13-4 カナタの挑戦!(下)
そうして、おれはここにいる。
ルカはいつものシンプルな白黒のセパレート。
腰には細身の剣、太ももにはナイフ。
おれも、いつもの青基調のオーバーオール風。
腰後ろにはマジックポーチ。両もものホルスターには、装填済みの魔擲弾銃。
ルカの表情はかため。自らの言動に非があったと、彼女自身は認めているのだ。
そして、おれたちも謝意を認めてはいる。
けれど、おれも一応はアイドルバトラー。
振り上げたこぶしは、華麗に振り切らなくてはならない。
それがわかっているから、おれたちはこうして向かい合い、互いに強気な言葉を交わす。
「カナタ。
あなたはあたし相手なら、『あなたのバトル』ができるって言ってたけど、ほんとにそう?
イツカはあの通りだし、ハヤトだってあたしには勝てると限らない。
いいのよ、今からハンデをつけても」
「同レベルのクラフターとハンターがガチでやると、クラフターは勝てない。
一体誰がそんなことを言い出したんだろうね。
ハンターはだいたい、自前の技とポイントしか使えない。けれど、クラフターは事前に仕込んだいくつもの対策と何倍ものポイントで迎え撃てる。
このバトルで証明してみせるよ。おれはきみより強い。そのおれより強いイツカは、もっともっと強い、ってことをね」
立ち合い人控え位置からイツカがやめろおおおと叫んでるけど気にしない。
イツカはおれが世話する『ドラゴン』なのだ。それがおれより弱いなどという事はあり得ないし、もしもあったら全力で強くせねばならない。
なぜって、相性なんて、最終的には言い訳なのだ。
「だから、きみこそ選んでいいよ。
最初の一手。
もちろん、きみに一撃でやられる、以外のだけどね」
「そんなのはいらないわ。
始めましょう」
「わかった。
それじゃ、はじめよう。
――よろしくお願いします」
「ええ、お願いします!」
はじめの合図と同時に、ルカは斬り込んできた。
スピードを生かしたまっすぐな突き。
おれもまっすぐ迎え撃つ。
銃口を向けて撃ちだすのは、斥力のオーブ。
細身の剣に貫かれ、ぱりりと割れた灰色のオーブは、秘められた力を解き放つ――自分を中心として、周囲のすべてを押しのける。
ルカはその力に逆らわず、むしろ翼を広げて一気に舞った。
あっという間にパワーチャージを終えた彼女は、そこから次々と『エア・スラッシュ』を走らせてくる。
もちろん予想の内。おれはスキル『瞬即塹壕』で塹壕を掘り、その中にとびこんだ。
同時に、『超聴覚』発動。土の向こうの様子をうかがいつつ、次の行動を開始した。
「穴熊戦法ならぬ、アナウサギ戦法かしら?
無駄よ! 塹壕なんて空からみたらただの穴なんだから!」
ルカはというと、もう勝った気でいるらしい。そんなことを言いながら塹壕の上空へやってくる。
もちろん、塹壕からの狙撃を警戒し、まずは軽い斬撃を一発撃ちだして盾に。
その裏側に入る形で位置を合わせると、すかさず三発、まとめてたたき込む!
「っ、『我は太陽の中にあり』っ!」
けれど、彼女は目もとを押さえて退避。
塹壕の底から激しい閃光があふれ出し、彼女の目を射たためである。
さすがはというべきか、とっさにスキル発動。
Special Skill!! のポップアップの下、まばゆい黄金の光球に身を包む。
あれは『日輪』。カラス装備・熟練度A+のスペシャルスキルだ。
彼女を包む黄金の光球は、自分と味方に治癒・強化をかける一方で、敵対者が触れれば炎・神聖属性のダメージを与える、カウンターつきバリアとなっている。
もちろん消費も大きく、長時間は使えない。
ぱっちりと目を見開いたルカは、すぐに『日輪』を解除した。
「塹壕の底に、閃光のオーブを埋めてたのね。
自分はそして、横穴を掘って逃げた」
いまや地の底にいるおれは、彼女の声を『聴く』ことができても、こちらの声を伝えることができない。
そのために作っておいたのがこれ。おれはアイテム『遠響巻貝』を取りだすと、自分の声をルカの舞う中空に飛ばした。
『ご名答。
ただね、オーブが埋まってるのは塹壕の底だけ。そう考えて大丈夫かな?』
「フェイクだわ。事前にフィールドに仕込みはできない。あたしが視界を失ったのは一瞬。あんたがオーブをばらまくヒマなんてなかったわ」
『なるほどね。それじゃあ――』
つい今しがた地下に作った空洞の中、おれは指向性斥力のスクロールを取り出す。
土壁の天井、ナナメ上方をむけて広げる。
スクロールは自らの前方のみに『押しのける力』を発生させ、勢いよく土を押しのけていく。
「そこっ!」
やがてそのチカラが地表に達すると、ルカが斬撃を放った。
もちろん、おれはそこにはいない。ただむなしく、土くれが吹き飛ぶだけだ。
スクロールをいったんたたみ、今度は別の方向へ。
二度、三度。繰り返すうちにルカは、ひとつうなずいた。
よし。さっきまでスクロールでそうしていたのと同様に、角度をつけてゆっくりと、おれは地表に向けて穴を掘り進め始めた。
「なるほど、クラフトを使った陽動作戦ってわけね。
うまい作戦だけど――」
ルカは言いつつ、舞い上がる。パワーチャージ。
「風を知るあたし相手には、ぜんっぜん無意味だから!
『エアブレード・ラッシュ』!!」
そして彼女はさっき掘られたダミーの穴に近づき、必殺技(中)を叩きこんだ。
彼女の紡ぐ鋭い風は、土壁を伝っておれのいた空洞へ。そして、そことつながっていたほかの穴へと吹き抜ける!
フィールドのあちこちから、土砂を含んだ風が吹き上げた。
それを『聴き』つつおれは、自ら地表に飛び出した。
念のため、背後を埋めておいて正解だった。さもなければいまごろおれは、全身傷だらけで宙に吹きあげられていただろう。
さすがにそうなっては、勝利も厳しい。
ともあれ、ここで一気に畳みかける。『超聴覚』を解除し、頭上を舞うルカに向けて、両手いっぱいのクレイボムを投げた。
ルカはひらりと高度を上げ、それらをあっさりかわしてしまう。
「おあいにく! 面で制圧すればと思ったのでしょうけど……」
これでいい。つづいて『抜打狙擲』。
投げたのは、『引力のオーブ(強め)』。当たったのは、ルカの一番そばにあるクレイボム。
オーブが割れると、重力以上の引力が発生。周囲のものを強力にひきつけ始めた。
宙を舞う砂や土くれはもちろん、地表の小石も舞い上がる。
もちろんおれは舞い上ったりしないし、ルカは強力な翼で抵抗したが、軽く小さなボムはそうはいかない。
万有引力にひかれ、落ちかけていたすべてのボムは、すべて一か所に凝集して……
その結果は、ずんと腹に響く大爆発。
防御姿勢を取ったルカだったが、広がる衝撃は細い身体を容赦なく吹き飛ばした。
すかさずおれは走った。くるくるとまわりつつ、落下してくるルカにむけて。
装弾は確認してある。『抜打狙撃』。
腿のホルスターから魔擲弾銃を抜き放ち、ルカを撃った。
放たれた弾はもちろん、殺傷性のものなんかじゃない。
やわらかな白の地に、銀の羽模様が描かれた『フェザー・フォール』のボム。
かるくルカに当たれば、魔力でできた真っ白な羽毛が花開き、彼女を優しくつつみこむ。
とたん、身体の回転は止まり、落下速度はふわりと1/10に。おれは余裕をもって落下地点に駆け付け、ルカを受け止めることができた。
うん、軽い。さすが、鳥装備を選択するだけはある。
こんな少女を吹っ飛ばしたことに、心中罪悪感を覚えつつ、おれはつとめて穏やかに笑みを向けた。
「これで、認めてくれるかな?」
「えっ……え? え……ええっ?!」
ルカはおれを凝視、ついで周りを見回し、もう一度おれを見る。
その顔はなぜか、みるみる真っ赤になってゆき……
「ばっ、ばっ、ばかぁっ!!」
気が付けばおれは地面に転げ、フィールドを飛び出していくルカの後ろ姿を見送っていた。
「え……」
顔が痛い。何が起きたんだろう。
ぼうぜんとしていると、ルナがにこにこと歩み寄ってきた。
「うふふ。カナタくん、やっぱり王子さまだねっ。
顔、痛いと思うけどそのまましとくね。そのほうが、いろいろおいしいとおもうから。
それじゃわたし、るかをつかまえるから。きょうはありがとうね、カナタくん♪」
かとおもうとすんごいうれしそうに、走り去っていく。
なぜか野次馬たちが口笛を吹き、やんやと喝采を送ってくる。
そんななかイツカが俺を助け起こしにきたのだが、なぜかやつまでニヤニヤしている。
「おーおー、すみに置けないなーカナター。
ライムちゃんのことはいーのかー? んー?」
「え?」
「だーかーらー。
こーんなふうにお姫さま抱っこしちまってー、ニコッ、て。
それはふつーにアレだろアレ!」
「いやアレってなに」
「あーもー、だーかーらー」
うん、さっぱりわけがわからない。おれは混乱するばかりだった。
いつもありがとうございます。
さりげにカナタの装備、初めて描写されてます。(;^_^A
意外と長くなってしまった……次回が短いのですが。
次回はとあるメイドさんの独り言です。お楽しみに!




