109-5 闘え! 最後の総力格闘バトル!! ~白リボンのカナタの場合~
2023.06.24
「おれたちで軌道をよんで対処するからっ!」
このせりふ、ちょっとおかしい感じがするので削除しました。
「カナタさあああん!! やっとやっとおそばにこられましたあああ!!」
これはひょっとしなくても、ある種のいやがらせなのではなかろうか。
『プロミスオブフィル』、狼王ハヤトとそろっていれば、『フィルの雪狼』は確定でかたなしなのに。
イツカもルカとルナも飛び立って、一人乗りサイズにもどしたコックピットの中に、どうやってかむぎゅっと現れたのは『おれの年上の弟(※自称)』だった。
「はあああうれしいですっ!! 不肖わたくしシグルドっ、全力でカナタさ」
歓喜の表情でひっついてまくしたててくるが、せっまいコックピットにでっかい野郎は物理的に邪魔だ。というかその大声がうっさい。
「うっさい狭い出ろ働け。」
「はいいい!! よろこんで――!!」
笑顔のうさダンキックで蹴りだせば、至福の表情(※四桁のキラキラポップアップ付き)で転げ落ちていった。
ギリギリ、セクハラはしていなかったのでまあ許すが、していたならばまずやつを処さねばならないところだった。
わかっているなと見下ろせば、やつはもう雪狼リーダーの背にまたがり、『友群強化』も発動ずみで、群れをけしかけているところだった。
そうして、無駄にイケメンなスマイルでこっちを見上げてくる。
まったく、変態ぶりが日に日に育ってきているくせに、有能さにもそれ以上に磨きがかかっているのだから始末に困る。
ともあれ今は、力を合わせるだけだ。
「シグルドさん!『プロミスオブフィル』、使ってください!
フィルのチカラはあなたが使ってこそ輝く。おれは支援を!」
「ふふ、ツンデレですね。いえ、それでこそカナタさん。
承りましたっ!
わが主の道をふさぐ愚か者どもは、すべて我らで蹴散らかしましょうとも!!」
おれは『プロミスオブフィル』をパージ、シグルドさんへと滑らせる。
シグルドさんは得たりと、雪狼ごとそれをまとう。
ますます大きく力強くなった雪狼リーダーと、壮麗な装いとなった雪狼将軍に力を得て、雪狼の群れはぐんとパワーアップ。勇んで先陣を切った。
対してルクも光焔の翼から、無数の炎の鳥を召喚し、ぶつけてくる。
さらに、持ち腐れとなっていた銃とボーガンを消し去り、ふたふりの長大な刀に換装。
すいと大きく引けば、ノゾミお兄さん、もとい『青嵐公』が前に出る。
声だけを残し、『縮地』で一気に最前線、右の刀を止めるルートへ。
「イツカはまだ出るな! そっちは頼む!!」
ルクの刀がトップスピードに達する前に、ぎん、と重い金属音、ふたつ。
『そっち』すなわち左の刀を止めるルートには、いつの間にやらトウヤさん、もとい『月閃』の姿があった。
「……ああ」
寡黙にみじかくそれだけ答え、最強うさぎ剣士は上着をパージ。スピードタイプ換装を遂げる。
かたや白のサラシ姿、かたやいつかのノースリーブの白シャツ。
清冽な白をまとう剣士たちは、宙をけり、跳ね、己が身の丈の三倍はあろうかという野太刀と斬り結ぶ。
「はいはーい! こっちはこのふたりにまっかせてー! みんなはほかの腕とかオナシャース☆彡」
これまた、いつのまにやら現れたピンクロリータドレス――アカネさんによるバックアップを受けながら。
ヒラヒラの日傘でフワフワと飛ぶアカネさんは、こんなときだというのにいつもの笑顔。肝の太さが違うと感じさせられた。
ともあれルクは器用にも、そのほかの腕もばらばらに動かし攻めてくる。
うなりをあげて振られる宝戟。衝撃と魔力を一度に飛ばす、角製の短剣。
徒手の手のうちひとつに描かれた蜘蛛の文様から、輝く蜘蛛糸が放たれる。
「長柄なら任せろや――!!」
すいと虚空からあらわれ、がっしり宝戟に食らいつくのはイザヤとユウ。
それぞれバトルピック『デザートストーム』、バトルサイス『ユウヅキ』を手に、息の合った様子で突き、振りの攻撃をさばく。
「イザヤ、ユウ! 来てくれたんだ!!」
「助かります!!」
「へへ、やっぱほっとけなくってな!」
「四人いればだいじょうぶ! ヴィー子も助けてくれるしねっ!」
パッと表情を輝かせたのは、アオバとシャシャだ。
ふたりは長柄使いとして対処に向かったはいいが、そのパワーとサイズに振り回されかけていたのだ。
しかし、たった今ここに飛び込んできた二人が、遠心力だけでやばいトンデモ巨大な宝戟をなんで止められるのか。理由は、ふたりが現れるや否や全身を包んだ、きれいな緑の燐光にある。
ヴィー子こと『嫉妬』の加護だ。
彼女のチカラは、格上相手のときこそ輝く。
『まってた……お兄ちゃんたち。
イズミお兄ちゃんもソラお兄ちゃんもヤキモチやかない。ちゃんと、応援してるんだからね?』
返す刀でイズミとソラに笑いかけ、さらに加護にブーストをかけるすがたは、可愛らしくも堂々としている。
いつも物陰に隠れ、無言でこちらを見ていた、かつての彼女とは別人のようだ。
「にしても、アリエの宝具がなんだってココにあるのかねえ?」
「ともあれアリエというなら、わたしたちもやらなければですね!」
ニノの助けで加速して、角の短剣に対峙していたイズミのもとにも、増援がやってきた。
大星霊アリエの契約者である、マルキアとユフィールさんだ。
「助かる!」
「こっちこそだよ!」
「イズミさんたちの『時止め』は切り札になります。どうか温存してください!」
「わかった!」
ステラ軍の重鎮と六柱のひとりはさすがに強力だ。
即戦力としてイズミと交代。イズミは一度下がり『時止め』のためのクールタイムを取り始める。
徒手の腕のひとつ、掌からクロンの糸を放つやつはやっかいだ。
下手に得物が触れれば、そのまま持っていかれてしまうはずだからだ。
もうひとりのおれが固化液弾を錬成しつつ撃ちまくり、フユキは氷結弾を連射。
固めた糸はサリイさんの炎弾でピンポイントに焼き尽くして処理していくが、そこでせいいっぱい。
いっそテラでもかましてぶっ飛ばしてしまえれ楽なのだが、竜の首をけん制する風船までもがぶっ飛ばされてしまうとまずい。
毒のブレスを持つ左の首には剣士フォームのズメイが。炎のブレスを持つ右の首にはレイジと女神フォームのルーレアさまが挑んでいる。
かれらが首を倒してくれるまでは、もどかしくても大きな攻撃はできないのだ。
「みんなおまたせーっ! あったしがきったよ――!!」
それでも、蜘蛛糸の腕との戦況は、増援の出現で一気に好転した。
黄色のバトルスーツをまとい、山吹色のツインテールを揺らし、パインアメをころがすような声で名乗りを上げるのは、ジュディだ。
蜘蛛のクロンの加護をもつ無邪気な天才少女が、手にした『補虫網』をくるりくるりと捌けば、ルクの蜘蛛糸は面白いように巻き取られていく。
「凄いな。一体どうやってるんだ」
「え? うーんとね、くるくるーって。
ほらっ、わたあめできたよ、たべるー?」
『わーい! 食べる食べるー!』
なぜか、巻き取った糸はわたあめ状に。いやそれは食べれないだろ。突っ込む間もなくナツキがフユキからぽんととびだして、おいしそうにまふまふと平らげはじめる。ええええ。
「た、たべられる、ものなのか……?」
「うん!
クロンの糸はね、あまくっておいしいんだよ!
コトちゃんのミルキィレインと合わせたら、あまあまでとーってもおいしかったよー!」
「えっ?! コトハも食べたのか?!」
「えへっ」
「………………///」
まさかすぎる真相。どうでもいいがコトハさんのえへっが尊い。フユキはさりげにノックアウトだ。
ルクはいきなり爆誕したあまあま空間を許せない様子で、もう一方の徒手の手を、拳に握り振り下ろす。
蜘蛛の子を散らすように距離をとる蜘蛛の手対策チームにかわり、赤熱のオーラを放つ拳をがっしりと受け止めたのは、同じく赤熱のオーラに全身を包んだライアンさんと、なんとイワオさんだった。
もうこれ何人いるんだよ(泣)
いやだ数えない数えたくないいい(笑)
ちなみにリアルの蜘蛛の糸は『食べられるけれどおいしくはない』そうです。残念。
次回! 温厚なステファンさんがめずらしくお叱りをくれたりしながら戦況が推移します!
近いぞ決着!! どうぞお楽しみに!!




