106-7 だったら歌おう! 誰だってオリジナル!!
「意味、わかんないよ……
なんで、敵なのに応援するの」
あっちの白リボンのおれはとまどっている。
「そうだよ! なんだって応援してくれんだよ!!
俺たちそもそもニセモノだろうがよ!!」
あっちがわのイツカは泣きだしそうな顔をしていた。
「わかってるよね? おれいま、だまし討ちしようとしたんだよ?
なのに、なんで……」
あっちがわのおれは混乱している。
そう、やつは先ほど、語りながらこっそりと、フィールド深くにハーブの根を巡らせ、一気に芽吹かせておれたちを仕留めようとした。
『大地の信託』――魔王戦第七陣でもうひとりのおれが大地とリンクしたとき、おれたちに与えられたものだ――を有するおれに、わからないわけなんかない。
さっそくフィールドにおれの意志を伝え、ハーブの支配を奪う、というやりとりがあったばかりだ。
にもかかわらず、みんなはやつにもエールを送った。
それは、混乱もするだろう。
でも、それが<うさねこ>だ。
ノリノリで愉快で気のいいやつら。
人一倍苦しんできたからこそ優しくつよい、最強で最高の仲間たちなのだ。
ひとの悪いおれとのバトルでは、その程度のだまし討ち、かわいいもんだったからでは……うん、確かにあるけれど。
「俺たちが、この姿だからか」
あっちの白イツカの声にこたえたのは、ミソラ先生。
「もちろん、それもあるよ。
やっぱりね、人間。おいそれと憎めないんだよ、かわいい弟分とおんなじ姿をしてればさ。
それが必死で頑張ってれば、エールのひとつも投げたくなる」
「っざっけんなよ!!」
すると、向こうの白イツカはぶち切れた。
「こいつはゲームじゃねえ。真剣勝負なんだ!!
どーせ音声編集されるだろーからぶちまけるがな! 負けたら俺たちゃ廃棄処分だ!
2回も失敗したアンドロイド・エージェントなんざただのガラクタなんだよ!」
向こうのイツカも、目に涙をためて続く。
「ワンチャンどっかの誰かが、綺麗なお洋服着せて愛でるために買ってくれるかもしれないけどなァ!
Ω制をうわべだけなくしたってな! 俺たちみたいのはなくならねえんだ!! ほんとに救いてえんなら」
「ああ、挑めよ」
すると、イツカたちがすぐにこたえた。
「来いよ、いくらでも。俺たちのとこに」
「「俺たちが勝つ。そして全員連れていく。例外なんかねえっ!!」」
いつのまにか、あっちのイツカたちへと距離を詰めて。
剣をおさめ、両手を差し出している。
「バ、……ッカじゃねえの?」
「手、握って見せてさ! ブッ刺すやつだっているんだぞ! こうやってさ!!」
あちらの白イツカはいまにも剣を取り落としそうに手を震わせているけれど、向こうのイツカはサブのナイフを抜く。
しっぽでの合図を受けるまでもなく、おれは動かない。
イツカの腹にめり込んだとみえたナイフは、その刀身を失っていた。
「俺はさ。バカだから、強くなったんだ。
人間じゃできねえかもしれねえ無茶を、それでもやるために」
「俺が、俺たちが守る。セカイ、変えてやるよ」
イツカたちはしずかに言う。
ゆっくりと進み出て、それぞれの姿をした相手をそっと抱きしめる。
おれたちも、それに続いた。むこうのカナタたちの手を取って、そっと抱きよせる。
パターンではこういうとき狙撃が来るもんだけど、そんなのはここにいるみんな、そしてアスカたちハッカーチームがゆるさない。
守られた静けさの中、向こうのおれたちは言う。
「でも、おれたちは『にせもの』だよ」
「カラッポの人形なんだ、ただの。
『ホンモノ』になれなきゃ、存在する意味すらもない」
そんなことない。そんなことは絶対にない。
なぜって。
「きみたちにはきみたちの『鼓動』があるのに?」
そう、おれたちの耳にはきこえている。
かれらの、かれらだけの、胸の鼓動が。
たしかに機械仕掛けだけれど、それでもそれはたしかに、動き語り、ほほえみ歌うための『命のチカラ』。
ひとつひとつ、ことなる音を立てて打つ。
顔を見合わせるむこうの四人。
まだとまどいと不安がのこる彼らに向かい、おれは誘い掛けた。
「ねえ、歌おう。
そうすれば、おれたちは仲間だ」
もうひとりのおれもいう。
「歌おうよ、『夏アド』。
きみたちとおれたちの歌声は違う。
ここから世界に響かせるんだ、きみたちだけの歌声。
もう二度と、『ニセモノ』になんかさせられないで済むように」
ミツルがどっからか愛用のギターを取り出し、軽くつま弾き始めた。
ソラが隣で驚く。
「えっいやミツル? 持ってきてたのそれ??」
「たしなみだから……」
「だよねっ!
プリーストはみんなの安らぎのため、歌ったりおどったりするのもおしごとだものね♪」
なんとルナまでニコニコそんなこといいだした。
ミライとミズキと手分けして、マイクをひょいひょい配りはじめる。
まさかライムはとみると、おれたちの愛用マイクを「はいどうぞ」。
おれたちどころか、一瞬前まで敵だった四人も「あ、はい」と受け取ってしまう。
「ようしよし! イリュージョンならおまかっせー!!
イリュージョン班、いっくぞーい!!」
「『まぁってましたあっ!!』」
アスカとシオンがイリュージョン・ボムで。ニノとバニーが幻影のわざで、虹の尾を引き駆け回る、ちいさなもふもふたちの姿をばらまいた。
「ヒャッハー! もりあげんぞおおお!!」
ソーヤも歌い踊る気まんまんだ。いや『もふロボ』のまま踊るのまあいいけど。
もちろん、ミソラさんは竪琴装備でニコニコ。
「ほら、ルカも。
このさいだから、ライムもいっしょに歌っちゃおう?」
ノゾミお兄さんは、なかばフリーズしているイズミとハヤトに声をかける。
「俺たちも覚悟を決めていくぞ!」
「はい!!」
「なんだよノゾミ兄ちゃん、全然へたじゃねーのにー!」
「苦手なもんは苦手なんだ!!
それでもやるからな。口パクなんかでごまかさないからな。今日は頑張る。頑張るんだからな!!」
イツカがまぜっかえすと、ノゾミお兄さんはむきになる。
エクセリオンに並ぶ男のみょうに悲壮感漂う宣言に、おれはくすっとなってしまう。
それは、むこうのおれたちもおなじのようで。
「じゃ、歌おうか!」
せーの、の合図のあとには、よどみなく歌声が流れてきた。
おれたちのそれとは違う、それでも魅力的で、もしかするとおれたちよりもうまいくらいに。
いつのまにかおれたちのまわりには、さきの六龍たちまでもが姿を現し、あるいはしっぽでぺしぺしと拍子をとり、あるいはともに声をそろえてくれていた。
おい、いったいどうすんだ、こんなイベントここでもってきちまって。
大丈夫、ルク戦はルク戦なりの戦いがあるのです!!
次回、ぼやくルクとそれをみるグランマでこの章シメです!
どうぞ、お楽しみに!!




