Bonus Track_103-1 海の上、空の彼方に届けと祈る〜ユリの場合〜
パターンは、我々の時とおなじ。
すなわち、僚隊をよそおい任地へ。そしてそこで牙をむく、というものだ。
だが、それは通用しなかった。
ひとつには、あの時と違い、月萌軍内における管理派――ルク派のチカラが衰えていたためだ。
もはやライカの助けを得る必要すらないレベルに、その動向は筒抜けだった。
襲撃のタイミングは、ゲスト戦終了時。
試合を終え、女神のデュエル・フィールドが解かれたとき。
対戦者と握手する子カモシカたちを、もろともに狙撃する、という作戦だった。
あのおっとり優しく、かわいらしい二人に銃口が向けられるなど、本音を言えば穏やかなものではない。
しかし、疑義が出るのもよろしくない。
ということで、ソリステラスの協力も得て『泳がせるだけ泳がせ、現行犯でまとめて網をかける』こととなった。
それゆえに我らは、警戒しつつ第一試合を見守ったのだが、その素晴らしさは我らみんなの心を撃ち抜いた。
突進と見せかけて、ぴょん。
ハルオミ君が青空に大きくはねれば、魔法のように広がるお花畑。
するとハルキ君は、白の装束に黄金の角と剣を持つもふもふ聖騎士に。
同時にハルオミ君の装備も、おなじデザインラインの賢者ふうにかわった。
兄弟そろっての第二覚醒。やっとおとずれたそれに、わたしも歓声を上げてしまった。
そのときにはすでに、ステファン殿の森がだいぶ広がっていたけれど――
ハルオミ君が跳ね回るたび、ふわりとすがすがしい風が吹き、そこを不思議と山フィールドに変えていくのが、光学映像を見ているだけでわかった。
「はぁ~……心洗われるわ~……」
「いっそ、このまま、襲撃なんかやめてくれりゃいいのにね……」
けれど我々は知っている。
『敵』も、そんな気持ちに流されないよう厳しい訓練を積んできたということを――我らとおなじように。
彼らが折れるとしたら。折れることができるとしたら、われらと同様に、存亡の瀬戸際に立った時だけだ。
だから我らは、手加減も容赦もしない。
全力で打ち破り、そして生きたままとらえる。
われらが聖王たちが身を賭して、そのやりかたを貫いたように。
そうしてわれらを救ってくれたように。
白熱の勝負が終わり、デュエルフィールドが解かれた。
ステファン殿とルー殿、ハルオミ君とハルキ君が握手を交わす。
そのときだ。となりの『僚艦』が動いた。
手はず通り、障壁展開。慌てることはない。彼らの主砲、機関砲、遠距離狙撃砲はもはやまともに機能しないのだ。
果たして、われらが展開した守りの障壁の表面に弾けたのは、とりどりの花火だった。
もちろん主催者側にも話は通っている。蝶ネクタイのうさみみ司会者は、面白おかしくまとめてくれた――あくまで、サプライズの演習ショーということにして。
拍手の中、ぽかんとしている『僚艦』を拿捕して曳航。ソリス領海をぬけだし、待ち受けている月萌艦戦に引き渡せばミッション・コンプリートだ。
月萌内では、かれらにつながる上官たちも捕縛されたよう。
その報を聞かせれば、怒鳴り散らしていた者もおとなしくなった。
我らの任務が終わるまで、あと少し。
かもめ島に帰投したら、この試合からもう一度見よう。
会場の様子を写したモニターから、軽快なサウンドが流れてくる。
しろくろレモン・おこんがーによる、インターバルミニライブが始まったのだ。
次の試合がおわれば今度は、ステラのアーティストが。
その次はソリスの歌い手が登場。なんとトリにはソレア様御自らが歌声を披露する予定だという。
「試合も楽しみだけれど、ショーも楽しみだなあ~」
『それな!』
「俺らがこんな気持ちになれるのも、イツカナさんたちのおかげだよなあ……」
「お礼、言いたいですね……」
だれかがぽつんと言えば、しんみりとした雰囲気がブリッジを包んだ。
失ったと思ったしあわせを、取り戻してくれたイツカさん、カナタさんたちは、だけどいま、ここにはいない。
それでも。
「大丈夫だ、皆。
希望はまだある。
今度は、わたしたちがお助けする番。
今日の任務はその一環だ」
わたしの言葉に、みんながうなずいてくれた。
ブリッジの窓越しに見上げれば、空は青く、青く晴れ渡っていた。
この向こうにいるはずの心のあるじたちにむけ、わたしは小さく、祈りを捧げていた。
イツカさん、カナタさん。
そちらから、見えているでしょうか。
わたしたちは今日もがんばります。
あなたたちがお帰りになる、その日まで。
次回はミニライブをはさんで第二試合開始の予定です!
どうぞ、お楽しみに!




