109-6 闘え! 最後の総力格闘バトル!!(2)
「おじいちゃま! きてくれたの?!」
サクラさんの声が弾むと、イワオさんは明るく笑って親指を立てた。
「リュウジに来させるのは酷すぎたからな。
というか、ぶっちゃけこっちのが適材適所だからな!」
「そうかもっ!」
リンカさんが「いってらっしゃい、ここはまかせて」と背を押すと、リンカさんの前、エルマー製の橋の向こうからぴょーいとひととび、最前線まで跳躍するサクラさん。
「のえっ?!」
「うおっすげっ?!」
元祖ぴょんぴょん系のイツカたちですら、ちょっと驚く跳びっぷりだ。
逆にイヌ科のみなさんはご納得の様子。ミライがかわいらしく説明してくれる。
「だいじなひとのとこにいくときは、めいっぱい走れちゃうもん!
イツカだって、カナタをまもりたくって『0-G』できるようになったでしょ?」
「「あっそっか」」
「「なるほどそうだね!」」
イツカのやつが、時にすぎるほどおれを大事にしてくれているのは、間違いのないことだ。
あらためて言われると、照れくさいけれど。
つかイツカたち、おまえたちはなんだってそうサラッと「あっそっか」なんだ。
まったく、逆にこっちの照れくささがましてしまう。
でもくやしいんでポーカーフェース。ネコミミはやした主人公ども二匹を、まとめてミックスポーション弾でパンパンと撃っておく。
むこうのおれも同じだったようでこれまたパンパン。
いいのだ、やつらはこのあとルク本体と斬り結ぶ切り結ぶことになる。強化は、いくら積んでおいても足りないといいうことはない。
ともあれ、その間にライアンさんが赤熱の拳をふんぬっと押し返して、ビシッとお説教を決める。
「やりすぎだぞお前!
俺とて、可愛い子らに拳骨を落とすことはある!
だが! これはあきらかにやりすぎだ!!」
いや、それ違う。ただ見てるとかっこいいんだけど、なんかどっかズレてる。
「父上! それ教育的指導じゃないです! 普通に攻撃ですから!!」
「………………う、うむっ!
ならば俺も全力で、この拳をむけるまで!!
愛する家族をまもるためにッ!!」
ベルさんに突っ込まれて、ライアンさんは照れ隠しの咳払い。
そして、無理やりカッコよくキメた。イケオジずるい。
「よく言ったライアン殿!
ワシらも、拳なら負けんッ!!」
イワオさんも、純白の手甲――インテリジェントアーム『残雪』を高らかに掲げて挑戦の意をたたきつける。
イワオさんの奥様であるユキナさんは、月萌軍人として、戦いのなかに散った。
その意志は、『残雪』の中に残り続けているけれど。
「ワシらは戦う!!
愛しあうものが戦で引き裂かれる、そんなことが二度と起きぬ世のために!!
受けてみよ、ワシとユキナの、愛の拳をッ!!」
そう、もしも戦争がなければ、ユキナさんはまだまだ、元気に生きていたはずなのだ。
いつも明るく元気なイワオさん。その胸中を思うと、ぐっと切なくなる。
サクラさんはイワオさんのとなり、ぐっと袖で目元をふいてルクをにらむ。
「そうだ。俺たちは、そのために戦ってる!」
「生きたいものが生きられて、愛し合うものが引き裂かれることのない――」
「「誰もが望まぬ不幸に落ちることのない、平和で優しい世界を実現するために!!」」
イツカたちが声を合わせた。
そうだ。
たとえこれが、いっときの夢だとしても、それは魂をはぐくむための物語。
絶対に、負けるわけにはいかない。
「「行こう。勝とう!!
誰も死なせることなしに!!」」
『『誰も』……我らも、とかいうのではないだろうな?』
おれとおれが合わせた声に、嘲笑が返ってきた。
『志の喪失は魂の死!!
お前たちにそれを埋められるとでも思うのか!!
ぽっと出の青二才どもが!!』
そうして、さらに怒りに任せた攻撃が繰り出される。
長い長い、ビルのような脚が、地より萌え出た森をまとい、重い重い一撃を。
「ルク! だから――」
「来るわよ!! 止めるっ!!」
いずれこの攻撃が来る。予測してスタンバイしていたのは、ユキさんとソラ。
ソラは説得をあきらめきれぬ様子だけれど、皆は言えない。ユキさんにハッパをかけられ、対処に入る。
ふたりとも蹴り技で戦う鳥だ。もちろん素のままで対抗するのは無理なので、ソラは水の巨鳥をまとい、ミツルとラミーの支援をうけ――
ユキさんはクレハの『スターリーアイズ』と護符・ポーションで超強化。
それでも、ルクの攻撃は重すぎるほど重い。
その脚がまとっているものは、ステファンさんが操るのと同じ『森護』のチカラ。
本来こんな使い方をするものではないし、ステファンさんもしたことはない。
重い、重すぎるそのチカラは、人間わざで振り回せる類のモノではないのだ。
しかし、だからこそそれをなした時の一撃は、人の域を超越した破壊力を生み出す。
こらえきれず、吹き飛ぶユキさんをクレハがうけとめるが、クレハを乗せたシーラさんごと大きく後退。
追撃から彼らを守るため、とっさに身を挺した水の巨鳥すら、おおきくその形を変えてひずんだ。
もちろんすかさず回復が飛ぶが、これはもう、出ないわけにはいかない。なによりこれを座視するなんて、おれのきもちがゆるさない。
しかし『ブロッサムスワン』の翼を大きく広げた、そのとき予想を超えるものを見た。
「えいっ、やああっ!!」
増援到着、ミルルさん。
勇んで飛び込んだ彼女のひと蹴りが、踏みつけにはいろうとしたルクの足を跳ね返す。
なんと、その一撃でルクがたたらを踏んだのだ。
原因はすぐにわかった。ルクの足から、絡みつく木々が、その放つ森気が消えている。
それをしたのは、いまひとりの増援。森の木の枝をモチーフに、優しい緑のローブをまとったステファンさんだ。
「ルク。
わたしたちの森のチカラは、誰かや何かを討ち、傷つけるためのチカラではないのよ。
身の守りとして依り頼むだけならば、黙っていようと思ったわ。
けれど、これを見てしまった以上、もはや猶予はありません。
『森の守護者』として宣言します。もう、そのチカラを使わせはしません。
望まぬ方法で使役したことを森に、わたしの友を傷つけたことを友たちにお詫びなさい」
ステファンさんは、今まで聞いたこともないような、厳しい声で毅然と告げる。
対してかえってきたのは、無言の踏み付け。
もちろん、森の守護者による『森護』はびくともしない。
「そう。それが、こたえなの」
そしてステファンさんは、ズドン。まっすぐに杖を突き、轟音とともに発生した衝撃を、ルクの軸足にお見舞いした。
「セレナさん。悪いけど、叔父様をお仕置きさせてもらうわ。
謝らねばならないときに開き直るような子は、このステファンが許しません」
みなぎる、静かな怒りが大地を、空気をびりびりゆらす。
正直に言おう。この瞬間おれは心に誓った。
謝らねばならないときに開き直ることだけは、絶対に絶対にやめようと。
「大丈夫、ユキちゃん?
ごめんね、もっと早く来てたら!」
「てんで平気よ、これくらい!
心強い味方が増えたんですもの。ダメージなんか吹っ飛んだわ。
行くわよ!」
「うんっ!」
一方で、女子は強い。仲良く連携しての反撃をさくさく始める。
その追い込みっぷり、ソラが「あれ、俺、いらない……?」とつぶやくレベル。
「何言ってんの! そっち行ったわよ!」
「あ、はっはいっ!!」
ユキさんに檄を飛ばされて、あわてて対処に走るソラ。
その様子を見て、優しく微笑むライム。
うん、やっぱり、女子は強い。
うなずいたその時、ときの声が上がる。
ルクの肩に生えた、竜の首が倒されたのだ。
剣士姿でがんばっていたズメイと、加勢にはいったレヴィアタンにより、毒を秘めた左の首が。
ルーレアさまとレイジのバディと、これまた加勢のシャスタさまにより、炎を含んだ右の首が。
でっかい赤いダメージポップアップとともに、光の粒子となって消えていった。
「っしゃオラアア!! てめえら、レッツパーリィだあああ!!」
テラフレアボムを我慢して、支援に徹していたレンが待ってましたと吠える。
そう、竜の首がなくなれば、それらのブレスへのけん制も不要になる。
エルカさんが地道にぽんぽんと打ち続けていた小麦粉入り風船をぶっ飛ばさないよう、大規模攻撃はここまで、できなかったのだ。
が、ここからが本番だ!
最終局面の嚆矢となったのは、レンのぶっぱなす最新型テラフレアボム。
そしてうさロボ・ラパンの口から発射される――
「進路クリアー。パワーチャージよし。なぎはらうよソーやん!」
「よしきたあああ!! いっけええええ!!」
まばゆい極太メギドフレアだった。
竜の首1「あー。ブレスはきたかったねー」
竜の首2「ほんとねー。すっごい合体ブレスだったんだけどねー」
日向「あー、えー、そのあたりはそのー」
次回。終わるバトル。
どうぞ、お楽しみに。




