Bonus Track_110-4 本当の戦いはここからだ! みんなのバトル、あたしたちの本番~クロートーの場合~
キッチンだって立派な戦場なのです!
小さく、弱い体で生まれるあたしたち。
お世辞にも、戦いが得意とはいえません。
そのかわりにできるのは、あふれる命のチカラをもって癒し、育むこと。
愛をこめたお料理で、心もおなかもしあわせにしてあげること。
まあ、カナタさんやベルちゃんたちの戦いっぷりをみちゃうともしかしてーなんて思えてきちゃいますけど、あたしはただのへーぼんなうさぎ美少女村娘です。無理はしないでおきましょう。
「ほらルゥちゃん、手をとめない! みんなが帰ってくるまでに仕上げちゃうわよ!」
「はあ……ベル……マジにカッコイイよなあ……ハッ?!」
とりあえずはとなりでおいもをむきむきしつつ、大画面の中のベルちゃんにみとれまくってる可愛いいとこにハッパをかけておきます。
いえ、けっして頭にキャベツのはっぱをのっけたりはしてません。
こうさぎ時代にやってみたらめったくそかわいかったのですが、食べ物であそんじゃいけませんってしかられたので、もうやることはできません。あたしだけのないしょのベストショットです。尊いです。
ともあれ、あたしたちはあたしたちの戦いをつづけるのです。
ソウルやスペル、スキルでの武力闘争は、できなくっても……
おなかをすかせて帰ってくる仲間たちのために、おいしいおひるごはんをたくさんつくっておくことは、できるのです。
戦いが起きているのは、『謁見の間』だけではないことを、あたしたちは知っています。
ミッション『エインヘリアル』に利得を得たもの。それを手放したくないもの。あるいは、忠義を尽くしたい、尽くさねばならない者たちが、この国でも、月萌でも、あちこちで彼らの戦いを仕掛けているのです――いわゆる最強戦力が月に飛んだ今を、好機と思っているのでしょう。
そんな彼らと戦うひとたちの姿もまた、調理場の大画面から見ることができるのです。
コニーおばさんとルゥおじさんは、ライアンさまの代わりに平原の民の若者たちを率いて。
ラーラちゃんはおとうさんの代理として、北の狼族をまとめて。
森の村のベリーズ村長たちは、村の人たちと一緒に守りをかため。
地の民たちも、あらかじめ仕込んであった防御システムで狼藉ものをとらえます。
海の民、空の民も負けてません。
熱い血潮の漁民のみなさんはもちろん、プライドが高いといわれる天空島の人たちも、地の利を生かしてがんばってます。
映像はつぎつぎかわります。ステラ領でも、戦いは起きていました。
『六柱』のひとりベニーさんと、そのお父さんのエイドリアンさん。
そして、『チームBs』のメンメンをはじめとした軍人さんや、ふだんステラの塔を離れない星騎士たちまでもが、警備にバトルに、町や村を駆け回っています。
コルネオさんは議員仲間たちとともに、戦いの巻き添えになりそうな人たちを避難させたり、ボヤを消し止めたり大活躍。
アイリーンさんやメイさんたちは、大胆にも街角で平和を歌って、みんなの心を支えています。
知的クールが身上のあたしも、目元が熱くなってきました。
いつもおだやかなシュトラール殿下、親しみやすい笑顔のルイーズ殿下もきりりと武装。
王宮前広場の本陣で指揮を執り、頭脳として守りを務めます。
そのうしろで王宮が時々ぴっかーと光ります。女王様やマールちゃんたちが、『謁見の間』に有志を送還しているのです。殿下たち、気にならないんでしょうか。あたしはめっちゃなりますけど、そこは集中力なのでしょう。すごいです。
しかし次に月萌国の様子がうつったとき、あたしたちはみんな気抜けして笑っちゃいました。
なんかめちゃくちゃ、平和なのです。
ふっつーにお店やレストランが開いて、ごはん食べてる人が何人もいます。
彼らの多くは、店内モニターや手元の携帯用端末にくぎづけ。
ワイワイ盛り上がってる人たちもいます。
なるほど。月萌は『秘密主義』、いま映っているβ居住域のみなさんにとって、これはあくまで『超大型ゲームイベント』なのでした。
ただ、高天原ではやっぱりあちこちごたごたしてました。
軍や警察のひと、高天原の先生や生徒がかけまわり、あるいは守りを固めてます。
なかでも目立つのは、高天原学園の先生ふたりと、もと総理です。
リアルエルフなシルヴァン先生は、まるで風のようにかけぬけて、ただひとふりの剣でタンクを無力化。
スコ耳かわいいマイロちゃん先生は、多重錬成陣を複数構築して無双してます。
もと総理は、金銀わんわんずといっしょに最前線を回ってます。このひと、総理やめたらいきなりさわやかになってズルいです。ぶっちゃけいまのこの人だったらわりとタイプなのです。まあ妻帯者さんなので、しょせん先のないトキメキなのですが。
かれらは順調に戦いを進め、つぎつぎ勝利を収めていきます。
そして月にいるイツにゃんカナぴょんたちにむけ、がんばれの気持ちを送ります。
『謁見の間』のイツにゃんカナぴょんは、ルク本体との大将戦に勝利。あたしたちによびかけてきます。
『っしゃ――!! みんなー、頼むー!!』
『みなさんの力を貸してください!
祈ってください。優しい時が来ることを!』
『だれも、戦いを強いられることなく。愛するものたちとともにしあわせな時を過ごしながら、ゆっくりと成長していけるだけの、悠久の時の流れが得られることを!!』
ここまでめっちゃ敵対してきたルクを自爆からかばい……
自分たちを『魔王』にした『大女神』にも、当たったりしないで助けてあげる。
そんなサイコーカッコイイヒーローたちの呼びかけに、こたえない乙女なんていません。
ちょっとの間ではありますが、祈りました。もうめっちゃ、全力で。
そして発動、『0-G・サンクチュアリ』。
カナタさんの、イツカさんのチカラのもふもふが、『謁見の間』を、宇宙を、この地球をもつつみこみます。
そのとき、確かに感じました、世界が変わったことを。
はたして『大女神』がミッションの終わりを宣言。長い長い戦いは、ついに終わりを迎えたのです。
あたしたちのお料理は? もちろん、できてますとも!
動画をチラチラとチェックしたり、ちょっと全力でお祈りする程度でミスるほど、うさぎの女は甘くないのです。
「テーブルクリアー! 食器準備よっし!
っしゃ――!! 盛り付け開始――!!」
厨房中からおーう! と声が上がります。
さあ、あたしたちの戦いはここからです。
はらぺこで帰ってくる皆さんに、ほっかほかのお料理をお出しするのです!
いっそう陽気に楽しく、わたしたちは声をかけあい、準備にいそしむのでした。
チェックもあと三十話分……今日明日で終えたい……やるっきゃねえ(←半泣き)
次回、高天原視点!
そろそろオーラス見えてきました!!
どうぞ、お楽しみに!!




