110-2 しあわせの『うち』、未来への予感!
握手の手を差し出す直前、ルクはまっすぐな目で言った。
『ありがとう。我々に、人として生きよ、それを許すと手を差し出してくれて。
君たちにも散々、ひどいことをしたし、言ってきたというのに。
だが、本当にいいのか。
ここで君たちの手を取ってしまえば、君たちも責任を負わねばならなくなる――我らがここまで行ってきたことに。
君たちは新たな時代の象徴となる人物、光の申し子であるべきものたちなのに』
そう、ミッション『エインヘリアル』は、それをもっとも受け入れ動いたルクたちは、多くの航路に影を落とした。
その影響、もっというなら被害をうけた全員が『はいそうですか』と許せるわけではない。
それは、ミッドガルド人としても、プロジェクト参加者としても。
けれど、もちろん、それもわかってのことだ。
『わかってるさ。でも、俺たちはそうしたい』
『あらたな時代は、だれも切り捨てない時代です』
『『みんなみんな助ける』、俺たちはそう言ってここまできたからな』
『例外は、ありませんよ』
『たかがゲーム、されどゲーム』。
謝罪と賠償は、きっちり行われなければならない。
イツカたちとおれたちが、ルクとセレナと握手をした以上、それはただしくおれたちの、おれたちがたずさわっていくべき問題となる。
おれたちは、ひとつの体制をブッこわした。ミッション『エインヘリアル』を受け入れた者たちの航路を狂わせた。
覚悟はできている。その始末は、つけなければならないと。
ノゾミお兄さん、いや、ノゾミ先生が、後ろからおれたちをまとめてぎゅっとした。
『よく、そう言ったな。
師として、兄貴として、お前たちをこころから誇りに思う。
だが、忘れるなよ。
『半年以内にカレッジ入学』。今月内が期限だからな?』
『うわああそれもあったあああああ!!』
そう、それも、ユズキさんとおれたちとの『公約』なのだ。
勉強嫌いの黒猫どもはにゃああと叫びだした。
『そういうわけで、その辺も含めたスケジュール感で、よろしく頼もう。
くわしくはユズキ氏との協議の結果を踏まえて詰めるということで』
抜け目のないきつね策士にして、頼れるお兄ちゃんのフォローにおれたちは、このあと感謝することになった。
バトルで疲れた心身を休めるため、ゼロブラ館の部屋で仮眠。
その後向こう一か月のスケジュール表をチェックしたおれたちは、一瞬現実逃避しそうになった。
「分刻みっつかもう秒刻みだぞコレ……」
「こなせんのかコレ……」
「もうこれユーさんとこのあいつらにちょっと手伝ってもらえねえっ?!」
そう、二組のおれたちフル稼働してそれなのだ。
しかし、これ以上おれたちを増やすのもよろしくないし、これは全力出すしかない。
「とりあえず一番やべえのは……」
「入試だよなー……」
「俺べんきょしたこと全部忘れた自信ある――!!」
「にゃああああ――!!」
半泣きでにゃあにゃあと鳴きまくる黒にゃんこ(※人型)たち。見ている限りではちょっと愉快だが、あんまりそのままにしとくのもかわいそうなので、適当なところでなだめてやることにした。
「ほらほらイツカ、おちついて」
「だいじょぶだって。
お前たちさ、一人だった時いわれてたじゃんルナに。
『イツカ君は本気で一度見たら覚えるね』って」
「おまえたちにはそんなすっごい『にゃんパワー』があるんだから。
だからできるよ。間違いないって」
よしよしと頭を撫でながらそう伝えれば、素直なもので……
「そっか! そうだな!」
「カナタが言うならまちがいねーか!」
ニコッと笑って、納得してくれた。
あちこち回ってごあいさつと会食。式典に会議、レッスンにステージ。
週に一度は、ルクたちに会いたい人を連れて月に跳び、会談ののちに剣や魔法を教えてもらい。
その合間を縫って、メディア対応、受験勉強の仕上げ。
エステや散髪、衣装合わせも欠かせない。
それでも……
「みなさま、起きていらっしゃいます?」
「四人とも、おなか減ってない? ごはん食べよ!
だいすきなしょうが焼きとむしケーキ、つくったよ!!」
ふわっとただよってきたいいにおいと、やさしいノックの音と、うれしい声たちに、こころがぽんっととびはねる。
めいっぱい疲れて帰っても、こんなしあわせの待ってる『うち』に帰ってこれるなら……
きっと、楽しく笑顔で、やりとげられる。
そう確信して、ドアを開けたのだった。
まずはイツカとカナタ。そしてミライとライムちゃんです^^
次回、やすらぎのお昼ごはん、そしてうれしいメールやコール。
どうぞ、のんびりまったりお付き合いくださいませ♪




