103-3 VS森の鉄壁コンビ! ハルハル兄弟、さらなる覚醒!! ~ハルキの場合~
ステファンさんたちに続き、残りの出場者たちもぞくぞく出揃った。
実況者席では、黒の蝶ネクタイでビシッと決めたくろうさ司会者ルゥさんが、オーバーアクションとともに全員を紹介してくれる。
『ではでは! 改めて本日のカードを紹介いたしましょう!
第一戦はゲスト枠! みんなだいすきハルハル兄弟が挑むのは~、『森の守護者』ステファンと~、『燎原の覇者』ライアン代行ルーによる、鉄壁森林コンビ!』
ステファンさんとルーさんが上品に一礼。
俺と兄貴も『よろしくお願いします!』と一礼した。
温かい拍手と歓声が包んでくれて、ちょっぴりほっとする。
『第二戦は華やかに! 蒼穹の女帝ルリアとその執事バルトに少女二人が挑む!
苦闘の末に翼を取り戻し、アリオン家公女に復帰したリン、そしてその大親友たる名誉貴族ミルルの友情タッグだ~!!』
ルリアさんは「いえーい! 応援よっろしくぅ!!」と華やかに両手を振り、その後ろでバルトさんがビシッと渋カッコよく一礼。
対してリンさんは堂々と、ミルルさんは初々しく、手を取り合って一礼だ。
美女と渋オジと美少女ふたり。見た目にも華やかなカードは期待満点で、アイドルコンサートみたいなコールが上がる。
『第三戦は異色の勝負! うさちゃんどうしのガチンコお料理バトルッ!
兎<アルネヴ>家長クローリン代行・クロートーちゃんに挑むのは、愛称ベル!
なんと! 死んだと思われていた猛将ライアンの愛娘、ヴェールちゃんだあ!
かつては名うてのポイズンクッカーだった美少女二人の対決、いったいどんな料理で魅せてくれるのでしょうかッ!!』
ノリにまかせて余計なことを口走ったルゥさんはさっと青ざめた――くろうさ美少女クロートーさんと、しろうさ美少女ベルさんが、ふたりそろっていい笑顔で親指を下に向けたのだ。
笑いの渦の中、咳払いとごまかし笑いでなんとか立て直したけれど、このあと彼を待ち受ける運命を思うと、無事を祈らずにはいられない。
『そしてっ最終戦はガチ中のガチ!!
夢のために六獣騎士の座を捨てた熱い漢と、あえてその座にとどまり試練を与える大親友による全力バトル!!
ライアンVSパレーナ!!
これで燃えなきゃソリスじゃねえぜぇ!!』
かたや、でっかくてモロ強そうな、赤い獅子のような漢。かたや、長身でしゅっとした、白い装束の貴公子。
みため反対の二人が、視線をかわしてバチッと火花を飛ばせば、『戦いの丘』は沸騰した。
熱い熱い盛り上がりのままに、俺たちの第一枠がはじまった。
輝く太陽の下、互いに大きく、距離50mを取り合ってのスタートだ。
あちらの得意フィールドは森。対してこっちは、山。
まあ互いに山も森もダメではないんだけれど、俺たちが勝つには兄貴の『山、笑う』の地形隆起技で、森による地形効果を奪いかつ、崖上に持ち上げて『足』を奪うしかない、というのが事前の分析だ。
もちろん、初手でルーさんは突撃してくるだろう。それをはばむのがこちらの初手となる。
よって兄貴は、最初から覚醒技を発動した。
「とばしていくよー!『山、わら――」
そのとき、ズン。重い衝撃が俺たちを襲う。
ルゥさんが流れるようにバトル実況を開始した。
『さあスタートしました一回戦、最初の読みあいはステファンに軍配があがった――!
ハルオミの覚醒技『山、笑う』発動中断! ここからどうでる、ハルハル兄弟!!』
ステファンさんだ。杖を地につき発した衝撃波で、初手をつぶしてきた。
彼女はしかしそれ以上の衝撃をよこしては来ず、その場で歌い始める。
『~♪ ~♪♪~』
暖かく、よくとおるその声。どこかなつかしいメロディ。
聞き続けていたい気もするけれど、それは愚策だ。
『ステファン心にしみる歌声。だがこれはただの歌じゃない。
森の民が得意とするソウル『シンクロシャント』。
同じ歌を歌いあうことで互いを強化、精神感応で結ばれる強力ソウルです。
その効果は確かだ! ルー走る、あっという間に二人に迫る!!』
小さく、同じメロディを口ずさみながら、ルーさんが走り出す。あっという間に距離が詰まる。
これは無理だ。『山、笑う』を再発動しても、山の成長を待つ猶予はない!
兄貴も同感だったよう。とっさに作戦を切り替える。
昨日大急ぎであつらえたアイテム――狼族特効の忌避護符をすぱっと切った。
「『ウルフ・リペランター』!」
ルーさんの目の前に、避雷針を立てたテントのような結界が顕現。ルーさんは整った眉をほんの小さく寄せてパッとサイドステップ。
その一瞬があれば充分だ。俺たちは大きく跳ねて距離を取る。
着地点は、俺が兄貴よりルーさんにわずかに近い。俺を狙わせ、兄貴に『やまわら』発動の時間を与えるためだ。
はたしてルーさんは俺に向かってきた。
がきり、剣とかぎづめが交錯する。
「か弱き草食獣でありながら、みずから前に立つのですか。
何が君を、そうさせる?」
この人は、俺より強い。改めて実感した。
問いかけてくる声に全く呼吸の乱れがない。
この人はいうなれば、ノゾミ先生タイプ。
ソリスの野郎にしては細く見えるのに、鋭く重い一撃をぶつけてくる。
長く打ち合えば、腕がしびれてしまうだろう。
それでも俺はまっすぐに、金色の瞳を見上げた。
「信じてるから!
兄貴ならきっと、やってくれるから。
俺たちの、夢への道をつないでくれるから!!
だから俺は、前に立てる!!」
「いい答えだ!
なら、超えて見せよ、俺たちを。
想いの強さを証して見せよ!!」
「はいっ!!」
ルーさんが歌をやめたことで、『シンクロシャント』は解除となった。
しかしその身にはまだ、ここまでで積まれた強化が残ってる。
その効果が切れるまでに決着をつけるつもりだろう。ルーさんがラッシュをかけてくる。俺は必死で食らいつく。
油断をしたら食われる。わかっていたが、俺は兄貴に声をかけた。
「兄貴!『やまわら』やって! その間くらいはしのげるからっ!」
「で、でもっ!」
そう、兄貴は全力で俺にアイテムを投げまくってる。
そうしないとやられるからだ。覚醒発動の余地なんかない。
一方ルーさんの後ろで、ステファンさんは歌い続ける。
彼女の周り、乾いた大地からつぎつぎと緑が芽吹く。ぐんぐんと成長するそれは、ステファンさんとルーさんを支援するための森になっていく。
「だめだよ! このままじゃ! ちょっとのダメージくらいいいからっ!」
「きーくんっ!!」
兄貴の声が湿ってる。ウルウルした目が目に浮かぶようだ。
それでも、兄貴は。
「ううん。俺はあきらめないよ。
きーくんを守るのも、きーくんを強くするのも!!
たああああ!!」
なんとおれにアイテムを投げつつ、こっちにむけて――否、ルーさんにむけて走り出した。
一瞬ルーさんの注意が俺からそれた瞬間を、兄貴は見逃さない。
「第二覚醒!『山、滴る』っ!!」
兄貴が大きく大きく跳ねれば、さわやかな高山の風が吹く。
その足が踏んだ場所から、魔法のように、緑が広がる。
ステファンさんの森の植物が固く根を張っているためだろう、地形の隆起はほとんどない。
それでもそこには、『山、笑う』のとき以上の花々が咲き乱れた。
青むらさきのしっとりしたリンドウ、燃えるようなピンクのアルペンローゼ、つやつや黄色いバターカップ。
――そして、白くてモフモフの姿が可愛いエーデルワイス。
その可憐な姿を目にした瞬間、とくり。胸の奥から、熱いものがわきあがってきた。
『俺の名を呼べ。お前はもう、知っているはずだ』
遥かな峰々のうえから、あいつが俺をじっと見て告げる。
真っ白な毛並み。金色のツノ。沸き立つ血潮をもった、伝説のシャモアが。
その名は、何の迷いもなく口から滑り出し、この身をやつと同じに変えた。
『金の角』。
白く輝くエーデルワイスから、無限の活力を得る神獣。
そのときはじめて俺の剣が、ルーさんのかぎづめを跳ね返した。
やっと例のあいつの名を出せましたε-(´∀`*)ホッ
しかし、まさかルゥさん(うさ)とルーさん(おおかみ)が一緒に出ることになろうとは……不覚っ!!
そして、前半は前回に入れればよかったですね。あー、書籍化するときには(できたらいいなー)
次回!
この試合の決着ならびに、ハルハル兄弟を狙った人々がどーなったかをユリさん視点で描く予定です。
どうぞ、お楽しみに!




