Bonus Track_102-1 大いなる意志を継ぐもの~とある立国党議員の場合~
ヒント:イワさんは大丈夫です。
『速報です。先ほど高天原市街において、イワオ・ゴジョウ首相が支持者を装った男に襲われ、緊急搬送されました。
男は刃物のようなものをもったまま逃走を図りましたが……』
流れてきたニュースに、笑みが浮かんだ。
われらがエージェントは、うまくやってくれたようだ。
イワオ・ゴジョウ。彼のことはけして嫌いではなかった。明るく、開放的で、われらがペーペーの新米だった時でもけして威張らず、いつも親切にしてくれたものだ。
ともに元首相リュウジ・タカシロを支え、月萌の明日のために働いた同志だった。
肩を組んで酒を飲んで、騒いだ日だってあった。
それが、いつのころからか。あの猫どもに肩入れするようになった。
大切な時に月萌を離れ、武者修行と称してやつらにけいこをつけてやってまでいた。
そして、昨日。彼は決定的な裏切りを犯した。
御大の意に逆らい、再びの戦時体制宣言を拒んだのだ。
戦意高揚イベントからの、ふたたびの開戦に持っていくためにも、必要不可欠なモノであるというのに。
敬愛の念も親しみも、まだ鈍く胸を刺してくる。けれど、敵となってしまったからにはやらねばならない。
彼の開放的な性格を利用した。行きつけのオープンカフェで一服しているところに支持者を装って近づき、刺してこいとエージェントを送った。
仕損じることはない。彼はけして『くぐつ』を使わないからだ。
われらの犯行とばれる心配もない。高天原の治安維持への不安をあおりすぎぬようエージェントにはその場で捕縛されるよう指示したが、やつも使い捨ての体を使う者。取り調べ開始とともに肉体は解け去る。かりそめの脳内にあった情報も、きれいさっぱり消えてなくなるのだ。
もっともそこに残されているものも、別のエクスペンダブルズが情報を渡すところであり、われらにたどり着いてしまうことは万が一にもない。
もっとも、われらであろうと考えるものはいるだろうが。
そのうちひとりは獄中に。いまひとりは、これから会って話す。
私は何食わぬ様子で、ゴジョウ総理の見舞いに駆け付けた。
そしてすでに枕元にいたリュウジ元総理に『少しだけお時間を』と持ち掛けた。
私はそして、元総理に頭を下げた。
党首・総理の代行としてのゴジョウさんが倒れるという緊急事態。一時的にとはいえ、後を支えるものには強いカリスマが必要だ。
党内で頼れるのは、あなたしかいない。ゴジョウさんに後を託したあなたならば納得も得られるだろう。人事案も練ってある。どうか引き受けてはもらえないか。
それに総理としての権限をもってすれば、アスカくんたちの処分も軽くできるだろうと加えれば、元総理は『……わかった』とうなずいてくれた。
のちほど官邸で。約束して店を出れば、またしても朗報が飛び込んで来た。
アスカ・ハギノらも説得に応じたというのだ。
もっと粘るかと思っていたのだが、ミツル・サヤマを作曲者にという条件と引き換えに、われらが認めた歌を歌うことになった。
『しろくろ』とレモン様には逃げられてしまったが、『白兎銀狼』『うさもふミライ』も今人気絶頂のグループ。彼らが歌うならば、けして負けはしない。
彼らの歌声で、月萌の戦意を高揚し、聖戦を再開するのだ。
すべては聖なるミッションのため。
女神のみ元に仕えることとなった御大のご意志は、われらで継いでゆくのだ。
次回、不屈のリュウジとイワさん。そして、不滅の家族の絆。
アスカの策もちょろっと出ます。
どうぞ、お楽しみに!!




