108-5 お前らちょっとは自重しろ!『いいんちょ』、敵に対して突っ込むの巻~ノゾミの場合~
この群れはかつて見たことがある。
俺たちを、トウヤたちを、そしてアスカたちを『陥れる』ためにあらわれた――そして俺が介入しなければ、ミライも見ていたはずの――モノ。
トラップクエスト『竜の呪いとエンジェルティア』の仕上げを担う、スタンピードだ。
あの時俺は、追われるミソラを見て怒りに我を忘れ、地形さえ壊す勢いで暴れ狂って鬼神堕ち、という無様をさらした。
トウヤとアカネは冷静に与ダメージ=取得BPを二人で案分したうえ、適宜BPをアースし切り抜けクリア。アスカとハヤトは、イベント構造を看破したアスカの指揮で完全クリアを果たしたというのに。
トウヤはタカシロに連なる武門の出。アカネは世界的デザイナーと天才的プリーストの娘としてのチカラをフルに活かして、つねにやつを補佐していた。
アスカとハヤトは自分たちが狙われていることを知り、あらかじめ対策を講じたうえでとっこんだ。
素養の差、知識の差、準備の差。そう言ってしまえばそれまでだが、愛する女性を悲しませ、いらない苦労を強いた愚への免罪符とはならない。
だからいつか彼女には、その百倍、いや千倍ラクをさせてやる。
それを念じて俺は戦ってきた。
今日のこの戦いは、そんな俺の、総決算といって差し支えない。
鬼神堕ち上等、ありがたい。
ミソラの、ミライの、イツカのカナタの、俺に連なるすべての愛すべき存在の幸せを阻むものは、的確かつ、全力かつ、徹底的にブッ飛ばす!!
「遠慮はいらんようだな。『レギンレ」
そのときドゴンと轟音が上がり、俺は目を疑った。
押し寄せる影の魔獣、そのどまんなかに着弾したのは『フォレスト・フォース』。
『さっきー』の投射攻撃魔法だ。
「ちょっ! よけないでくださーい!!
『フォレスト・フォース』! 『フォレスト・フォース』!! 」
だが彼女はこちらの味方に付いたというわけではなさそうだ。
『プロミスオブフィル』――白リボンのイツカとカナタ、そしてルカとルナをのせて『ゴーちゃん』をめざすツリーアーマー――を狙っているようだが、不思議なくらい全部別の方向にぶっ飛んでいる。
空中のどこかに吹っ飛んでいくのはまだいいが、多くは影の魔獣の軍団のさなかに落ちる。そして、少なくない被害者を出している。
彼女を背に乗せたフォルドがついに、見かねた様子で小さく吠えた。
「えええ……わ、わかりましたぁ……」
『さっきー』は素直にフォルドのフォローに徹することにしたらしい。ほっと息をついたのもつかの間ドバン。
今度は暴れ水龍の吐き散らかすアクア・ブレスが、いちウェーブ分ほどを薙ぎ払った。
「くっそあぶねえだろーが! 自重しろお前ら――!!」
まったく、どいつもこいつも。俺はたまらず突っ込んだ。
もちろん返事は帰ってこない。いや、アスカとミソラがバカウケしてる。
……まあ、こんなののほうがずっといい。
『闘技場のイケニエのウサギ』たちのように、追いつめられる様子をクソな見世物にされるよりはずっと、ずっと。
そんな世の中はもう二度と、絶対に来させない。
関係者全員、完膚なきまでブッ飛ばしてでも。
そのために俺はここで、鬼神となる。
味方する者たちには心強く。敵に対しては恐怖の代名詞たりうる姿を、天下万民に示すのだ。
気を取り直し俺は高らかに宣言した。
わが愛刀『青嵐』を高く掲げて。
「いくぞ!『レギンレイヴ』!! からの、『青嵐・総浚』!!」
星の輝きをまとう神狐の剣士と化した俺。
その手の中で、青嵐もひときわ青くまぶしく輝きをたたえる。
俺はそのチカラを遠慮なく解き放った。
初夏の風が野の草を払うように、影の魔物がなぎ倒される。
与えたダメージによるBPはつぎつぎ俺に流れ込み、あっという間に鬼神堕ちの閾値を超えるが――問題はない。
ミソラの集めてくれたTPの量は、それを優に超えている。
問題ない。俺もすでに第三覚醒を終えた身。小さなひととしてのしばりなど、もはやうしろに脱ぎ捨ててきた。
すべて、愛するものたちのしあわせのために。
もろ肌を脱ぎ、天に吠え、俺は闇の濁流に斬りこんだ。
今回真っ先に吹っ飛ばされたのは何でしょう。こたえ:シリアス
全力もろ肌脱ぎがやっと出せたので満足です(そこ?)
次回はいったん、シオン視点での戦況俯瞰。
フォルドとツリーアーマーずの競り合いの結果は?
どうぞ、お楽しみに!




