Bonus Track_110-3 人生やりなおします! パートタイマー大魔導士、可愛いカッポゥに『ひゅーひゅー』を送る ~マールの場合~
エルメス様はウマむす……ごほんごほん。
終わった。やっとこさ終わった。
わたしはどっと息をついて、おろしていた髪を後ろに払った。
わたしが何をしていたかというと、ちょっとしたアルバイトだ。
王城の儀式の間から『大女神』の『謁見の間』へ、集まった有志達を送還していたのである。
もちろん一人で、ではない。
女王陛下を筆頭とした、国内有数の魔導士チームに、その一角として招かれ参加したのである――『マール』としてではなく、『マレーネ』として。
わたしの魔力は、なくしていた自らを取り戻すや、再び成長を始めた。
おかげでわたしの肩書きは、ゼネラリスト系のへーぼんな美少女軍人から、二周目突入の大魔導士(※パートタイマー)に代わっていた。
なんでパートタイマーか。わたしは、いまの暮らしを捨てる気はないからだ。
かつてのわたしには『青春』なんてなかった。
その延長である日々と職務に戻りたいかというと、こたえはNOだ。
仲間たちと心から笑える、少女らしい毎日。
それを手放すことなんか、ごめんだ。すくなくっとも、今は。
それを訴えたら、女王陛下はわかってくれた。
だからいまのわたしは、どうしても必要な時だけ、もとマレーネとしてお手伝いに行く、パート魔女なのである。
『シャル』は今日もまたえらく泣いたが、それでもこれは、やらないわけにいかなかった。
『あのねシャル。今日はだいじなおしごとなの。
あんたを守るためにも、今回はいかなきゃなの。
言いたいことがあんなら、早く大きくなんなさい――ロディ』
そう、噛んで含めるように言ったら、ぴたっと泣き止んだ。
やっぱり。
言ってること、わかってる。こいつは、ロディだ。
これは、再びこいつがしゃべれるようになったなら、いろいろと聞かねばならない。
しかし、それは数年先のこと。
いまはまだ、ただのお姉ちゃんのひとりとして、やつをせいぜい可愛がってやろうと思う。
やつの幼少期は、決して明るいものではなかったと聞いていた。
だから、一緒にやり直すのだ。
心優しいお姫様が建ててくれた、しあわせの家で。
そのお姫様――エルメス殿下は、水鏡の向こうを優しく、実のところちょっとしょんぼり見つめてる。
彼女は出陣予定だったけれど、急遽とりやめになったのだ。
殿下は風の天馬ラーハの申し子として、あそこにいく権利も資格もあった。
ルクが使う『ラーハの翼』の制御を止めるなり弱めるなりすれば、やつの後衛をひっぱりだすことができた。
そうして、愛する『きーさま』の身の安全のため尽力することが。
しかし、それをしたらまずいということを、エルメス様もカナタも、直観で感じ取った。
クエレブレにとってのシャナ。イツカにとってのカナタ。それが、ルクにとってのセレナなのだと。
それゆえに無事、和解も成立したようだけれど……
殿下は、愛するきーさまのもとに駆け付ける機会を失ってしまった。
かくしているけどもちろん、わたしたちはみーんな、わかってる。
うなずきあうと、陛下がぽんとその肩をたたいた。
「母上……?」
「いってらっしゃい、エルメス。
きーさまたちを迎えに、ね?」
「へっ?! あのいえ、わたしはっ……?!」
いつもクールな殿下が真っ赤になって、そんなTPもったいないですよ申し訳ないですからなんて、うまみみしっぽをピョコンさせて言い訳してる。
そんなかわいすぎる姿をみたら、TPなんか必要以上にわいてきた。
けっきょく陛下に背中をおされ、殿下は月へと飛んでった。
あせあせと耳しっぽをしまおうとしながらも、「きーさま」にきゅっとされるとそんなことふっとんで、しあわせいっぱいの顔で『ぎゅー』をかえすお姫様に、わたしたちはめいっぱいの「ひゅーひゅー」を送ったのだった。
よい子のみんな、木を植えかえるなら半年前には準備しないとだめだぞ! ちくしょう!!
取り木で系譜をつなぐことにしますorz
次回、うれしい『戦場』が動き出します。
どうぞ、お楽しみに!




