106-3 すべてを食らい食らわれる?『白兎銀狼』、捨て身の一手! ~ハヤトの場合~
オウリュウ。まったく、無茶苦茶な相手だ。
四方をつかさどる龍は、みずからの周囲の位置をも自由にできた。
おかげで俺たちの攻撃はすべてあさっての方向へ。奴の攻撃は、どこへよけてもこちらに当たる。
それでも、それを知ってなおこいつを相手に選んだということは、アスカにはすでに勝ち筋が見えているということだ。
前回の『謁見』での投降後、地下施設でアスカはこう語った。
『ズメイとベヒモスはね、ぶっちゃけイツカとカナタ対策だ。
けど逆に、イツカとカナタたちじゃなきゃ、あの二頭には勝てない。
おれがあのとき秒で投降をきめたのはそれもあるんだ』
それ『も』。つまり、この機会を利用してルク派のふところに入り込み、掌握するところまで考えていたのだ。
まったくもって、すさまじい頭脳だ。
だがそれは、弱いアスカの体に負荷を強いる諸刃の剣。
そこは、俺がフォローする。
そう、子供のころに決めた。
「アスカ! 第一覚醒で俺の中に入れ!
このままだと危ない!」
アスカは鉄壁の防御魔法で俺を守り、的確に回復を続けてくれているが、それでもオウリュウの攻撃は熾烈。
俺はアスカに、俺に憑依するよう言った。
「りょかっ!『精兎降臨』っ!!」
アスカも同じ気持ちだったのだろう。瞬時に光のうさぎに姿を変え、俺のうちにやどる。
そして、俺(と、ライカ)以外には聞こえない声で、語り掛けてきた。
『っしゃ、これでいける。
ハヤト、『スベテヲ食ラウ』でオウリュウの攻撃、かたっぱしから食いまくって!』
それを聞いた瞬間、俺にもアスカの描いた勝利の道筋が、クッキリと見えた。
俺は第一覚醒『全テヲ喰ライ全テヲ守ル』を発動。降り注ぐ攻撃の中に仁王立ちした。
この技は攻撃・防御すべてを吸収し、俺のチカラにかえる技だ。
もちろん限界はあるが、その限界は、俺に宿ったアスカ、俺の腕で補佐をしてくれるライカが引き上げてくれる。
『ぐぬぬう……どうなってるのじゃ!
かくなる上はっ……』
粘ること数分。オウリュウはしびれを切らし、俺に突撃してきた。
俺はライカを構え、至近距離から最大の一発を放つ。
「『グランドスラム・トライアド』!!」
『ふん、その程度予測しておったわ。
まったく、浅知恵ちゃんよのう!』
しかしそれはどこかへそらされ、俺はオウリュウの口の中へ。
だが、俺をかみ砕こうとしたことで、オウリュウにクリティカルヒットが入る。
『スベテヲ食ラウ』の効果だ。
よし。俺はそのまま、オウリュウの喉奥へと走ってゆく。
俺の意志のもと、踏み出す足の一歩一歩が、オウリュウに内側からのダメージを与えていく。
一分もしないうち、俺は虚空に放り出された。
そこにはチカラを使い果たし、チビの姿になったオウリュウがいた。
「はっは、負けた負けたわ!!
いやー、ワシはオヌシらを甘く見ておったようじゃの。
じつにダイタンな戦いぶりじゃった。
認めよう、オヌシらの勝ちじゃ。
遠慮なく先へ進むがよい☆」
白字に、金の縁取りのゆったりとした……というよりぶっちゃけダブダブの袍をまとった金の髪と目のチビっ子は、上機嫌にその場にぶっ転げる。
そしてそのままくつろぎ始めた。
どっからか取り出した、枕ほどもある大袋のポテトチップスを食いながら。
「…………マジか」
毎度毎度思うのだが、このセカイでチビになるやつらは、どいつもこいつもフリーダムすぎだ。
「ん? オヌシらも食うか? コンソメサワークリーム味サイコーじゃぞ?」
「えーいいの? っじゃもらう〜」
それはさっくりその誘いに乗るアスカもだ。
パンケーキとかアイスあるけど食べる〜わーい食べる食べる〜とやつらはさっそく意気投合。
まったく、かないそうにない。
だが、ただぶった切って終わりというよりは、こっちのほうがまったくいい。
俺は一つ息を吐くと、おーいハーちゃんもおいでよ〜なんぞと笑ってる相棒のもとへと歩き出した。
すっかりくつろいだやつらのむこうでは、いましも二つの勝負が終わろうとしていた。
次回、もふもふ弟キャラのジズ視点で描く、六龍戦のシメです!
ベヒモス、レヴィアタンとの戦いの決着は?
どうぞ、お楽しみに!




