102-4 屈しない! リュウジとイワオと家族の絆!!
リュウジさんはうさちゃん装備(立ち耳・クリーム色)です。
しまってますが。
閣議の場に到着すればすでに、二派にわかれた閣僚たちがにらみ合っていた。
多忙と分かりつつも緊急招集をかけさせてもらった『イワオキャビネット』と、ルク派の手になる『ルクキャビネット』だ。
後者の先頭にいるのは、アオイ・タカシロ――さきほど俺に再就任をと持ち掛けた男。
やつは俺を見つけると、ぱっと顔を明るくして声をかけてきた。
「首相! お待ちしておりました!
あなたからも何とか言ってやってください。
彼らはもうここにいるべき人間じゃない。なのにリュウジさんに呼ばれたからと議場を占拠して譲らないんです。
リュウジさんはわれらが人事案を受け入れて首相を代行くださった、そう何度言っても聞かないんです」
「…………ふむ。
もういいぞ、皆」
俺は『イワオキャビネット』のメンバーに向き直った。
後ろでアオイらが勝ち誇ったような顔になるが、構わず俺はつづけた。
「結果の明らかな言い争いを続けなくとも。
俺がお前たちを呼んだ。ここにいるべきは、お前たちのほうだ。
さあ、席についてくれ。仕事を始めるぞ」
「はあああ?!」
『ルクキャビネット』の連中が声を上げる。
アオイが食って掛かってきた。
「ちょっと! どういうことです。あなたは……」
「私は首相代行を引き受けた。が、お前の言う人事案を容れるとは一言も言っていない。
そもそもその『案』すら、提示されていなかったのだからな。
もっとも……」
俺は『ルクキャビネット』らに向き直った。
「提示されていたとしても、それは却下していたことだろうが。
現状を支えるものには強いカリスマが必要だ。それはアオイ、お前も言っていたな。
では冷静に比較してみよ。お前の選抜したメンバーと、『イワオキャビネット』のメンバー。個々の力量を比較して、よりカリスマを有するのはどちらだ?」
そう、彼らはすべて、『護国派』コアとそのちょうちん持ち。
あきらかに経験・技量で劣るにも関わらず、党派への忠誠心だけで選抜されたメンバーだということは明白だ。
『護国派』の力の源――『御大』が地上にいる頃ならば、それでもまだ通用したことだろう。しかし。
「もはや『御大』は、『御前』は『いない』。
その後ろ盾を得ることは、誰にもできないのだ。
彼らは、月におわす大いなる女神の御許に『還った』――俺は、それを確認している」
そう、俺は見たのだ。
ライカ分体を通じてではあるが、同じ月の上で。
二人が、どうなったのか。
あの二人がメールや通話にこたえることは、もうない――少なくとも、この『ゲーム』が終わるまでは。
アオイは、不気味に笑い始めた。
「わかっているさ。
そんなことは、とっくにわかっている。
あのお方はわれらに最後にメッセージをくださった。
われらが同志よ。われらが日々を忘れるなかれ。ひとりひとりが鮮烈な志を胸に、我らが道を、歩みを続けよ。わたしは常にあの月から見守っている、大いなる女神の一部としてと!
忘れん。忘れんさ。あの御方のこと。聖務のために、ともに闘った日々。
そうさ。
『御大』が大女神の一部となったなら!
俺はこの胸に抱いた志をもって、『御大』の一部に、その代行者になるッ!!」
宣言と同時、やつが頭部に帯びていた表面換装が霧散する。
姿を現したのは、御大と同じ色合いの銀髪、そして、紫の双眸。
ルク・タカシロと同じ色彩をまとったアオイは、大きく腕を広げると、さらに大きく笑い声をあげた。
「見よ!! 『御大』の威光はここにある!!
リュウジ・タカシロ! われらが意を受け入れぬというなら、われらはお前を排除する!!」
同時に、ルクキャビネットの連中が全員武装を帯びた。
われらと、議場入り口――すでにしっかりと閉ざされていた――の間に立ちはだかり、一人も逃さぬ構えだ。
「衛氏を呼ぼうとしても無駄だぞ。詰め所にはすでにわれらが手のものがっ?!」
その瞬間、バン、ゴン。
入口扉が吹っ飛ぶ。ほぼ同時に、アオイの頭にげんこつが降った。
「神聖なる議場で暗殺未遂とはいい度胸だな、アオイ?」
でっかいこぶしを握ってにやり笑いを浮かべていたのは、びしりとスーツを着込んで、しゃきっと背中を伸ばしたイワオだった。
「なっ?! ゴジョウ!
お前、どうしてここにッ?!
腹を刺されて……」
「おお、確かに刺されたが、傷は浅いぞ!
ワシの腹筋はナイフよりも分厚いからな!!」
「はあああ?! じゃあなんでわざわざブッ倒れて搬送なんかされたんだ!!」
「俺が言っておいたのだ。
こういうときこそ膿が出る。出しきってしまうなら、良い頃あいだからな。
ことを急ぎすぎたな、アオイ」
俺が種明かしをすると、アオイはブチ切れた。
「くっそおおおお、この陰険うさぎ野郎ッ!!
いやまだだ、まだこちらが有利ッ! 片づけるぞ!!」
パチリと指を鳴らせば、衛氏控室のドアが開き、なだれ込んでくるアオイの手のもの。
ただし、彼らは議場に入るとそのまま床に伏す。そう、すでにノックアウトされていたのだ――頼れる金銀の番犬によって。
「はあっ?! なぜだ、どうやってたった二人で十人を!!」
すでに武装を帯びていた『銀』――ケイジがきらりと白い歯を光らせて笑う。
「どうやってってアオイさん、オレの覚醒技、忘れたんですか?
『プラチナガイスト』は全周吹きとばし技ですよ?」
「そそっ! 俺もついでにぶっとんだけどそこはごほうびってことで!」
鬼耐久の持ち主たる『金』――ユキテルもニコニコと笑う。
「ふん! とっくに守衛室から増援を呼んであるわ!!
お前たち! 全員片付けろっ!!」
『ほほーう片づけちゃっていいのね? それじゃーえんりょなーく♪』
バタバタとわざとらしい足音を立てて議場入り口から駆け込んできたのは、ライカ。
なんと、レインも一緒だ。
「レイン! おまえ……」
とっくに成人した息子を相手に何だが、俺の胸に沸き上がったのはまず心配だった。
レインは優しすぎるくらいに優しい子だから。
だがレインは、最高のイケメンスマイルでこう言ってくれた。
「ご心配なく、父上。
あの闘いをきっかけに、わたしも覚悟を決めました。
父のピンチに黙っていたら、息子の名折れです。
母上も姉上も、いらっしゃることですしね」
「ひっ?!」
レインの後ろから現れたのは、我が愛する妻と、三人の娘たち。
アオイたちがその瞬間青ざめた。
そういえば、と思い出した。
我が妻クラウディアは、われら同期でぶっちぎりの最強だった。
ぶっちゃけ俺も、初試合では十秒持ちこたえるのがやっとだった。
それがきっかけで、彼女と俺は結婚することになったのだが。
そんなわけで、ルク派残党によるクーデター未遂は幕を下ろした。
アオイたちは捕縛。イワオはそのまま首相席へ。
俺は、イワオに直訴を行った。
「首相。我が策にて前途を掃き清めた功をもって、ひとつ直訴をさせていただきたい。
いまは地下にてとらわれし、我らが若き仲間のことだ、……」
そのとき、館内スピーカーを通じて、懸念の源だったものが流れてきた。
我が甥、アスカの歌声だ。
ああ、遅かったか。
あの子は仲間達のためにと、望まぬ歌を歌うことを受け入れてしまったのか……
「ん?」
だが、数節聞いて俺たちは顔を見合わせた。
違和感、違和感、違和感しかない。
それは、なんとも『奇妙』な歌だったのだ。
次回! 本家うさぎ策士の逆襲!!
どうぞ、お楽しみに!!




