108-9 僕/わたしの結論~エルカの場合〜
スラムでの、出会いのこと。
ともに力を合わせ、走り回ったこと。
最初は、弱いわれわれ、子供たちの暮らしのために。
横暴にふるまう大人と対決し。その原因が、戦争にあることを知り。
そこから、世界の平和をめざしたこと。
戦場全体に目を配りつつ、ひたすらに。
ルクたちにむけ、呼びかけ語り掛け続けた。
返事は、やはり、なかったけれど。
影の魔獣とスケルトンの軍団が一掃され、『うっかり蹴散してしまう味方』がいなくなると同時に、巨大獣と化したアカシが飛び出してきた。
アカシは姿を現した時より、なお一層巨大化していた――四女神全員、そしてダンサーズのほとんどが正気に戻り、力を注ぐ対象が減ったためだろう。
『任せろ!』
対して、ベヒモスが飛び出す。
こちらもまた獣を思わせる風貌だが、不思議な安心感がある。
頼もしいひと声をのこし風となった陸竜は、アカシにがっぷり組みついた。
おどろくべきことに、というべきか、アカシは『最高の生物』の二つ名を持つ古竜と互角に押し合っている。
彼のなか、彼の背後にも、それなりの強さ大きさの想いがあるのだ。
だが、それはわれらも同じ。
われらうさねこ後衛は、ただ見守っているだけではない。
ミツルは『ホワイト・ミグレーション・プラス』でずっと『大神意』に対抗し続けている。
ソラは水の巨鳥として身を挺しつつ、ミツルにリンク。祈りのチカラにブーストをかけている。
そしてその体制を、アオバががっちり守っている。
シオンは管制として、戦場に飛び交う大量のデータを総括し、情報面からサポートを。
ソーヤはソラ同様、巨大もふうさロボとしてシオンを守りつつ、リソースを提供。
ミソラとシャナは、すっかり息のあった様子で、呪歌による全体サポート。
つめかけるスケルトン軍団をすべて『送った』ミライとミズキは、あふれるTPをフル活用して、戦い終えた仲間たちに『ハッピー・ハッピー・スプリング』で全回復を行っている。
わたしももちろん働いている。
かつての友としてルクに全力で語り掛ける、それがいま、わたしにできることだ。
というのは、ミツルとソラは第二次試行の『ボス戦』メンバー。『なあ、考えようぜ』などというには、『距離』が近すぎる。
その点、彼らのサポート役であった『仔狐』ならば。
しかも『仔狐』は、ルクの判断ミスの『被害者』でもある。
それが糾弾を行わず、ただ語り掛けるのであれば、まだ聞く耳も出てくるというもの。
そのことはライカネットを通じ、ほかのチームメンバーにも了解を得た。
そのうえでわたしは語り掛けに集中する。
いましも、天使のわっかのイツカ君と、スケさんの戦いが終わった。
イツカ君は回復を待つことなく走り出す。スケさんはそれについていく。
その背中に、カナタ君からのミックスポーション弾が、ミライ君からの回復魔法が、あやまたずに飛んだ。
「ミライ。俺たちもいこう」
「うんっ!」
ミズキ君がミライ君をいざなう。
この程度の距離ならば、ミライ君はわざわざ危険を冒して近づく必要はない。
それでも、追いかけたい。その気持ちを、ミズキ君はわかっている。
すかさず神聖防壁をかけなおし、二人してイツカ君を追いかけ走り出す。
そんな二人にむけ、赤リボンのカナタ君とライムの乗る『ブロッサムオブスワン』がぐっと高度を落とした。
「乗る?」
「うんっ!」
ぴょんぴょんっと飛び乗るふたりをコックピットに迎え入れ、『ブロッサムオブスワン』が加速する。
戦場の半ばほどで着地していた『プロミスオブフィル』のうえに、白い翼のイツカ君がぴょんととびのり、こぶしを突き上げた。
「っしゃああ!
いけるやつはいっしょに!! 疲れたやつは、そこで応援しててくれ!!
いっくぞ――!!」
「お――うっ!!」
うさねこメンバーズ、伝説の六竜、ミッドガルド四女神、3Sたち、ダンサーズ。
そして地球からこの様子を見守る者たちが、一斉に声を上げるのが、ここちよく腹に響く。
白リボンのイツカ君がぴょんと飛び降り走り出し、ルカとルナが自分の翼で飛び立ち、ゴーちゃんとマリオさんがふたたび、モンスターとしての姿をまとって駆け出す。
フォルドと『さっきー』、『プロミスオブフィル』にのった白のカナタ君も、大きな羽風と共にテイクオフ。
まっしろなうさぎオーラをまとったハヤト君、もろ肌脱ぎにサラシ姿のノゾミが走る。すいとミソラが追いついていく。
その後ろから、竜たちと女神が、神獣たちが妖精が、3Sがこどもたちが駆け出し、また飛び立った。
そのとき、ルクが目を開いた。
そして、ことばを返してきた。
「エルカ。それで、お前の結論は」
「君を止めたい。
『スラムの仔狐』として、その記憶を蘇らせたものとして。
ほんとうに、手遅れとなる前に!」
そうして、僕/わたしは、走り出した。
ミツルと、ソラと、ふたりをささえるアオバとともに。
「……わかった」
ルクは一つ大きく息を吸うと、声を張った。
「もどれ、アカシ!
――われと一つに!!」
『ハハアッ!!』
歓喜の咆哮が、空を地をゆさぶる。
一瞬にして、全身バラバラの光の玉となったアカシは、すいと宙を舞い、ルクの体を包み込んだ。
はじけた光のそのあとには、さきのアカシよりもなお巨大にして、なお力強いいきものがいた。
ついに、ルクとの直接の、そして最後の闘いが始まりました!!
次回、新章突入。
『ラスボス』となったルクの姿が明らかになります。
最終章まで、あと一歩。
どうぞ、お楽しみに!!




