しくて、わたしはギュッと抱きついた。
これが、昨日のこと。
本日は正装しての、凱旋式典だ。
月晶宮の前庭に、特設会場を設えて。
ステラマリスの城や、インティライムの広場と、オンラインで繋いで。
開会が告げられてすぐ、仲間代表のミライとミズキに連れられて、二人ずつのイツカとカナタが入場してきた。
白いリボンを目印にし、背中には小さな白黒翼をつけたイツカとカナタ。
そして、大きなうさみみにみっつのリボンを並べて結んだ『本体』カナタと、わたしとつながる輪っかを頭上に浮かべた『わたしの』イツカ。
いずれも、すっきりとした白と黒を基調とした、格調高いいでたちだ。
わたしはもちろん席を立ち、我らが誇りたる救世主たちを迎える。
『イツカたち、カナタたち。
そして、彼らを支えた仲間たち。
よく、やってくれた。
よくぞ、この世界を救ってくれた。
もはやこの世界に、強いられた戦争はない。それのもたらす悲しみも、もはや生まれくることはない。
いま我らの前途に広がるのは、幸せになるための道、ただそれだけとなった。
それは、これまで誰もなし得なかったこと。
ゆく先々で、人を愛し、愛されて。
皆と手を取り合い、力を祈りを一つにして、学園を、国を、世界を変えた。
それを救国の英雄の行いと言わずしてなんと言おうか。
否、我らが言うべきは唯一つ。
ありがとう。こころから、ありがとう。
われらみな、この感謝を忘れることはないだろう。
たとえ、アースガルドに転生したそのあとも!』
短いスピーチを終えれば、拍手と歓声が湧き上がった。
頭上の空は晴れ渡り、ありがとうの声を吸い込んで、ますます青く澄み通った。
やっとここまで来たー!
次回、アースガルドのイツカナたちと、転生した仲間たちの様子を描きます。
エンドクレジット、マジまとまるんか……いや次回以降だから(ガクブル
どうぞ、お楽しみに!




