Bonus Track_109-2『虚飾』の代償と赤心の忠愛~執事ヴァルの場合~
2023/03/29
一部表現を修正いたしました。
神族三家、タカシロが捨てた→尊城が捨てた
命の力を満たす、草原の恵みは確かに発動しました。
しかしそれがまっさきに『回復』したものは――
* * * * *
もともと私はステラの民。
『ステラのコンフェッション』のさい、ソロイ・イングラム様に付いて来た若者でした。
高天原の人々は、われらを温かく迎え入れてくれました。
あたらしい家に、仕事。一部社会システムまでもを調整して、わたしたちがこの国の一員としてなじめるように計らってくださったのです。
ソロイ様の従者だった私は、彼の子供たちのお世話役に迎えてもらえました。
ソロイ様と奥方様――瀬莉果様は、全部で三人のお子をなされました。
なかのおひとりが、セレナお嬢様です。
賢く、かわいらしく、優しいお嬢様はしかし、イングラムに伝わる胸の病を抱えておりました。
からだも弱く、おとなにはなれないだろう、そうお医者様にも言われていました。
心優しき皆様は、できる限りの手を模索してくれました。
最終的に功を奏したのは、セリカ様の兄上の竜空様が、自らの身を実験台にして見出されたという方法でした。
3S『虚飾』を身に宿し、これを飼いならせば、充分な意志と精神力のある限り、人の身の制約を超えてあることができる。
強くすこやかな身体はもちろん、尊城が捨てた、不老不死さえも再び手にすることができるというものです。
その代償は大きな、大きなものでしたが、お嬢様は手を伸ばされました。
ルク様は、なるべく早く、代償を克服する方法を探すとおっしゃり、我らみな、感涙にむせんだものでした。
そんなこともありお嬢様は、ひそかにルク様を愛するようになられました。
しかし、叔父と姪との婚姻は、月萌の法では認められておりません。
そのためルク様は常におっしゃっておりました。
『虚飾』の代償を克服するすべを見いだしたら、誰かよきひとと幸せになりなさいと。
それでもお嬢様は、ほかのどんな方にも目をくれることはございませんでした。
遺伝子に大きな『爆弾』を抱えるわたしが子を残すことは、タカシロのためになりません。
それよりはこうしてあなたとともに、時をこえて世のため、月萌のために働きたい。
ですので、この『代償』はむしろ『好都合』なのですと、けなげにもおっしゃって。
それでも、お二人は暖かく抱き合う以上のことはけっしてなく。
そんなお二人をお支えしたくて、わたしもおなじ道に足を踏み入れたのです。
『虚飾』を身に宿して。
ただの平凡な、ひとの親となるという幸せと、ひきかえにして。
ルク様は、妹君様よりもずっとお年が上。
それでも、どこかあどけなさを残す風貌をしておいででした。
それは、運命の人と出会うため。そのひとが僕を見たとき、ひとめで僕と分かるよう。
そしてもし彼女が、ふたたび弱い体を得て生まれていたら、それを克服できるように、全力で実験を重ねた結果なのでもあると。
僕は必ず彼女に会う。そして、今度こそしあわせな生を全うさせる。
ルク様はそうして、微笑んでいらしたのです。
清らかな、優しい笑顔。きらきらとひかる、美しい瞳で。
神族ご三家のうち、もっとも人を思うのがタカシロでした。
定命の民に、そのくらしによりそうためと、女神よりたまわった無限の命を自ら捨て、憎まれ役も進んで引き受けた。
それでもつねに、人を世を、愛し慈しんできたはずだった。
それが、どうして、いつのまに、『ラスボス』になってしまったのだろう。
与えられた命を使い尽くし、魂のチカラすら『前借り』して、それでも世のため、働きつづけてきたひとたちなのに。
身体に命の力を満たす、草原の恵みは確かに発動しました。
しかしそれがまっさきに『回復』したものは、この方々が『前借り』した、魂のチカラでした。
それは、間違ってはいない。間違ってはいないのですが、いま求められる力ではなかった。
それがゆえ、ルク様の戦神のからだは、崩れ去りました。
ルクさまはああ、と納得の顔をして。
愕然と震えるお嬢様に、笑みを向けられました。
おまえは精一杯をしてくれた。なにも、悪くなんかないと。
そしてすこしだけ強がって、こういったのです。
「さて。ウォーミングアップは終了だ。
体も軽くなったところで、大将戦といこう。
かかってこい、二組のイツカとカナタ。
どれだけ強化を積んでも構わないぞ。いっそ全回復するか。
まあ、回復したところで、俺が刈り取るけれどな!」
そうして手にした錫杖を、二振りの竜頭双剣に変え、挑戦的に笑いかけました。
進み出る二組は、いつの間にか装いを少し変えていました。
全身あちこちに、さまざまな加護を示すマークが光っています。
『白』のふたりは、赤いたてがみを編んで作られた飾りひもや、青い羽根飾り、小さな獣のツメや鱗飾り、年季の入った牙のお守りなどの追加装備が目立ちます。
対して『赤』のほうには驚かされました。
イツカは、黒のモフリキッドアーマーのうえに部分鎧――それも白の骨アーマーを重ね着。頭上の光輪と相まってややカオスです。
カナタはイツカと方向性が逆。うすい桜色をした花弁とリボンが、天女の領巾のようにふわふわとまといついています。
「よーしよし言ったな先祖? バフ積みまくって構わないって。
嫌だっつっても積みまくっちまうかんね!!」
さらにそこに、アスカを筆頭とした100名近くによる渾身の強化と、ネットを通じてもたらされる視聴者からの応援が降り注ぎます。
こうなるともはや、『大魔王』とかそんなレベルではありません。
いうなれば、それは――
それでも、我々はあきらめません。
決めたのです。最後までお供すると。
お嬢様は魔法で、わたしは、カードで支援を続けます。
ルクネットをつうじて、我らの支持者からの支援も降り注ぎます。
イツカとカナタに光の世界の支持が集まっているとするなら、我らには、闇に紛れ積み重ねてきた年月、それを共にした仲間たちの想いがあるのです。
たくさんの犠牲を出してきました。たくさん涙を流し、たくさん墓前で頭を下げました。
我らは、だから、それに殉じるのです。
『ふしふた』の黒兎大魔王が、すべての恨みを吐きつくしたように。
われらもまた、つもる思いをぶつけつくすのです。
ここで、一滴残らず。
たとえその先にあるのがただ、破滅だとしてももう、我らは止まれないのです。
イツカたちもそれはわかっているのでしょう。
我ら同様、ことばなしでも通じ合うバディのアシストを存分にうけ、全身全霊で斬りこんできます。
その姿は、すがすがしくまぶしく、敵手である我々をもってしても、心洗われるれる心持ちがいたします。
やがて、ルク様は彼らの前に膝をつかれました。
「ヴァル。セレナを頼んだぞ」
そしてそれだけ言うと、首飾りにしていたオーブを足元にたたきつけます。
「おじさま? なにを……まさか」
もうもうと上がるスモークの中、竜頭双剣をクロスさせて念を込めれば、ふたつの竜の口から、つんと匂う腐食性の毒霧と、激しい炎があふれ出します。
わたしは手はず通りに、お嬢様をつれて『大女神』の後ろへ転移。
可燃性の白粉と、二つの『ブレス』が一つにまじりあった瞬間、すべてを消し飛ばす大爆発がルク様と、ルク様に相対するものたちを包みました。
閃光がすべてを塗りつくす直前に見えたのは、ルク様をしっかと抱いてかばう、光の申し子たちの姿でした。
少し書き溜めできたー!→クロームキャストの設定が意味不明ー!!→できたけど結局いつも通りというコンボ。ぐぎぎぎ。
せっかく醸成したシリアスをあとがきで粉砕していくスタイルが確立してきました^^;
次回、『Our game was over.と彼女は言って』。
どうぞ、お楽しみに!




