104-4 燃えろライアン! 獅吼鯨波の最終戦!! ~ライアンの場合~
鯨波はたくさんの人が叫ぶさまを現す実在の言葉ですが、獅吼鯨波は造語です。そのはず。
もし違いましたら優しく教えてやってください((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
2023.06.24
一部表現を修正いたしました。
吠えた→吼えた
『双璧』なんぞと言ってもらってはいるが……
ぶっちゃけ言うなら、俺よりパレーナの方が強い。
冷静で頭も切れる上、俺は炎、奴は水。
だが。
『だからこそ、俺はお前の試練となれる』
そう言って、自らの願いに反する役目を受け入れてくれた大きな男に、だからこそいま俺は、勝たねばならない。
勝たねばならない、のだが。
「どうした! お前の本気はそこまでか!!」
ぶっちゃけいうなら俺は、苦戦していた。
やはり悪いのだ、相性が。
寄せては返す、大海の波を相手にしているかのよう。
打ち込んでは躱され、叩きつけては防がれる。
腕に脚に宿した炎も、水が相手では方なしだ。
そして、カウンターで飛んでくる攻撃はどれも的確。
じりじりと押し込まれていくのは、青く染まりゆくフィールドを見るまでもなく分かった。
パワーと頑健さでは、俺に利がある。ひとつひとつの攻撃を冷静に見定め対処するなら、けして勝てない相手ではなかった、そのはずなのに。
パレーナが大きく咆えた。四周のフィールドが荒海となり襲いかかってくる。
あっという間に波に巻かれ、青の底へと叩き込まれた。
まったく、相性が悪すぎだ。
やつは自然の力を味方につけ戦う。
対して俺の炎は、ただ俺に宿るソウルのチカラで生み出したもの。大自然の力を相手に、叶うべくもないのだ。
だが、それでも。
諦められない。あきらめたくない。
イツカたちとともに再び、地平まで続く平原を駆け抜けたい。
やつらとならばなにも怖くない、そう思えた小さくて大きな友たちと!!
心が叫んだその時、俺を取り巻く水が震えた。
聴こえてきたのはパレーナの声だ。
『そうだ、ライアン。
海は深い。俺は強い。
だが、それが何だ。
燃やせ、ライアン。
その、魂の炎を。
この会場を埋める者たちはなぜ集まった。お前が声を上げたからだ。
イツカとカナタを消し去った大いなるものの意志に、ソリス全体として抗うことを決めさせたのは、お前が最初に示した決意だ。
お前の炎は、俺たちを勇気づける。お前の勇気は、俺たちを引き付ける!
それ故にお前は、我ら六獣騎士の筆頭なのだ!!』
熱い熱い、熱い叫びが俺に火をつける。
深く水底に沈んでいるにも関わらず。
『燃えろ、ライアン!
水にも消えぬ炎となれ!!
お前を阻むものを焼き尽くせ!!』
そうだ。燃えればいい。
なぜって俺は、一人ではない。
聴こえてくる。俺を鼓舞する声たちが。
俺に燃えろと、熱い風を吹き込んでくれる。
愛する妻と娘の。ともに歩む仲間たちの。会場を埋める人々の。
オンラインにあふれる声援さえもが。
響いてくる。流れてくる。俺の身に心に直接。
そうだ。俺の炎は、こころの炎。
燃える燃える意志の力が、自然のことわりを超えて生み出した炎なのだ。
これだけのたくさんの意志が、情熱が、熱情が、願いが。
一身にくべられて、燃やせないわけがない。
そう、たとえ――
『たとえそれが、深い深い、海だって!!!』
俺とパレーナの声が重なったその時、炎は爆発となった。
瞬時にクリアになる視界。足元のフィールドは一面、朝日のいろに染まる燎原と化していた。
イツカ、見えているか。
お前と駆けるフィールドだ。
戻ってこい。
お前の望んだセカイは、ここにある!!
突き上げる昂りのままに、俺はそらに向かって吼えた。
一つまばたきをすると、世界は変わっていた。
我が妻コニーと娘ベル。未来の息子(仮)ルゥ。パレーナ。そしてソレア様が俺の顔をのぞき込んでいる。
いったいこれはどうしたことだ。
バックが青空。頭の下が柔らかい。ということは、俺はコニーに膝枕をしてもらっているようだが……。
「あなた!」「父さん!」「だいじょうぶ、どこもいたくない?」「TPBPなくなって仰向けに倒れたんですよ!」「ポイント補給と手当はしたんだれけど……」
説明と大丈夫を口々にまくしたてる妻と娘。かわいくていとしくて、腕を伸ばしてそっと抱きしめる。
「ありがとう、ふたりとも。
大丈夫、どこもいたくない。いま起きるよ。
ごめんなコニー。俺の頭、重かっただろう」
コニーはきゃしゃでか弱いうさぎトーテム。それなのに俺にひざまくらをしてくれるなんて。けなげな優しさに胸が熱くなる。
コニーは可憐に笑ってこういう。
「わたしならだいじょうぶよ。
でもパレーナさんが重いでしょうから、大丈夫なら起きてあげて?」
「なにっ」
慌てて飛び起き振り返れば、はたして俺に膝を提供していたのはパレーナだった。
何やら気恥ずかしくてキョドッてしまう。
いや、冷静に考えればそうなんだ。俺はでかくてコニーは小さい。サイズ的にちょうどいいのは、この中ではパレーナであって。
かくいうパレーナも気恥ずかしいようで「別に、重くはなかったが(ゴニョゴニョ」と目をそらして言っている。
なぞの笑いと喝采が押し寄せて、どうしようどうしようとなってしまった俺たちを救ったのは、ソレアさまだった。
「えー。いまの試合について裁定を下すよ。
はじめにフィールドを全染めしたのはライアンだ。その点からいえば、ライアンが勝者。
しかしその直後、TPBP切れでライアンがダウン。これにより、フィールドはパレーナの色に全染めとなった。
この場合、どちらを勝者とするべきか。ボクは思う……
もう、どっちも勝ちでいいじゃん!
つかパレーナ。全力でライアン応援してたよね?
全染めの瞬間一番に歓声上げてたし。
ボクがどんな裁定を下したとしても、もう起きることは一つしかない。
よって、ライアン。願いたまえ。
誰より熱く戦った、ボクの祈願者として」
何やら、目の中がじわりと燃えてきた。
あふれるものを隠すように俺は、わが女神の前に膝をつき、願いを告げた。
「わが女神ソレアよ。今ここにお願い申し上げる。
二人ずつのイツカとカナタ。その復活を。
彼らの歩みをわれら皆でたどり続けることを、平和への歩みを止めぬことを、このソリスの国是とさせていただきたいと」
「うむ。聞き届けた!」
ぱんと、わが肩に手が置かれた。
「いまこのときから、イツカとカナタたちの目指した世界が、ボクたちソリスのめざす世界だ。
誰もが望まぬ不幸に落ちることのない、優しくて平和な世界が。
この中つ国ミッドガルドを、みんなが幸せになれる場所にしよう!
そのためにも、イツカたちとカナタたちを復活させる。
ボクひとりのチカラでぱぱっとやっちゃうことは、残念ながらできないけれど、絶対絶対にやり遂げよう。
だいじょうぶ、きっといける。
だってここには、三人の『マザー』全員がそろってるんだからね!」
いつの間にやら、ステラ様とセレネ様もそこにおわした。
お二人ともまぶしい笑顔。
憔悴しきっておられたセレネ様も、どうやら元気を取り戻されたようだ。
よかったと思いつつ、ありがとうございますと今一度頭を下げれば、歓喜の声が大海の波のように打ち寄せた。
次回は閉会式です!
もちろん、ゲストは……
イツカナ復活、いよいよ迫ってまいりました。
どうぞ、お楽しみに!!




