109-4 祈り、説き、吠える! 前進のうさねこチーム!!
2023/05/08
フィールドあらへん! 修正いたしました!
月色のフィールドが柔らかな光をまとう。
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銀の光条が柔らかな月色をまとう。
『残念だが、エルマー君』
そのときルクの口が動いた。
流れ出てきたのは、彼本人の声。
『愛する者、信じるもののためならば。
我らはアースガルドを滅ぼすことももはや厭わぬ。
すでに、一度おかしたあやまちだ。
わたしが悪に染まり。
そうして、救えるならば。
いくらでも悪になろう。
アースガルドも人間の世界。
なら。誰かがやらねばならぬことにかわりはない。
わたしは、人間になる。
愛する者のため、身を挺し、手を汚すことのできる人間に!
さあ、『お話』はこれで終わりだ。
我らを敗者とあわれみ、救いを与えようというつもりなら、それが完膚なきまでに間違いだったということを思い知るがいい!!』
おれやイツカに対してより、ずいぶん優しい物言いだ、ということは確かだ。
けれど、内容は看過しえないもの。
「……なんで」
悲しく問いかけようとする声を、さらなる波の轟きがかき消す。
パレーナさんがエルマーの肩にそっと手を置き、静かに諭す。
「これがこたえということだ、エルマー。
『殴って従わせられる程度の相手と、話し合いをするバカはいない』、先だって彼が口にした言葉だ。
『話し合いをするかどうかを決めるのは強い者だ』、とも。
ならば、強者のあかしを立てるまでだ。
われらの決意と努力のあかしをもって、疑義の出ぬほど明確に」
「そうだね……うん。
戦う。それしかいまは、受け入れられないというなら!」
きゃしゃな体躯の優しい少年は、別人のように凛々しく立った。
戦う。勝つ。否、打ち倒す。
そのことをしかと思い定めた『大地の支配者』のオーラは、これまで見たことのないカタチをとった。
地上から地下までその身を広げる、大きな大きな黒竜。
エルマーを起点に、ひとつの生命システムが、しずかな地鳴りとともに形成される。
フードつきの黒ローブの下、褐色の素肌に広がる銀の光の文様が、いのちの拍動を映し脈打った。
そのかがやきは、クレイの大地にもつながり、広がり、深く深く伸びていく。
「お願い、大地。
大地に連なるみんな。
力を貸して。
生きたいものが、生きられるように。
世界を滅ぼすなんて、させないで済むように……!!」
月色の瞳を伏せ、鈴を振るような響きの祈りを紡ぎ。
目を開いたそのとき、銀の光条が柔らかな月色をまとう。
じんわりとあたたかな、しみいるようなその光は、ルクの右脚までとどき、そこにまつわる巌を優しく溶かしていく。
全力を持って、戦うと決めたエルマー。そのチカラのカタチは、それでもやはり、優しさを感じさせるものだった。
「まったくお前は、どれだけのポテンシャルを秘めているのだろうな。
こんなにきゃしゃで、小さくて、優しいのに。
いや、わかる。
そんなお前だからこそ、皆が力を貸すのだ。貸さずにはいられないのだ。
俺も、そのひとりだ。
いまはそのとなりで、できることをしよう。
友として、同志として」
パレーナさんもまた、そんな『愛され支配者』のとなりで気合を入れる。
うるわしの王者は、ろうろうと響く美声で、ルクの海によびかける。
「いのちなき海。死しか知らぬ海。
お前をその悲しみから解き放とう。
さわやかな風となり、優しき雨となって降り、再び流れ豊かなる海となれ。
鳥を緑を虫を、けものを魚をひとを、育み生かすしあわせの輪廻を、我とともに紡ごう。
海よ、お前は殺しの道具ではない。
未来はぐくむ、生命の世界だ。
我とともに行こう。お前をつれてゆこう――
『大海の王者』の名に懸けて!!」
パレーナさんがエメラルドの海に向けた瞳は、慈しみに満ちた優しいもの。
かける言葉もまた、愛に満ち満ちている。
こんなふうに口説かれたら、海だってたまらないだろう。
はたしてルクのくじらのような尾と、そこからあふれる海は、するするとルクのもとから流れ去る。
すきとおるリボンのように列をなし、あらたに認めたあるじのもとへ。
パレーナさんはそこに手を浸し、ようこそと暖かく微笑むと、おれたちをふりむいた。
「もう、ルクは海を呼び出すことも、支配することもできなくなった。
大地を操ることも。
そのチカラはいまやわれらのもの。
行くぞ。いまこそ、決着をつけに!」
エルマーが「えいっ」と一声。さっきまでナイアガラ・フォールだった地割れに、太く丈夫な橋を架けてくれた。
地の民のつくった橋なら、崩れたりする心配はない。
「よし! 後衛はここから支援たのむ!」
「前衛は俺たちに続け――!!」
「おうっ!」
イツカたちが高らかに声を上げ、先頭に立って走りだす。
白イツカも今じゃ翼で飛べるのに、走ってる。まったく、こいつらはほんとに天才だ。
「カナタさん。わたしも後衛ですが、このままともにゆきますわ。
必要ならば、『ブロッサムオブスワン』の制御はお任せください。
ここでカナタさんとしばらく乗って、わたしもこの子がわかってきました」
そんなことをつくづく思っていれば、ライムが力強く言ってくれた。
プリースト一本の、完全な後衛なのに。
でも、彼女のつよさは確かなもの。おれは信頼をもってうなずく。
「そうだね、いざというときはお願い。
もしおれと切り離すことになったとしても、ちゃんと動くようにしておくから」
「はい!」
そんな会話をしつつ、おれも『ブロッサムオブスワン』で後を追った。
ルクの腕のひとつ、錫杖をにぎる腕がひとふりされる。
召喚されたのはまさかの『フィルの雪狼』。
『プロミスオブフィル』ができるまえに企画されたものなのだろう。もしくは、ハヤトが『狼王』の称号を得るまえに。
ハヤトが走りながら吠える。
「任せろ!『王威咆哮』!!」
スキル『王威咆哮』。相手に『威圧』、味方に『鼓舞』の効果を同時にもたらす、キング系ならではのスペシャルスキル。
イヌ科の仲間たちがすかさず吠え声を合わせ『友群強化』も発動。
なんと、もうひとりのおれの『プロミスオブフィル』までがこれに呼応、雪狼は粉雪となってこちらのひざ元にはせ参じる。
このタイミングでなぜか『プロミスオブフィル』のなかからにぎやかな声が聞こえだしたが、それはそっちに任せておこう。
ルクの腕のうち、武器を持つ三対、蜘蛛の文様を描かれた一対が、大きく振りかぶられる。
おれはライムとともに、仲間たちへの支援を開始した。
Q:なんでフィルの雪狼呼んじゃったの?『プロミスオブフィル』いるのにさ?
A:あー、それはほらさー、せっかく準備したからー……
次回! スーパールク、八面六臂の……もとい、三面八臂ぷらす蹴り技で大暴れ!
グリードによる仕込みも発動、ここまで出番のなかったあいつもお目見え。
双方総力あげての格闘バトル開幕です!
どうぞ、お楽しみに!!




