101-X 神前のリベンジ――そして審判は
「あなた方は、世界の人々を愛している。己を、その夢を、犠牲にすることができる。
ほんとうに、そうですか?
だったらなぜ、ここまで話を引っ張ったのです?」
「ほう?」
ひくり。ルクの片頬がひきつった。
どうやら、一度『少年ルク』として怒りをぶちまけてしまったことで、沸点が下がったらしい。
ならば、勝機はある。
あちらの構成は圧倒的だ。おれやイツカが先頭に立ち、みんなに最大限の協力をしてもらっても、やっと勝てるか勝てないか、むしろムリゲーと言いたいレベル。
それでも攻め手はあった。
向こうのメンバーは、女神の加護で出現した召喚獣、ビーストモードの獣人たち、動かないGMと、動けないセレナ。
つまり、頭脳となるのはルクだけ。そこを制してしまえば、どれほどのパワーもあってなきがごとし。
おれはあえて冷徹に、痛い――と思われる――部分をえぐっていった。
「あなたは、若き日に『前世の約束』を思い出した。
それからその身に『虚飾』を宿し命永らえ、陰から月萌のため働き続けてきた。
でもなぜ、アースガルドに転生することはなかったのですか?
使命に気づいたそのあとに、何度でもそれを思うことはあったはず。
あなたはそれだけの力量をはぐくんでいた。後を任せられるはずのひとたちだって周りに何人もいた。
にもかかわらず、それを考えなかったのはどうしてですか?」
「…………。」
「ソラ――カケルを、ホシノ博士主催の3S多重憑依実験に。ミツルを、その副作用の矛先に。
平気で、かどうかは知りませんけれど、かつての仲間をあなたは犠牲にしてきた。
彼らを犠牲に成果を出して、それで充分とそう、思われたのですか」
ああ。言葉にしておれも思った。
これまでのことどもに対し、おれも、普通に、怒っているのだと。
「世界の人々を愛している。
というのに、シオンやイズミたち。その前から、何人もの生徒たちを。
学園闘技場で、『イケニエのウサギ』にし続けてきた。
胸くそのわるい見世物にして戦費を稼いだ。実習と称し過剰な労働をさせた。
心身をすり減らして動けなくなれば地下に送り込み、幸せでよかった人生を搾取した。
そのうち何人かは、愛する女性におもちゃとして買い与え、使い捨てるに任せた」
ぶっちゃけ最後はイザヤとユウのことだ。ソラの目が鋭くなる。うつむいたままのセレナの肩がぴくんと震える。
すでに反省しているだろう、今の彼女には気の毒なことだが、避けるわけにもいかなかった。
それでも彼女をそれ以上責めるつもりはないのだ。そこのところはハッキリと言葉にしておく。
「ルク・タカシロ。なぜ、そんなことをしたんです。
セレナさんに、ひどいことをさせたんです。
『うさぎ』たちを犠牲にしたんです。
愛しているのじゃ、ないのですか?」
「……セレナを悪く言うな。それだけは、許さないぞ」
ふたたびルクが、少年のように顔をゆがめる。
ぶっちゃけ、整っているだけに怖いものだが、睨まれたって引けない、引かない。
おれは言葉をつづけた。
「ええ、彼女はすでに反省しています。
ですから、それ以上をいうつもりはありません。
逆に、あなたはどうなのですか?
『保護者なら』どうして彼女を止めてあげなかったのです。
そのことをすこしでも反省してはいないのですか?
いるのならなぜ平然としていられる。開き直って他人ばかりを責め立てている」
そのとき、優しい手がおれの背に触れた。
ふたつ。ミライと、イツカだ。
ふっと肩の力が抜けた。
みれば、もうひとりのおれもおなじよう。
一つ息を吐くと、冷静さをとりもどした口調できっぱりと言い切った。
「そうしてだだをこねていればだれかがどうにかしてくれる。犠牲になってくれる。
おれたちに言われたのはそんな、甘ったれた子供の論理にしか聞こえない。
おれたちのそれは偽善だといわれましたが、あなたから聞いたそれは、身勝手にしか思えません」
するとルクは鼻で笑った。
「……ふむ。きみたちが今しているのは、話者本人への個人攻撃というわけか。
それは詭弁というものだと、きみたちは学校で教わらなかったのかね?」
もちろん、返すことは一つだ。
「おれたちは倣ってみただけだったのですけれどね。
月萌の義務教育、そのありかたにも責任があるはずのお方のおっしゃりように。
それは詭弁なのですね。やはりそうでしたか。
では、ここからは詭弁なしでお話をしましょう。
たとえ互いに反感を持っていたところで、それでもおれたちにはしなけりゃならないことがある。
全力で、力を合わせて。
救いましょう。アースガルドも、ミッドガルドも、そこに住むすべてを」
最後はちょっと、イツカにならってみた。
やつもそれに気づいたみたいで、黒ツヤしっぽがぴこんとした。
けれど、おれが伸ばした手は叩き落されることになる。
「知っているかい、少年。
話し合いをするかどうかは、強い者が決めることなんだよ。
殴って従わせられる程度の相手と、話し合いをするバカはいない!」
ルクが高々と笑えば、彼の配下が動き出す。
「GMよ、はっきりとした。
やつらはミッション『エインヘリアル』を頓挫に追い込もうとしている!
だれより最もミッションのために働いてきた、このわたしを翻意に追い込もうとすることで!
さあ、大いなる女神よ。今こそ審判を!!」
GMが、玉座を立った。
そして彼女が右手を掲げれば、謁見の間は光に包まれた。
次回、審判の行方。
1-3日中に『書けたら投稿』になります!
(さすがにここで正月特番やれないので、そのあたりはいずれ改めて!)
どうぞ、お楽しみに!!
今年も皆様に大変お世話になりました。
来年もどうかよろしくお願いいたします!!




