Bonus Track_108-2-2 俺のこと、マリオさんのこと、そして〜ゴーちゃんの場合〜(2)
ゴーちゃん、ついに来るべき時が来たようです。
優しい楽園でどれほど暮らした頃か、ぼくはマリオさんと再会した。
そのころぼくはウッドゴーレムに。マリオさんは、リビングドールに姿を変えていたけれど、互いに互いを一目で分かった。
ひとしきり再会を喜びあったあと、リアルのぼくがこん睡状態になっていること、みんながとても心配していることを聞いた。
大変だ、とリアルに帰ろうしたぼくは――否、ぼくたちは、帰れなくなっていることに気がついた。
『ガーデン』に魂を飛ばし、人間を捨てて生きていた日々。その間に魂は形を変えてしまっており、そのままではもとの肉体に戻れなかったのだ。
途方に暮れたぼくたちの前にあらわれたのが、セレストさんだった。
彼女はぼくたちがふたたび人間として、リアルに戻る手立てを与えてくれた。
それが、『エヴァグレ』内で開催されるエデュテイメント・プログラム。
あくまでゲームとして、楽しみながら人間に戻れる、というのはありがたかったし、ぼくたちがそれに参加することで、人間になりたいというひとたちのお手伝いにもなるのはいいなと思えた。
何より彼女は、ぼくたちと親身に話してくれた。
こんなひと――種族としてはAIだけど――が案じるリアルになら、戻ってあげたい。そのしあわせの、お手伝いをしたい。
そう思えたからぼくたちは、『プロジェクト・ソウルクレイドル』に『先祖返り』として参加した。
ぼくとマリオさん、ふたりでカスタムした、森のはたの小さな小屋に、腰をおちつけて。
セレストさんからもらった携帯用端末で、プロジェクト用のゲーム『ティアズ・アンド・ブラッズ』にログイン。
人間としての仮の姿をまとい、学びと修行のための『くらし』を始めたのだった。
第一次試行でのぼくたちは、ごくごく平凡な一般人。
『僕』とマリオさんはまた親戚同士で、また仲良くなった。
僕はとろくて不器用だけれど、体は頑丈だったから、力仕事をして。
器用でおしゃれなマリオさんは、デザイナーを夢見てお針子さんをしていた。
戦火の隙間をぬうように、助け合って生きていたけれど……
ある日勃発した『ハルマゲドン』で僕たちのアバターは死亡、ゲームが終わった。
第二次試行では、町のストリートチルドレン。
いろいろあって、ルクたちの仲間になった。
ともに移民船に乗って地球を脱出したけれど、新天地には至れないまま、この試行はリセット。
まだ『人間マスター』になってなかった僕たちはそのまま第三次試行に参加、いまいちど、新しい人生をはじめた。
それがこの、いまの、俺たちだ。
そう、思い出した。
とことん不器用で失敗ばかりの俺は、働くほどに借金を膨らませ債務奴隷に。
高天原地下の収容所に収監されて働き始め、そこでもう一度、マリオさんと出会った。
マリオさんは多数の休眠アカウントをハッキング、利用した罪で服役していたのだけれど、複数アバターを鮮やかに操る腕を見込まれ、レア職人『ドールマスター』として一目置かれていた。
みためもかっこよくって、頭がよくて、みんなの相談にもどんどん乗ってあげる優しいマリオさんは、まるで王子様。
こっそり遠目に見ながらも、まぶしくって、話しかけることなんてできなくて。
ただただ、自分にできる唯一の事にうちこんだ。
すなわちゴーレム職人として働いて、働いて、働いていたらまさかの逆転ホームラン。
学園公認アイドルバトラー『しろくろウィングス』の卒シビのお相手を務めることとなり。
そこでルナさんに名前をもらって『ネームド』になって。
マリオさんたちと四人まとめて、『学園モンスターダンサーズ』としてデビュー。
いままで憧れでしかなかった人と、同僚で仲間で、友達にまでなってしまった。
そう、いま『プロミスオブフィル』から飛びだしたのは、『俺』にひかりをくれたひと。
この人生で、二度目の恋をした女の子。
天使のようで、小鳥のようで、いつもニコニコしているのに、こころはとても、強くって。
愛するイツにゃんと突然に引き裂かれても、くじけることなく待ち続けて。
そして今、ふたり力を合わせて、戦っている。
おそろいの白いリボンと羽かざりを身につけて、たすけあうふたり。
その姿は、輝くように見えた。
尊い、というのは、こういうことなんだと心から思った。
だって俺はルナさんに恋してるけど、イツにゃんもすごく、大好きなんだ。
だめだ。俺にはできない。
このふたりを引き裂くことなんてできない。
だって、そうしたいと、思えないんだ。
ふりきるように飛ばした『ひっさつ★ロケットパンチ』ははたして、二人を倒すことはかなわなかった。
グランドフォートレスゴーレムの、でっかなこぶしをイツにゃんが、真正面から受け止めて。
勢いを落としたそれに、ルナさんがやさしくふれる。
そしておれをまっすぐみあげて、優しくこう言ってくる。
「ね、ゴーちゃん。もう、やめよう。
きっともう、思い出してくれてるよね。
わたしたち、ともだちだったんだよ。
なんどもいっしょにステージに立って、いっしょに踊った。
ゴーちゃんは、マリオさんは、わたしたちのこといつも、思いやってくれてた。
そんなひとたちと戦うのは、かなしいよ。
なかよくしよう。いっしょにうたおう。きのうまでみたいに」
だいすきな、たいせつな、あこがれのひとに。
やさしい手で触れられて。
うるんだ、きれいな瞳でみつめられて。
なかよくしようと、訴えられて。
戦えるやつなんて、いるのだろうか。
すくなくとも俺にも、僕にも、ぼくにもそれは、むりだった。
ぼろぼろと、俺の『からだ』がくずれだす。
気づけば俺は、人間の姿で、ルナさんの前に立っていた。
すべてをとりもどした俺の口からは、偽らざることばがぽろぽろと、あふれだしていた。
「ルナさん。
ずっと、ずっと、すきでした」
「……うん」
優しい目をしてうなずくルナさんには、もう次の言葉がわかっているようだった。
だから俺は、告げた。
「イツにゃんと、どうか、お幸せに」
「…………うん」
そうして俺はルナさんとイツにゃんと、握手をした。
マリオンのすがたから、いつもの姿に戻った、マリオさんに背中を支えてもらいながら。
さっきー、間に合わなかった? いいえ、描かれてない間に頑張ってました。
次回、そのあたりをカナタ視点でリプレイです。
どうぞ、お楽しみに!!




