107-3 覚悟と、覚悟
アタックチームのみんなは、まったく動じていなかった。
これを、持ち場からモニターで見ている仲間たちもだ。
『なん……だと?』
対してカプセルのなかのルクは動揺を見せた。
さきの激昂とは違う、本気のそれを。
「荒唐無稽しか聞こえないことばですよね。
『この世界のすべてがVRだ』なんて。
それでもそれが真実ならば、みんなには『そう』とわかってしまう――それだけのチカラを、ここまでに育んできたのですから」
おれたちは、静かにたねあかしをはじめた。
「だから、あなたはそうおっしゃるだろう。そして、仲間たちの士気を崩壊させようとするだろう。
そのことは、もう、予測されていました。
だから、話してきたんです。すべて。
このセカイのこと。そのなりたちと目的。
話すことを許された限りのこと、なにもかも」
ライカネットワーク上に作り出された『ライハラフィールド(仮)』。
昨日、そのなかに設けた会場で、みんなに話した。
まずはおれたちの身の上を。そしてアースガルドの現状、ミッション『エインヘリアル』がはじまったわけと、そこからのいきさつを。
みんな驚きというより、納得の顔をしていた。
まあ、それはそうだろう。これと同じようなことはこれまでさんざん、いろいろな形で、言われてきてたし。
ただ、『この世界がVRであること』。それが、これまでとのたった一つの、そして最大の相違だ。
そこが最大のネックだと、でも必ず理解できるはずと、むこうでみんなも言ってくれていた。
はたしてこっちでも、ミライは、みんなは、理解を示してくれた。
心からほっとしながら、おれとおれはことばをつづけた。
『みんなももう、感づいてたと思う。
おれたちのこの世界は、人生は、大きな大きな仮想現実のなかにあるってこと』
『人間以外として生まれたひとが、人間に生まれ変わるため……
もしくは、ゆえあって人間の姿を捨ててしまったひとたちが、もう一度人間としての自分を取り戻すため。
ここで、仮の姿をもらって、人間として生きてみてる。
一生をがんばって生きて、『人間マスター』に達してたら、虹の橋を渡ってアースガルドに行く』
『おれたち『スターシード』は、そのお手伝いをする。
そうして、参加者のみんなにアースガルドに転生してもらって、滅亡を回避する。
これが『プロジェクト・ソウルクレイドル』。みんながもともと参加をきめた、アースガルド救済プロジェクトだ』
『みんなはそのためのゲーム――『ティアズ・アンド・ブラッズ』にログインして、いまここに『いる』。
それは、おれたちもそうだ。
適宜休憩を取りながら、それぞれ落ち着ける場所でプレーをしてる』
そう、たとえば、おれたちとイツカたちは、アトリエのベッドに横になって。
ほかのみんなも、それぞれのホームで、携帯用端末を使いここにインしている。
たとえ、その実感は持てずとも。
『もともとはただ、ときどき冒険しながら基本普通に、平和な人生を生きる『ファンタジー系人生ゲーム』になる予定だったんたけれど、事態の悪化は早かった。
だから協議のうえで、ウォーゲームに仕様が変わったんだ。
3名のマザーのもと、三つの陣営に分かれて戦い、転生を繰り返す――ミッション『エインヘリアル』で魂を育て上げるように。
もちろんこの段階で参加を取りやめた人もいるし、逆に参加を決めた人もいた』
『そんなわけで第一期、第二期と試行を重ねて、現在は第三期。
第一期は世界大戦の結果の滅亡で終わり、第二期は、GMとプレイヤーの間の行き違いと、設けられていた仕様の結果、不運なかたちで試行そのものが強制終了されてしまった』
第二期の顛末をもっとずばりというなら『地球脱出を試みたルクたちがGMと交戦したことで、地球がリセットされてしまった』のだが、そこは言わないでおいた。
ルクはそのことについていたく反省しているのだ。それを責めるような形には、したくなかったので。
『そして始まった第三期だけど、予想外のことが起きて、プロジェクトの進行が滞ってしまった。
戦いを通じて成長を続けたひとが、3Sより強くなってしまった。
それによって、それまで3Sが担ってくれていた『手に負えない社会のゆがみを強制リセットさせる』ということができなくなったんだ』
『結果、ゆがみは肥大し、ステラ国の悲劇が起きた。
海のこちら側では、高天原の闇が生まれた。
それらに巻き込まれたひとは大きく傷つき、あるいは堕落してしまった』
被害者となったものは、傷つき委縮した。
加害者となったものは、自らを堕落させた。
ログアウトしてそれを知り、落ち込むひとたちの姿は、思い出すだに胸が痛む。
『ステラ国については、マザーたちの協議で救済策を打ったけれど、その裏にある暗部は残り続けた。高天原のそれと一体に結びついて。
ルクはむしろそれを利用することで、失地を回復しようとした。その結果が、おれたちの戦ってきた、あれやこれだ。
問題にはなっていた。けれど、有効な手は打てずにいた』
『一度、強引にでもこの第三期試行を終わらせ、渡れるものだけでも渡らせ急場をしのぐか。そんな議論さえ出ていた。
けれど、それを救ってくれたのが、アスカの頭脳だった。
こうなることを見越して、策を仕込んでおいてくれたんだ。
おれたちはあやまたず、それを打ってきた。そして、ここにもどってきた。
この大作戦を成功させて、規格外のトゥルーエンドを呼び込む。そのためにもっとも必要な、いまここにいるみんなの力を借りるために』
本来ならおれたちも、ここに戻った時点でプロジェクトに関する記憶を再び封じられるはずだった。
しかし、今回は特別に、記憶を保ったままでのインとなった。
理由は、アスカがメールに残した作戦が、クリティカルなものだったからだ。
これを完遂すれば、プロジェクトは成功に終わる。
逆に失敗すれば、強引なデッドエンドしかない。
そのくらいならば。そう判断されての特例だった。
おれたちは全てを覚えたままでミッドガルドに戻り、みんなにすべてを打ち明けたのだ。
GMはミッション『エインヘリアル』を手放せない。
その一部となって彼女を支えている、ルクとセレナもだ。
そうである以上、確定で一戦交えることとなる。
それでも、一緒に行く。そう言ってくれる仲間たちにいま、俺たちができること――
そして、この『ゲーム』をトゥルーエンドに導くためのこと。
ふたつは一致していた。
だから、向こうであらかじめ手を打った上で、おれたちはミッドガルドに舞い戻った。
覚悟を決めての告白とお願いは、みんなに受け入れてもらえた。
そうして、おれたちはここにいる。
「魂と魂で、話をしてきました。もちろん、あなたとも」おれはルクに言う。
「だからこそ、おれたちはあなたにここで無下に『戦うな』とは言えません」もうひとりのやつも。
「その思いをたたきつける機会が、時間が必要ならば、俺たちで受け止める」そのとなり、もうひとりのイツカが進み出る。
「戦いたいなら、戦う。でも、握手するつもりになったら、いつでもいい。
ルク。そして、セレナ。お前たちの判断を聞かせてくれ」
そしてイツカが手を差し出すと。
『……わかった』
ルクは射貫くような目でこちらを見た。
『そこまでわかっているなら、やることは一つだ。
俺は、俺のしてきたことに。俺を、自らの星と仰いでくれる者たちのために、我がすべてをかける!!
リュウジが、アカシが――わが子孫らが覚悟を決めて、そうしたように!!』
ルクをおさめたカプセルが、ばん、と砕け散る。
つづいて、セレナのカプセルも。
すっとあらわれてセレナに手を貸すのは、彼女の執事。
そしてルクに手を差し出したのは、どこか見覚えのある巨大な獣人。
耳をすませばすぐにわかった。それはさらなるパワーアップを果たしたアカシ・タカシロだった。
次回、双方のアタックチームがそろい、いよいよラストバトル開幕です!
どうぞ、お楽しみに!!




