107-2 かつての友と、『暴かれた』秘密~エルカの場合~
ジャンク屋といえば聞こえはいいが、その実態は戦場のコソ泥。
そんな野良仔ギツネを拾ってくれたのは、お得意さんの少年だった。
いっしょにいこうぜ、もっともっときれいな景色を見せてやるよとやつは笑った。
イツカ君にどこか似た、あけっぴろげな笑顔で。
やつはみんなの『おひさま』だった。
薄汚れたスラムのただなかにあってなお、いつもきらきらとかがやいて、みんなを照らし温めてくれる。
そんなやつに、みんながひきつけられた。
やつのまわりにはいつも笑い声が絶えず、やつが行くところ、しあわせがあふれた。
けれど、そんなやつでもできなかった。
地球からすぐに戦争をなくすなんてことは。
せめてカタキを。戦って死なせてくれ。なんで我らが許さなければならないの。
悲痛なその声たちを押しつぶすことは、優しいやつにはできなかった。
そこで我らは宇宙に飛んだ。
戦いの連鎖を終わらせるため、経戦をのぞむ者たちだけを地球に残して。
しかしそこは見えない壁のたつ袋小路。
このさきにはけしてゆけぬ。そう忠告を与えてくれた女神を『門番』と断じ、ルクたちは戦いを挑んだ。
そのとき僕は見たのだ。青い地球に走る不吉なノイズを。
やめさせなければ。しらせなければ。
すでに戦いは激しく、だれも通信には答えなかった。
この時代、僕たちクラフターは後方支援専門職で、戦場に出ることはなかった。
それでも僕は走った。必死に全力で走った。
結果。僕は間に合わなかった。地球は、リセットされてしまった。
つぎの生をもって、この過ちの責任を。ルクたちがそう『大女神』と話したあとに、僕も御前に進み出た。
『どうしたのです、エルカ? ミッドガルドになにか、心残りが?』
「はい。
僕にはもう、虹の橋の向こうへ旅立つ資格がある……そうお聞きしました。
ですので僕は、アースガルドで人間になります。
ですが、そのあとすぐもう一度、戻ってきたいのです。
こんどこそ夢をかなえたい。ルクからもらった、世界の平和という夢を。
そのために僕は、もっと力を尽くしたいのです!!」
アースガルドで人間となった僕は、体の調整ののち、すぐにミッドガルドに舞い戻った。
こんどはアースガルドからの使者として。
当然、僕の記憶は封じられ、何も知らぬまま成長した。
あらたな人生、あらたな生活のなかで得た仲間を愛し、それを消そうとした『巨悪』と、敵対するに至った。
その底にいるのが、かつて夢わけ合った、たいせつな友と知らぬままに。
『……で。
何をしに来たんだ、エルカ。
俺たちとのことを思いだした。それはわかった。
そのうえでお前は、どうするつもりだ』
たどり着いた『謁見の間』にて。やつはわたしをじっとにらんだ。
『大女神』本体とつながった、薄青いカプセルポッドの中から。
「『エルカ・タマモ』としては、きみは敵だ。
だが、『スラムの仔狐』としては、だいじな友だ。
わたしがただ敵にしか見えぬなら、いまは何も言うまい。
だが、ひとひらでも友情があるのなら、ひとつだけお願いをしたい。
この子らの話を聞いてやってはもらえないか。
本当に、新たなプランを持ってきたのだ。
古き肉体の消滅を越えてなお、世界のために尽くさんとする。
その精神性は、我々とおなじだ。
頼む。いま一度、静かに耳を貸してはもらえないか」
わたしが頭を下げると、帰ってきたのは長い沈黙ののちのため息。
『頭を上げてくれ、エルカ』
青い明りの向こう、当時と変わらぬ姿の友はこういった。
苦渋に満ちた声と顔とで。
『もう、本当に時間がないのだ。
現行三国のすべてを挙げた世界大戦。それにより虹の橋を渡る、万の魂。
滅びを免れるのに必要なのはもはやそれだけ。
もう遅いのだ。我らにはもう、選べる『カード』など残っていないのだ』
「ちょっと待てよ、だからそれを」
『うるさい黙れ!!
話したいなら死んでからにしろッ!!』
イツカの言葉をルクはぶった切る。
それはやつの会心の叫びだった。
『わかってるんだろうどうせゲームなんだこんなのは!!
全員同意の上で始めた教育プログラムとしてのウォーゲーム!! 死んで殺してステージアップ!!
『ミッドガルド』はそのためにつくられた特設ワールドでしかねえんだよッ!!
ちゃんとそこまで話したんだろうな?! ただのゲームと分からせたうえで引っ張ってきてんだろうなお前の友をッ?!』
けして口にしてはならない秘密を暴く言葉は、仲間同士の信頼をズタズタにし、士気を瓦解させるに足る最悪の呪い。
こめかみがきりりと痛む。記憶の封印が悲鳴を上げる。
けれど、イツカとカナタは言った。
「ああ、話したさ」
「話してきたよ。なにもかもね」
『ティアブラは架空世界でのVR』……鋭い!
あれから三年、やっと言えます。あたりですよおおおお!!
ええ、もう一階層ばかしあるのですが(∀`*ゞ)エヘヘ
次回、イツカナがした打ち明け話。
ミライたちの反応はもちろん……
どうか、お楽しみに!




