103-5-2 Take Off! ふたつの夢をかなえるために! (2) ~ミルルの場合~
わたしは、正気を失ったことがある。
違法な3Sフラグメントをつけられて。
それは、当時イツカさん、カナタさんたちの敵だったメイさんが、ふたりを狙ってのこと。つまりはそれに『巻き込まれて』のことだったけれど……
お母さんは、わたしを群れから一度出すよう、ライアン様に進言したという。
『ミルルは良くも悪くも、注目を集める存在です。いずれまた、このようなことが起きぬとは限らない。
そのときに繰り返さずに済むように――あの子には、大きく強くなってほしい。このソリスの枠に、はまらぬほどに。
母として師として、お願いいたします。どうか、あの子にチャンスを』
母さんもライアンさまも、その場のみんなが、涙を浮かべてたと聞いた。
みんな、わたしを悪く思わないでくれていた。
それでも、群れを出ることになったのは、そういうわけなのだ。
そのおかげで、たくさんのお友達ができた。
わたしを迎え入れてくれた『シエル・ヴィーヴル』とは家族同然に。メイさんともまるで、姉妹のように仲良くなった。
イツカさん、カナタさんたちとも、お友達になれた。
だから、アルム島にもいくことができた。
わたしたちの恩人が困っているときに、たすけにいくことができた。
リンちゃんの翼を取り戻し、わたしの夢もかなえてもらった。
そして。
『なーなー、ミルルってキックちょーすげーよな!
なのになんで二段ジャンプとかしねーの?』
イツカさんのこのことばで、わたしは青空までも手に入れた。
もちろん最初は失敗もあった。着地に失敗して思いっきりころんだりもした。
けれどイツカさんたちは、あったかくわたしに手を差し伸べてくれた。
あの、おひさまみたいなまぶしい笑顔で。
イツカさんたちはいま、この空の向こう。
けれど、きっと見てくれているよね。
信じてわたしは、地を蹴り、宙を蹴り、空を蹴った!
「すごいすごーい! ミルル、多段ジャンプすっかりマスターしたんだね!」
「はいっ!」
ルリアさまはわがことのように喜んでくれた。
本気モードだから、両手は大きなスカイブルーの翼に変わってる。
それでもその翼をうちあわせて、ぱふぱふと拍手を送ってくれるのがすごくうれしい。
天空島に住む空の民には、気位が高い人が多い。
そんな風に聞いていたけど、ルリアさまはぜんぜんそうじゃなくって。
まるでふつうのお姉ちゃんみたく、接してくれる。
それでいてバトルの実力も、女王としての力量もすごくって。
ふと迷いが胸をかすめたけれど、一つ首を振る。
わたしはたしかに『村娘A』だ。後継者に指名されたとして、女王になれるかとうかは正直未知数。
でもこの勝負には、もっともっと大事なものだってかかってる!
わたしは再び大きくステップ。さらに高く跳ね上がる。
ルリアさまが追って高度を上げてくる。そうしながら風弾をどんどん撃ってくるけれど、わたしはかわしてかわして、高度を上げてった。
高く、高く。もっと、高く!!
「飛べない鳥だからって、そらをあきらめなくっていい。
猫ちゃんだって、跳んじゃうんだもの!
だからわたし、やってみせるっ!!」
バートさんが支援の歌を切り替えた。わたしたちに的を絞って、嵐のような乱気流が襲ってくる。
それでもわたしはまけないし、リンちゃんだってまけない。
語る声を遠見水晶に拾わせながら、舞うように私を追ってくる。
「懐かしいな、この乱気流。
私が翼を失った時によく似ている。
だが、わたしとて鷲家<アリオン>の女だ。
恐れはしないし、二度目もない!!」
言い切るリンちゃんの背中で、芽吹いたのは小さな奇跡。
キラキラとした蒼い輝きがはじけると、ルリアさまのそれにそっくりな、大鷲の翼がばさりとひらいた!
「リン!」
「リン様!」
「リンちゃん!! それ……!!」
わたしたちはみんな声を上げていた。もちろん地上からはどよめきが。
『これは――ッ!!
奇跡か、これは奇跡なのかああああ?!
リンの背中に開いたのはアリオンの翼!! 失ったはずの翼がまさかの復活!!
フォルカの翼とアリオンの翼、二翼を抱いたリンが翔ける――!!』
ルゥさんの実況はもう絶叫。
あとで、のどあめあげなくちゃと思いつつ、追いついてきたリンちゃんと手を握り合った。
「いこう!」「うん!」
乱気流はもう止まってた。
ルリアさまが笑って両手を大きく広げる。
「おいで!
その一撃で倒せたら、ふたりが未来の女王だよ!!」
「「はいっ!!」」
リンちゃんが空いてる左手で、腰のホルスターから銃を抜き、後ろに向けた。
これはさっきまで使っていた銃とはべつのもの。カナタさんたちに教わってアークさんがつくってくれた、『錬成銃』だ。
リンちゃんが引き金を引くと、わたしたちの後方から、薄色の光とともに、ぐんと押し出すチカラがやってきた。
わたしたちの後ろに浮かんだ斥力の陣におされて、わたしとリンちゃんはおもいっきり突撃。
リンちゃんは二つの翼ではばたいて。わたしは、エミューの脚で宙を蹴って。
ふたりの周りに、キラキラの闘気をめいっぱいにまとって。
「いきますっ!!
『0-G、ツインスター』!!」
飛び込んでいった。
イツカさんとカナタさんになったつもりで。
ルリアさまはそんなわたしたちを、闘気ごとぎゅっとだきしめてくれた。
特大のダメージポップアップが花火のように上がって、わたしたち三人はそのまま地上へ――
と思ったら、ふわんと吹いてきた風にまかれて、無事に着地することができた。
もちろんこれは、バートさんがフォローしてくれたのだ。
ありがとうございました、とお礼を言うと、バートさんはどこからかとりだした眼鏡をかけなおしながら、こういった。
「まったく、まだまだでございますね。
帰ったらきっちり鍛えなおしますよ、お三方とも。
――空の民の未来を担うものとして」
最後は笑顔で、丁重な一礼とともに。
これってば、これってば。
「……認められたみたいね」
「ほんと! うわああ!! うわああああ!!」
もう感激でうわあああしかでないわたし。
「え~あたしも修行なのー?! あたし別にあのまま落ちてもダイジョブだったしー! ふたりのっけてるぐらい何ともないしー!」
そして軽口をたたくルリアさま。
あれ、もしかしてそれって、倒せてないんじゃ……
そんなちいさな疑問は、万雷の拍手が吹き飛ばしてくれた。
ノリはだいじですね!!
日向も猫にクラスチェンジする夢をあきらめないでおこうと思います。
そして、エミューの卵がびっくりするほど鮮やかな件。
結論:このあとがき、ノリしかねえ
次回、天空城から見守る侍従長セバスチャンの独白の予定にございます。
どうぞ、お楽しみに!




