Bonus Track_107-1 イツカのうちあけばなし
2023.03.02
すみません……サブタイのナンバリングをミスっておりました。
お詫びして修正いたします。
俺たちのうまれた世界、アースガルドと名付けられたそこでは、人間が絶滅しようとしていた。
戦争や、病気とか、じゃない。
平和で豊かだけれど、進みすぎた世に希望を見いだせなくなった人間の魂が、アースガルドに戻らなくなってしまったためだ。
たとえ人工授精で受精卵をつくりだしても、そこに魂が宿らなければ、生命のサイクルは始まらず。
人工的に人としての体を作りあげ、呼吸と鼓動を与えたとしても、その目が開くことはなく。
人間と異なる生き物の魂を宿そうとしてみても、定着することはできなかったという。
それはたとえ、宿る『本人』の希望があったとしても。
そんなわけで、ゆっくりゆっくりと、人口は減っていた。
それを憂えたアースガルドの住人、人間とAIは、力を合わせて解決法を探っていた。
そのさなか『見つかった』のが、俺たちだった。
リアルバーチャル、どちらの世界にも愛を注ぐ心優しいAI『セレスト』の研究によって、俺たちは電子の海から見いだされ、大切に育て上げられ、人間になった。
俺と、カナタ。つづいて、ソナタちゃんが。
そこから始まったのが、プロジェクト『ソウルクレイドル』。
アースガルドから出ていった魂たちを説得して、また、魂たちが出て行った先『楽園』にいた生き物たちにも頼んで、育成プログラムを体験して、アースガルドの人間になってもらうことにしたのだ。
本来なら、俺たちがそうだったように、ゆっくりと人間として生き、暮らし、育っていければよかったのだが、ベータテストのその間にも、事態は悪化していた。
そこで急きょ企画されたのがミッション『エインヘリアル』。
短いサイクルで人間になれる者を出していくため、三人の女神――その本体であるスーパーコンピューター『マザー』のもと、三つの陣営に分かれての多国間戦争によって、成長と死、そして輪廻をくりかえす、というものだった。
カッコいいスキルを駆使しての転生ウォーゲーム。
日常パートも充実だ。学校に行ったりゲームをしたり、お茶もケンカも恋もする。
そうしながら、ひとつの世界も救えるのだ。
自分たちが成長することで、あるいは、仲間たちの成長を助けてやることで。
俺たちはみんな、ただひたすらワクワクしてた。
いま、その記憶は封じられてしまっているけれど、それはホントのことなのだ。
そう、みんなに打ち明けた。
「ってことは、『ホントに』ゲームなの。
ミッション『エインヘリアル』……ううん、おれたちのいきてきた、この世界、この人生は……」
ミライが大きな瞳を潤ませれば、アトリエのなかは静まり返った。
「ミライは、どうおもう?」
カナタが優しく聞くと、ミライは言った。
「おれは、……
『ゲーム』じゃないって思う。
だって、おれたちみんな、一生懸命生きてきたもの。
この世界が、そもそもVRの世界なんだとしても。記憶を封じたうえで見ている、つくられた舞台なんだとしても。
おれは、みんなと、全力で生きてきた。
それは、うそでもまぼろしでもなんでもない」
子犬みたいにかわいいくせに、そのこころは神狼より強いミライは、真っ直ぐな目で言い切る。
「これが、人間になるための練習で。それを終えたおれが、人間になったら。
ぜったいわすれない。この人生のこと、みんなのこと。
そうして、人間として生きる。
みんなを愛して、平和を愛して、世界中全部をしあわせにしようとがんばる人間に!」
つぎつぎに、賛同の声が上がった。
これが、ゆうべのこと。
ライカネットワーク内に設けられた、VR特設会場でのことだった。
ほんと、せつめいってむずかしい……
必要十分なことをパッとわかる頭がほしいっス。
次回、つづき!
お楽しみに!!




